ep.46 この感情に名前をつけてあげられたら……
クリスマス当日。
満は雲雀とともに、初めてのデートへ。
憧れの俳優の舞台を見たり、
プレゼントを渡しあったりと
お互いの距離を縮めてゆく。
その裏で、雲雀を支え、二人のことを見守る
一人の女性の姿があったー……
☆智恵Side☆
私は、常に完璧だった。
成績も優秀、運動神経も抜群、文句無しの八方美人。
私の親はどこに出しても問題ないように厳しく、自分より上な人がいたらたたき落とすまで。そんな家庭で育てられた。
「ねえっ、さっきの問題、すごかったね! 先生が意地悪なの出したのに、簡単に解かれすぎてびっくりしてたよ。あれ、どうやってといたの?」
高校一年生の時、彼女に出会った。
常に大人に囲まれた生活をしていた私は、同年代と話が合うことも無く、友人と呼べる人があまりいなかった。
そんな私でも構わず、明るく気さくに話しかけてくれて……一言で言うと、クラスのムードメーカー的存在だった。
『ああ、神よ! どうか私に、御加護を……! 私を、彼女の元にいかせてくれ……!』
そんな彼女が演劇部として彼女の演技を見た時―私の胸に、衝撃が走った。
セリフの間合い、コロコロ変わる表情、引き込まれる演技力……
すぐにわかった、彼女は天才だと。
どんなに上に立つように教育されてきた私でも、人目見ただけで彼女には適わないと確信した。
彼女なら、彼女にならテレビに、舞台の上に立てるかもしれない。
そんな彼女を世界に、頂点に羽ばたかせてあげたい。
高く、高く飛んでゆくヒバリのように。
だから、私は……
「雲雀なら、絶対に日本一……いえ、世界一素晴らしい女優になれるわ。あなたなら大丈夫。私と一緒に、頂上を目指しましょう」
「うん……ありがとう、ともちゃん」
気づいてあげられなかった。
彼女が苦しんでいたことを、彼女がすでに見えない何かと戦っていたことにー……
「みてみて〜ともちゃん! これ! みっちゃんからお礼に買ってもらっちゃった、ヘアピ〜ン♪ 可愛くない?」
あれから二年。私達は、高校3年へと進学した。
語学留学のため、一年間海外に行っていたが、それを中断してまで帰ってきた。
きっかけは、もちろん彼女―雲雀のためである。
よくわからない謎の組織を呼び寄せるという意味不明な理由で発布された、「強制恋愛法」。
それに困っていると予想した私は、即刻帰国手続きをした。
にもかかわらず、なかなかおろしてもらえずやっとのことで二学期から合流したが……
「何の話かと思えば………また赤羽満の話? 聞きたくないって何度言えば分かるのかしら」
「だってぇ、楽しかったからつい〜ともちゃんもモテるんだから、彼氏とか作ればいいのにぃ〜」
「生憎、私は男に興味無いからそういうのは結構でぇ〜す」
「えぇ〜勿体な〜い」
彼女にはすでに、彼氏と呼ぶ者がいた。
今でもあまり認めたくない、忌々しい現実。
あのリアムが余計なことをしなければ、もしかしたら彼女の「大切な人」は私だったのかもしれないのに。
それでも、彼氏である赤羽満は私には気づけなかった彼女の葛藤にいち早く気づいていた。
今でも、鮮明に思い出す。プロの業者が見ている大舞台で、大失態を犯す彼女の姿を。
あんな雲雀は、初めて見た。
そんな彼女に、私は何も出来なかった。舞台袖で、見ていることしか。
それを彼は、難なく彼女を救ってみせた。
すぐそばで支えてきたつもりだった私より、先に。
「あ、そうだった。私、今日から実家に帰るんだ。お兄ちゃんがもう迎えに来てるんだけど、ともちゃんは実家、帰らない? 帰るなら、途中まで送っていくけど」
「私は生徒会の引き継ぎで忙しくてね。今回はパス」
「そっか、年末年始なのに大変だね〜じゃ、頑張ってね! また連絡する!」
「はいはい、いってらっしゃい」
それからどことなく彼女の顔には、笑顔が増えたような……そんな気がした。
それが恋のおかげだというのなら、そうなのかもしれない。
現に彼女は、彼の話をする時はいつも楽しそうだ。
「……恋愛、か……」
立ち去る彼女の背中を見送り、生徒会室に足を運びながらふと呟いてしまう。
人の上に立つように育てられた私が、誰かと一緒に過ごすなんて考えたこともなかった。
雲雀と一緒にいて、誰かが隣にいることがとても幸せなのだと感じた。
こんな私に恋愛が出来るというのなら、やってみたい……そんなことさえ、思ってしまった。
今思えば忘れたい感情のひとつでしかないけれどー……
「………おい、そこ邪魔」
そんな時、だった。
ぱっと後ろを振り返ると、そこには彼がいた。
私より背が高く、目つきも鋭く、かなぁり柄が悪く……
「生徒会室入んならさっさと入れよ。俺が入れねぇだろ」
小谷真純、以前までクラスメイトだった同生徒会メンバー。
