ep.50 屋上に住まう悪魔は鬼面仏心
楽しかった冬休みも幕を閉じ、
いよいよ三学期も始まった。
一人の少女を傷つけた過去を持つ彼は、
孤独に、あの場所で寝そべっていたー……
☆真純Side☆
俺の父は元ヤンだった。
元、と言うには程遠いほど乱暴で、口を開けば暴言、逆らえば暴力。そんな日常が当たり前だった。
家はいつも酒やタバコ臭く、パチンコやギャンブルばっかりで家にはほとんど帰ってこなかった。
そんな父をよく思わなかった俺は、物心着く頃から奴を殴ったり、蹴ったり……あらゆる抵抗をしていた。
「お願い、真純……どうかその拳で、罪のない人を傷つけるのだけはやめて……真純のこの力は、誰かを守るために使いなさい」
父との喧嘩で、毎日傷をつける俺の姿をみていられなかったのだろう。
俺と同じ、いやそれ以上にぶたれていた母が、ボロボロになった手でぎゅっと握り、俺にそう言った。
優しく、か弱いながらも常に母は笑顔だった。
そんな母はやむなくして他界。そこから父は姿を消した。
一人でも生きていけるようになれ、そう言い残して。
いつしか俺は、最低限の生活が出来る程度になっていた。
それでも周りは学校をサボったり、肩が少し当たったりしただけで暴力沙汰を繰り返すガラが悪い奴らばかり。
そんな俺が母の言いつけを守り、あまり喧嘩をしなかったのは、父の行いをよく思っていなかったからなのだろうか。
少なくとも、そんな親から生まれ、危ない連中に付き合っている俺に近づく奴はほとんどいなかった。
ただ二人の人物をのぞいては。
「君、巷で有名な不良の一人なのだろう? その割にはどこかその拳を使うのに躊躇いを感じる。せっかくの力、宝の持ち腐れだと思わないか? と、いうわけでこれは命令だ。特別に俺様を守るために使わせてやろう」
なぜか小学時代からクラスも一緒で、常に偉そうかつ傲慢な態度で、俺とは同じくらい人がよってこない男―リアム。
「……真純君、また、怪我したの……? 大丈夫? 痛く……ない?」
親の付き添いで家に行きあっては、俺の後をずっとついて回っていたいとこー結愛。
二人といると、ありのままの自分を出せるような……そんな気がした。
だから、忘れていたのかもしれない。
「こ、小谷先輩! 結愛ちゃんがどこにいるか、知りませんか!? 買い出しに行ったっきり、寮に帰ってなくて……!」
俺と関わることで、彼女を傷つけてしまうということをー
「……に、小谷ってば! ちょっと! 起きなさいよ!」
声が聞こえる。
重い瞼をゆっくり開け、広がってくる眩しい世界に思わず目を細めた。
どこまでも青い空が、どこまでも広がっている。
随分昔の夢を見ていた気がする。
思い出したくもないはずなのに、ふいに夢で見てしまうのはあの頃に戻りたいとでも思っているのだろうか。
しばらくぼーっとしていた俺の視界に、唐突に顔があらわれ……
「やっと起きた。あんた、また屋上でサボってたわね? また一年留年しても知らないわよ!」
生徒会に入ったよしみで話すようになった鷲宮智恵が、上からぎろりと睨みつけている。
彼女の見下す態度があまりにもら気に入らず、はぁっとため息をつき、
「………相変わらずぶっさいくな顔だな」
と思ったことを述べた。
すると、彼女は眉毛をぴくりと動かし、
「うっさいわ、バカ!」
と同時に足で蹴ろうと振りかぶる。
それを避けるように、俺はすっと体を起こした。
「そうやってすぐ怒るからおめーはブスなんだよ。んで、なんでここに?」
「なんでもくそもないわよ! あんたが作った資料のことで聞きたいことがあったから、探してたの。そしたら4限目からいないって言うじゃない。留年してるっていうのに随分余裕ね」
「二回も同じ授業なんか受けたかねぇよ」
あれからまだ一年しかたっていないことを思うと、月日が妙に長く感じる気がする。
あの日―結愛が悪い連中に連れさらわれた怒りで、俺はここを追い出されるくらい暴れた。
俺があいつを早く見つけていれば、あいつのそばにいてやれれば、どんなによかっただろう。
男性と触れること、一緒にいることが出来なくなったあいつのそばにいる事は、許されないと思い距離を置いた。
それがどんなに償っても、決して消えない、俺自身が侵した罪だ。
例えあいつが、俺を許していたとしてもー……
「ちょっと、どこ行くのよ。私の話、聞いてた?」
「あん? 資料がどうってやつだろ?」
「そ。さっき後輩が聞きにきたんだけど、リアムといいあんたといい資料適当すぎんのよ! 後輩達が困ってるじゃない!」
「へーへー、すみませんでした」
「あ、ちょっと小谷!」
生徒会室に行こうと屋上を立ち去ろうとするのを、彼女は止める。
んだよ、とがんを飛ばしたが、奴はさっきの勢いはなくなり、なぜか俺から目を逸らして……
「その……悩みとかあるなら、聞いてあげてもいい、わよ? 寝てる時、なんか苦しそう、だったから……」
勘の良い奴だ、そう思った。
生徒会の仕事で仕方なく一緒にやっていたが意見が合うことも、馬があうこともない。
こいつが女子じゃなきゃ、すぐにでも取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだと、何度か思ったことがある。
それでもなぜか、何かに気づくのはいつもこいつだった。
速水が人間じゃないということも、俺の喧嘩が誰かを守るためにしたということもー……
「俺の弱みでも握ろうと思ったのか? 寝ていたとはいえ、俺に近づくとはいい度胸だな」
「こんなところで不用心に寝てるあんたが悪いんでしょ」
「仮にそうだったとしても、話す気ねーよ。俺より友達少ないおめーにはな」
「なんですって?!」
「ほらさっさと行くぞ。どーせ俺が色々言っても、違うとかで文句ばっかいわれそうだからな」
そう言いながら、鷲宮の先をゆく。
昔のことは今でも消えない。
それでもあいつー結愛は、必死に前に1つずつ進んでいっている。
俺にはそっと見守ることしかできねぇけど。
「俺らにとっちゃ最後の仕事だ。それまでよろしく頼むぜ、副会長さんよぉ」
あいつらが笑って、今を楽しく過ごせるように。
俺は誰よりも強くなってみせる。
この拳で誰かを守れるようにー……
(つづく・・・)
気がつけば、この作品も50話突破です。
そんな記念すべき回がキャラによるお当番回、
しかも真純とは誰が予想したでしょう。
真純は私にとって脇役には勿体無いキャラ、
と思っているせいか、
少ない出番に爪痕を残すのが多くて多くて…
気がつけば、一番の推しになっている気がします…笑
そんな彼を表す鬼面仏心、という言葉。
これを読んだ後、意味を調べたら
ああ、なるほどなとなっていただけたら幸いです。
新年早々の投稿は四日にいたします。
今年も色々なことがありましたが、
来年はいよいよ最終回へ向けての
ラストスパートになります!
最後まで、よろしくお願いします!
皆さん、良いお年を!




