ep.43 赤羽満は嘘がつけない。
リアムから語られる、フィオーリを求める理由
それはあまりにも悲しく、切ないものだった。
それを知った満やミミルは
彼にやさしく手を差し伸べる。
長いようで短かった事件が
無事に幕を閉じたが……
ひゅーひゅーと吹く風が、刺さるように体を刺激する。
はあっと吐く息は白くかわり、空気へ解けていく。
「ざ……ざむい……」
赤羽満、高校一年になって初めての冬休みをむかえています。
あんなに目まぐるしかった一年も、もう終わりに近づいてきていると思うと不思議な感じもする。
冬というものはあまりにも寒くて、何枚も重ね着をしているのにも関わらず、気紛れ程度にしかならなかった。
「あーーーーーさっみぃ! こんなくそ寒い中で補修するとか……先生の頭いかれてんじゃねぇの……」
「補修をしないといけないくらいの赤点を取ってしまったのはお前だろう? せっかくの冬休みなのだから、年末までに合格点を取ってほしいのだが?」
「悪かったねぇ、補修常習犯でぇ」
隣で寒い寒い文句を言っている虹己君が、はあっとため息交じりに言う。
そんな彼をやれやれというように恭弥君が見ている。
待ちに待った冬休み、だというのにこうして三人一緒に学校に来ているのは学期末テストの成績がめぼしいものではなかったからだ。
無論恭弥君はいい成績だったため、部活ついでに付き合ってくれている。
相も変わらず赤点だった虹己君はもちろん、オール平均点の僕も補修三昧……せっかくの年末なのに、全然楽しくないよぉ……
「そういえば終業式のあれ、びっくりしなかった? あの会長があんなこと言うなんてさ」
「ああ、みんなどこか驚いていたな」
「あれって??」
「強制恋愛法の撤廃。なんでこのタイミングでって思わなかったわけ?」
虹己君に言われ、不覚にもドキッとしてしまう。
フィオーリに叶えてもらため、はたまたつばめ先輩のために発布した強制恋愛法は、会長の鶴の一声で撤廃が決まった。
それでみんな気が楽になったのか、それぞれしたいようにする人もいれば、僕達のようにそのままカレカノになった人もいて今は何事もなく落ち着いている。
ちなみに僕はというと、会長とあった一件をいまだ二人には話していない。
話しちゃっていいものかどうなのか……解決した後だし、いいような気もするんだけど……
会長の事情をベラベラ話していいのか、どうなのか。
こういう時ってどうするのが正解なんだろう。とかなんとか言ってる間に、どんどん話すタイミングが無くなっていくんだよなぁ……
「なんつーかさー、生徒会って終始意味わかんないことしてると思わね?」
「まあ確かに……あの校則の狙いがなんだったのかまでは教えてくれなかったしな。会長は何を企んでいたのか……」
「ふ、二人とも、そ、そんなに深く考えなくてもいいんじゃ……」
「お、赤羽じゃないか。冬休み中なのにここにいるということは、補修か?」
噂をすれば、というやつなのだろうか。
そこに通りがかったのは話をしていた本人でもある生徒会長―リアム先輩だった。
キレイな白いケープをなびかせながら、いつもと同じようにふっと笑いかける。
以前に比べて、その笑みもなんだか柔らくなっているような……そんな気がした。
「か、会長! おはようございます!!」
「その名で呼んでくれるのは嬉しいが、俺様はもう会長じゃないぞ?」
「はっ! そうでした! えっとぉ……」
「気軽にリアムで構わない。お前には借りがあるからな」
終業式で校則を撤廃したのを機に、会長―リアム先輩は生徒会長の座を降りた。
その時に新しい会長も紹介され、三学期からの就任って言われたけど……
リアム先輩の後ってすごいやりにくそうだなあ。僕だったら絶対断っちゃいそう……
「先輩こそ、冬休みなのにどうして学校に?」
「生徒会の引継ぎで少しな。ちょうどお前に話があったんだ。この間はすまなかった、彼にも伝えておいてくれ」
この間、と言われてドキッとしてしまう。
先輩が言っていることはもちろん、ミミルがみせてくれた幻へのお礼だ。
