ep.5 フィオーリ様は傍若無人
四葉高校に伝わる伝説、フィオーリを
半信半疑のまま、呼び出してしまった満
ただ退学を免れだけで良かったはずが
なんだか雲行きが怪しく…
授業終了のチャイムが、校舎中に響き渡る。
何冊もある教科書をとんとんと揃えながら、僕はふうっとため息をついた。
この高校に入ってまだ三日。
僕は慣れない学校生活を、送ることで精いっぱいです。
昨日あんなことがあったせいか、興奮のせいで寝つけなかったし、虹己君と恭弥君からは質問攻めされるわで散々だったし……
それにしても、フィオーリってどんなことをしてくれるんだろう。
僕達の願いを叶えてくれる、彼はそう言っていたけれど……
「満君、何ボーっとしてるの? もうお昼だよ?」
はっと気が付くと、隣にはいつのまにか虹己君がいた。
恭弥君もすぐ近くにいて、心底不思議そうに首をかしげている。
「どうした満、いつもは一番に食べようって言いに来るのに。何かあったのか?」
「えっとお……ちょっとミミルのこと考えてて……」
「ミミルのことをか?」
「まさか、今頃危機感覚えたとか言わないよね?」
これだから満君はと、半ばあきれながらはあっと息をつく。
何だか怒っているように見えた僕はとっさにごめんと、彼に小さく謝った。
強制恋愛法という校則に立ち向かうべく、僕達が頼ったのはこの学校の伝説とされているフィオーリの存在だ。
とはいっても本当にいるなんて思ってもなかったし、苦し紛れのいいところだったんだけど。
やっぱり僕達は、夢でも見てたのかな。
考えても仕方ない。買ってあったご飯でも食べ……
「ふうん。あのことが夢だった、とでも言うんだ? へえ~??」
耳元で息がふっと吹きかけられる。
あまりの唐突さにびっくりして、思わずうわああと大声を漏らしてしまう。
一体どこから来たのか、そこには彼の姿があった。
「俺をなかったことにしないでくれるかな? 赤羽満」
すべてわかっていたとでもいうような笑みに、思わず目を奪われてしまう。
彼―ミミルこそが、フィオーリの名を持つ青年だ。
昨日図書室で、偶然見つけた本によって僕が呼びだしたのだ。
とはいってもそれ以上のことは、何も知らされていない。
契約はしたものの、それ以来ミミルとはぱったりだったし……
「ちょっとあんた……えーっとミミルだっけ? うちの校舎に入ってきちゃまずくね?」
「来てくれるのは構わないんだが、せめて寮に帰るまで待っててほしいのだが……」
恭弥君と虹己君に言われて、あっと我に返る。
そういえばミミルはうちの生徒ではないし、見るからに怪しい人だ。
ミミルがここにいるって知られたら、校則どころじゃないよ……
「なんだ、あんたら気づいてないの?」
「ほえ?」
「俺はあんたらとは違う。フィオーリの存在は適合者にしか確認できないし、他のものには姿すら見えない。今回は満が適合者みたいだけど、一緒にいる二人は特別にってところかな」
ええ?? そうなの?
確かにみんな、普通に会話してて気づいてるそぶりないけど……
やっぱりフィオーリってただものじゃないんだなあ。ますます謎が深まるような……
「つっても、あんたらが思うように会話できないね。場所を変えるか」
そういうとミミルはぱちんと指を鳴らす。
すると背景が、一瞬で明るく開けた場所に変わる。
気が付くとそこは、学校の屋上で……
「あれ??? 教室は?」
「ワープしたんだよ。あ、それと昼飯も入手しておいた」
「予想外すぎんだろ! ちゃんとご飯のお金払ったんだよね?!」
虹己君がすかさずつっこみを入れるのにかまわず、ミミルはさも気にしていないようにパンをほおばっている。
僕達が買った覚えがないおにぎりなどを眺めながら、とりあえず封を開け食べ始める。
案の定、おにぎりは普通においしくて……
「なるほど……ワープ機能も備わってるのか。なかなか興味深い」
「興味深いじゃないでしょ! いきなり消えて不審に思われたら、どう責任取るわけ!? ちゃんと考えてんの、あんた!」
「あ、なんなら俺自慢の能力ショーでもやろっか? 景気づけに」
「聞けよ!!」
なんだか不思議だな。初めて会ったはずなのに、そんな感じが全然ない。
ミミルの独特な雰囲気のせい、なのかな。
現に虹己君も恭弥君も、いつもの調子だし……
「さて、ここからが本題だ。あんたらと会った後、俺なりに調べてみたんだ。強制恋愛法……かなり難儀のものらしいね」
ミミルが豪快にパンにがぶりつきながら言う。
唇を舌で回すようになめると、また彼は笑った。
「どうやら主に困っているのは、満と虹己の二人だけ。恭弥には相手がいるみたいだけど、あってる?」
「あってはいるが……俺達の名前まで知っているのか」
「当然。俺には心が読めるんだ。それくらいお手の物だよ」
ほえ~~聞けば聞くほど、フィオーリがすごいって感想しか出てこない……
「そこで満、お前に朗報」
「ほえ?? 僕?」
「今から一人の女が現れる。そいつの提案を飲むことが、最初の試練だ」
なんでそんなことまでわかっちゃんだろう、ミミルは。
僕の疑問に気付いているのかいないのか、彼はまたパンを食べ始める。
提案を飲むことが、最初の試練か。
なんだろう、変なのじゃないといいけど……
「……ねぇ満君、なんか外騒がしくない?」
「え?」
虹己君に言われ、そうっと校庭の方を覗いてみる。
そこには何人かの女子、男子生徒が何かを探しているのか声を張り上げてまでうろうろしている。
よく聞こえないけど、人の名前のような……
「とうちゃぁぁく! ここまでくればだいじょう……にょわ!? ここにも人が!?」
そんな時、だった。
屋上のドアが勢いよく開けられた先に、一人の女性がいた。
短めの髪に、リボンの形をしたヘアピンをしている。
どこかあどけなさをもつ彼女の瞳に、なんだか目が離せなくて……
「もう、こうなったら仕方ない! ねぇ君!! 私の彼氏になってくれない!?」
「え、えええええええ?! 僕ぅぅぅぅ!?」
そう言って両手をつかまれたのは、まぎれもなく僕だったのだ!
(つづく!!?)
言い忘れていましたが、フィオーリは
イタリア語でクローバーいう意味らしいです。
クローバーといえば、四葉ということで
作中にもありましたが、
高校の由来になっております。
ミミルの本格始動により、他の3人の性格も
だんだん見え始めてきましたね。
2人のカップリングが好きでもありますが、
今作は3人1セットみたいな感じなので
結構お気に入りだったりします。
次回は12日更新。
突然の告白にどうなる!?