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ep.38 その時は突然に。

春夜に呼び出され、屋上に行った恭弥は

彼女が距離を置いていたのは、

付き合って三年目の記念で

プレゼントを用意していたためだった。


再び愛を確かめあった二人は、

さらに距離を縮めるー


その日は、何気ない朝から始まった。

寮に忘れ物もしてなければ、宿題もちゃんと出せた。


いつもと変わりばえのない、今日という一日。

今日は何をしようかな、のんきにそんなことを考えていた。

あの時、までは。


「満、今日暇か? 春夜に女子寮に誘われてるのだが、一緒にどうだ? もちろん虹己もな」


あれからすっかり調子を戻した恭弥君が、にこやかに笑う。

特に予定がなかった僕は笑みを浮かべ、「いいよ」と返事をした。


「ちょっと待った。なんでオレまで一緒に行かなきゃいけないわけ? 君達の復活したリア充を見る気はないんだけど?」


「別にそんなことは言っていない。鳳先輩と雲雀先輩も来るそうだから、呼んでおいてと頼まれたんだ」


「あー、そーゆーことね」


高校に入ってから八カ月。僕達三人には、彼女と言える存在が出来た。

そのおかげなのか、あっちからのお誘いが少ないこともない。

大好きな雲雀先輩が一緒にいたいって言ってくれるんだもん。断る要素なんてどこにもないよ!


「んじゃ、ぼちぼち行くかぁ。早くしないと、閉まる時間になりかねねえし」


「あっ。僕、先生に出さないといけない書類があるから、先に女子寮いってていいよ?」


「それなら終わるまで、待っとくぞ?」


「長くなるといけないし、先輩達を待たせるのは悪いから」


そう言って、僕は無理やり彼らと分かれ、その場を後にする。

思えば、この時に気づくべきだったんだ。

何かしらの、違和感に。


『満、よけろっ!』


職員室に向かっている最中、ミミルの声を最後に、僕の視界は暗い闇へと化したのだったー……




「……る……ね…る」


どこかで、声が聞こえる。


「目を覚ましなさい、赤羽満」


どこかで聞いたことのあるような、不思議な感覚がしてー

ゆっくり目を開けるとすぐそこには、一人の女性がいた。

息がかかるほど近くにいたせいで、変な声が出てしまったけど。

よく見るとその女性は以前、春夜先輩の件で尋ねた時にいたー確か、速水つばめと名乗っていた先輩だった。


「こ、ここは……? 僕は一体……?」


「脈拍数、心拍数ともに正常。脳波にも異常はありません」


「うむ、ご苦労だったつばめ。君が赤羽満か、会えてうれしいよ。直接会うのは、これが初めてかな」


顔を上げた先にある玉座を思わせるようなイスに、一人の男性が腰かけていた。白銀色のながぁい髪に、きらびやかなケープ。

そして腕には会長と書かれた、赤い腕章があって……


「せ、生徒会長!!? どうしてここに!?」


「どうもこうも、ここが生徒会室だからに決まっているが?」


「うぇ?! せ、生徒会室!?」


一体何がどうなっているのか。僕が何かしたっていうのか。

答えをどんなに探しても、見つかる気はしなかった。

ていうかいつのまにこんなところに?  僕、職員室に向かってたはずじゃ……

と、とりあえずここから出ないと! あんまり遅いと、恭弥君達を心配させちゃう!


「あまり抵抗はしない方がいい。自分の身を傷つけることになるからな」


そう言われて、初めて腕が後ろに縛られているのに気付く。

動かそうと思っても足にもロープが縛られて、とても一人でほどくのは無理だった。


こ、これってもしかしてお仕置される前フリか何かなのかな? や、やばい、この場をなんとかしないと!