でもその話をここでされるのは、ちょぉっと困るわけで……
「せんぱぁい、さっきからなんの話っすかぁ?? 満君とはぁ、どういうご関係でぇ?」
「ん? どういう関係といわれてもな……」
「あ、あの先輩! ここじゃなくて、あっちで二人で……!」
「前々からおかしいと思ってたんだよねぇぇ? み~~つ~〜る君っ。どういうことか説明あるよね?」
虹己君が、にこにこと満面の笑みを浮かべてこちらを見ている。
ああ、もうこれは逃げれそうにないな……
観念した僕はすべての事情を二人に簡単に話すと……
「……何それ。そんな大事なこと黙ってたわけ? 君」
案の定、虹己君は分かりやすいくらいに怒っていて……
「だ、だって! 二人を巻き込んじゃ、迷惑かもって……」
「何今更気遣ってんの。君、迷惑かける常習犯じゃん。苦手な嘘までついて、やることじゃなくない? そんな大事ことを相談すらしてくれないことの方がオレはいらつくんだけど」
「虹己の言う通りだ。満、困った時くらい俺達を頼れ。親友だろ?」
これは怒られてる、といううちにはいるのだろうか。
二人はいつも僕に対してこうだ。
こうなったことに怒りはするものの、最後には優しく頼ってほしいと言ってくれる。
ああ、なんて僕は恵まれた人間だろう……
「すみません、リアム先輩。二人はその、僕がフィオーリを呼ぶ時に一緒にいて……唯一、姿を見ることができるんです。ご紹介遅れました、この二人は僕の大好きな友達、恭弥君と虹己君です!!!」
自信満々に言ったせいか、やめてよと照れたように虹己君はそっぽを向く。
僕の紹介に応じるよう、恭弥君はぺこりと会釈してみせた。
「そうか……良い友人達に囲まれているのだな、赤羽は」
「えへへ、それほどでもないですよぉ〜」
「それで? 満君に用とか言ってたけど、なんすか?」
「ああ、そうだった。これを」
そういって先輩は、ポケットの中から1枚のチケットを取り出す。
そこには映画のタイトルのようなものと、開演時間などが印字されていて……
「これは?」
「無論、舞台のチケットだ。願いを叶えて貰った礼だと思って受け取ってほしい」
「そんなっ、お礼だなんて別に……」
「まあそう言わず、出演者をみてくれ」
含みのある言い方をする先輩に、疑問を覚える。
誰か有名な人がいるのかなと思いながらも、そっとチケットに目を落とす。
出演者と小さく記載されている中にあったのはー
「と……わ? えっ、これ、TOWAって書いてますよ!?」
「は? 誰、トワって」
「知らないの、虹己君! すごく有名な俳優さんだよ!!」
「確か……数多くの賞も受賞しているが、名前以外公表されていない人だったな。演技力は高く評価されているせいか、舞台のチケットの倍率は高く、入手困難とまで言われていたが……まさか……」
「俺様を誰だも思っている? TOWAの観劇チケットくらい、俺にかかればこの通りだ」
はへ〜と変な声が出てしまうのは、想像していたのよりすごいのがでてきたからだろうか。
まさか、まさかあのTOWAのチケットが僕の手に渡るなんて。
いいのかなぁ、僕なんかが貰っちゃって。確かにドラマとかは見る方だけど、アイドルが出てるものくらいしか見ることないんだねぇ……
ん? あれ、そういえばTOWAって、誰か好きって人がいたような……
「ちなみにそれはペアチケットなんだ。鷲宮に聞いたのだが…… TOWA、とは彼女の憧れなのだろう?」
「そ、それってもしかして雲雀先輩と二人で行けってことですかぁ!?」
赤羽満。まさかまさかで、デートの予感です!
(つづく!!)
ここにきて、ようやく
満君の嘘がばれるわけですが……
多分2人は結構前から勘づいていたと思うんです。
けれど、あえてそれを言わずに
影で見守っていたって考えると
この3人の関係性って萌えませんか。
お互いが尊重し合っているというか……
何が言いたいかって言うとですね、
この三人は最強ってことです。はい。
次回は8日更新!
思いがけないデート、開幕!?