今はとある事件が影響で一年留年し、クラスも過ごす環境もまるで違うけど。
それはもう授業態度も悪く、口を開けば文句か嫌味、気に入らないことがあったらすぐ暴力沙汰がたえない根っからの問題児で……
「何よ小谷。邪魔なら私を蹴落としてでも入ればいいでしょ?」
「んなことしたら倍にして返すだろ、お前」
「あら、よくわかってるわね? あなたと渡り合えるくらいには護身術を習得してるつもりよ?」
「ほんっとおっかねぇ女。どーでもいいから、早く入ってくんね?」
彼に言われ、渋々中に入る。
生徒会室にはまだ誰も来ておらず、何枚もの書類が無差別に散らかっておいてあった。
これも奴―リアム・アルジェント・プラータの悪いくせである。
仕事をやるだけやって散らかし、片付けは一人ではしない。誰か来た人、やってくれる人におまかせする。
育った環境がものを言う、というものなのだろうか。呆れる私にかわり、小谷がすっと紙をまとめだし……
「ちょっと、それくらいあいつにやらせなさいよ。王とはいえ、自分で片付けくらい出来るでしょ?」
「アイツにやらせたらそれこそもっとちらかんぞ」
「相変わらず、よく知ってるわね。それも古い付き合いだから?」
「まあ、そんなとこだよ」
たった半年で、私達を取り巻く環境は全て変わった。
生徒会長である彼を中心に回っていたものが、フィオーリとかいう目的を果たしたおかげでやっと解放された。
そこからはもう次の生徒会役員へと引き継ぐ作業におわれる日々が始まる。
仕方なく私も、彼の散らかした書類を片付けようと手が伸びる。
その中には、恋愛強制法でかかせた宿題もあって……
「……ほんと、くっだらねぇこと考えるよな。あいつも」
同じ紙をみつけたのか、彼が1枚手に取ってつぶやく。
小谷が持っていたのは偶然にも、赤羽満の物だった。
「フィオーリだかなんだかわかんねぇ組織を呼び出すためとはいえ、ここまでするかぁ? 他の連中のこと考えろっつーの」
「……あんたは、この法則に賛成派だったの?」
「なわけねぇだろ。あいつには停学で済ましてくれた借りがあるから、仕方なく了承しただけだ」
「あっそ。でもありがた迷惑だわ。その校則のせいで雲雀は本当に彼氏作っちゃうし、撤廃してもそいつと上手くいっちゃうし」
そう言ってて、どこか私に羨ましい感情があることにきづく。
それは私ではなく、他の誰かに雲雀をとられたからだろうか。
それともただ単に、恋愛するということが女の子っぽくて、憧れがあるだけ……?
「……い………おい、鷲宮。大丈夫か?」
気がつくと、目の前に彼の顔があった。
「キャッ!」
ビックリして大声をあげ、彼の顔を殴ろうと右手をあげる。
その右手ごと彼はいとも容易く掴んでしまい……
「ちょっ、離しなさいよ! この変態!!!」
「人が心配して声掛けてやってんのに……そういう態度しかとれねぇのか、お前は」
「うっさい! あんたなんかに心配される筋合いはないの! いいから離し……っ」
「少なくともてめーには、そういう相手ホイホイ出てきそうだけどな」
……は?
「さっき、ありがた迷惑だっつったろ? 赤羽の奴が早乙女を落とすのには驚いたが、あいつにもいたようにお前にもじきに出てくるんじゃねーのっつってんの」
「よ、余計なお世話よ! あんたに言われるまでもないし! 彼氏なんて、余裕で作ってやるんだから!」
「はんっ、それくらい元気ありゃ充分。こりゃ、そいつの顔を拝めるのが楽しみだな」
くすりと笑った彼の顔は、なんだかいつもとは違って、今まで以上に優しく見えて……
ハッとした時には、彼の手を振りほどいていた。
無言で睨みつけ、べーと舌を出し紙を片付け出す。
やれやれと肩を竦めながら、小谷は違う机の片付けをし始めた。
早く誰かに来て欲しいようで、どこかでまだ続いて欲しいと思ってしまうのはどうしてなのだろう。
彼の顔をうまく見ることが出来ないのは、どうしてなのだろう……
あの時止まっていた二人の時間が、地味に、ゆっくりと動き出したような……そんな気がした……
(つづく・・・)
リアム、雲雀に続くのはまさかの智恵ちゃんです
ぶっちゃけ当初は、生徒会は脇役設定が強くあり、
細かな設定は考えていませんでした。
投稿にあたり、物語の核心部分でもあった
リアムのことを深く、ふかぁく掘った結果
この二人の可能性に気づいてしまったのです。
お互い気が強く曲げない性格なので
おそらく喧嘩ばっかりですが、
誰よりも友達思いで、いつも陰で支えてる……
似たもの同士のケンカカップルって、萌えません?
私的にはゴールインさせたい気持ちもあるのですが、
本当のところ二人がどうなのかはわかりません。
なので、あくまでも皆様のご想像にお任せしますね
次回は17日更新予定。
クリスマスの次に来るイベントといえば…?
一足お先に○○気分をお裾分けです☆