「え、ええっと、とりあえず話しあいませんか? 暴力は何も生みません! まずお互いの話を聞いて……!」


「この期に及んで泣き言をほざくなんて、男として情けないとは思わないの?」


聞きなれた声にパッと隣に顔を向ける、いつからいたのか、僕のすぐ右隣には鷲宮先輩がいた。

相変わらずすごい喧騒で睨みつけられてる気がするけど……


「わ、鷲宮先輩、こ、こんにちは……」


「こんな時に挨拶なんて、随分お気楽なのね」


「まったくだ。お前、危機感ないってよく言われねえの?」


「よ、よく虹己君に怒られますけど……って小谷先輩!? いつのまに!」


「おう、あの屋上以来だな」


反対側には結愛先輩のいとこだという小谷先輩までもが、変なものを見るような目で僕を見ている。

ど、どうして先輩達までここに?

二人に共通点なんてどこにも……はっ、そういえば……


「も、もしかして皆さん生徒会の人だったりしちゃいます……?」


「意外だろ、よく言われる」


「雲雀から聞いていたと思っていたのだけど、今頃?」


で、ですよねぇぇ。

聞けば聞くほど、何故か嫌な予感しかしない。

それも生徒会には、今までいい思い出がないからだ。

僕の退学騒動や、鳳先輩のトラウマとなった元凶の人。

そんな人達が、僕に何の用だろう。うう、こうして捕まえられてること自体が怖すぎる……


「あ、あの! 僕が何かしちゃったんなら謝ります! だから、その、お、お仕置きだけは……!」


「……かつてここは、荒地寸前な高校だった。人類の過疎化、自然の荒廃……あらゆる面で問題だった学校は、廃校寸前に陥った」


ふいに、会長が淡々と語り出す。

その言葉一つ一つが聞いたことがあって、耳覚えがあって、なぜか心拍数が高くなってゆく。


「そんな高校を見事に救い、助けてくれた者がいた。その者の恩恵を忘れないように彼らの名前にちなみ、四葉と名付けられた……」


どくん、どくんと心臓が脈を撃つ。

間違えない、この話はやっぱりー


「単刀直入に聞こう、赤羽満。君はこの高校を救ったと言われる伝説の存在、フィオーリに選ばれた人間だな?」


初めて、だった。

フィオーリの名を、他の人の口からはっきり聞いたのは。

最初聞いた時はみんな雲を掴むようなことしか言わず、あの本を読むまでは何もわからなかったというのに。

虹己君も恭弥君も読めなかったあの本を、ミミルは選ばれた人しか探せないし読めないと言っていた。


……はずなのに……

今聞いたのは、すべてあの本の内容。

知るはずもない内容を、どうしてこの人が……?


「お前がフィオーリに選ばれた人間だと絞れた理由は二つある。一つ、不可思議な眼鏡を利用し、男性恐怖症である鳳結愛と接触できたこと」


あ、夏祭りの時にミミルにもらった……


「二つ、早乙女雲雀のファンや鷲宮という刺客の中、定期演劇会で姿を変え、彼女と接触を図ったこと」


そ、それはミミルに頼んで、なぜかオタクっぽい格好になってしまった……


「しばらく生徒会のメンバーを利用し、フィオーリがどのような力を使うかみさせてもらった。思ったより時間はかかったが、実に素晴らしい力だ。俺様の思っていたとおりだ」


「え、えーっと、さっきから、先輩はなんの話を……」


「フィオーリに選ばれし青年、赤羽満よ。リアム・アルジェント・プラータが告ぐ。この俺にフィオーリを渡せ!」


かっと見開かれた瞳が、強く、まっすぐ僕を見つめている。

怖くて何も言えない僕に、彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべていたー


(つづく・・・)

さて、いよいよここからがもう一つの物語となります。


35話ですこーししか出てこなかったつばめちゃんも、

実は生徒会のメンバーなんです。

名前をつけるからには、何かしらの役割があるのは

当然だと個人的に思うので

そこには拘って作っているつもりです


次回は30日の更新。

リアムはなぜ、フィオーリについて詳しいのか…?

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