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ep.36 愛は時を忘れさせ、我を忘れさせる

春夜が浮気している。


真実を確かめに2年の教室に行くが

知らない男との目撃情報を聞かされてしまう


憔悴した恭弥は満と虹己に、

距離を置くように頼みー


☆恭弥Side☆


俺の両親は、やりたいことをさせてくれる、少し過保護で甘い人だった。

だからなのか、塾や習い事、普通なら躊躇するであろうものもすんなりやらせてくれた。

そんな環境を当たり前に思わなかったのは、毎日毎日親が働いているのを近くで見てきたからだろう。


自分のしたいことが定まらなかった俺は、なるべく負担をかけないようにとやりたいことを自分からは言い出さなかった。

あの日、彼女に会うまではー。


「おや~~? 君、迷子のにゃんこちゃんかなぁ? お母さんを探しているの〜?」


父が顧問をしていた中学の部活を見に、同行させてもらったあの日。

広すぎる敷地と、見慣れない地故に親とはぐれ、彷徨っていた俺に声をかけてくれた少女がいた。


まったくの知らない子供だというのに、自分の出番もあったかもしれないのに、その子は観覧席まで一緒に探してくれた。

彼女についてわかったのは、通っている中学と、そこで弓道をしているということだけ。


だから、俺は弓道を始めることにした。

もう一度、彼女に会うために。

もしかしたら、もうすでにそのときに惹かれていたのかもしれない。

彼女の人柄と優しさにー


「ええ~~君あの時の坊やなの~? いやぁ、大きくなったねぇ。しかも毎年優秀な成績を残してるんでしょ~? すごいなぁ~春夜も負けてられないなぁ」


弓道に慣れ始め、大会で名前を残していくうちに彼女は俺に気づいてくれるようになった。

あの時のお礼が言えただけで、俺は満足だった。

彼女はどんな人にも負けない、大会に勝てる強さがあった。

だがー……


「ねえ、みた? 明星中予選敗退だって、やばくない?」


「うん……なんでもあの鷹匠さん、怪我で出られなかったらしいよ」


「他の人もなんか調子悪そうだったもんね~かわいそう……せっかく最後の大会だったのに……」


それは彼女にとって最後の大会の日。

他校の生徒がひそひそ声で話していたのを聞いてから彼女を探すのに、時間は要らなかった。


気がつくと夢中で走って、探して、また走っての繰り返し。

やっとのことで見つけた彼女の目からは、一粒の雫が目から落ちていた。

声を上げることなく、ただ頬を伝ってゆく。

その横顔があまりにも綺麗で、切なくて、俺の心を惹きつけてー


「およ? これはこれはきょうちゃんじゃありませんか~いやぁ、昨日の雨の水滴が、顔に落ちてきちゃってさぁ。ほんと、困ったもんだよ~」


「……あなたは、これでよかったんですか?」


「うーん……どうだろぉ。最後くらいはいい成績出して、スッキリして終わりたかったけど……こうなったのは春夜の責任でもあるからね~仕方ないよ~」


「春夜先輩。もし、あなたが……まだ夢を諦め切れていないのなら……その夢を俺に背負わせてくださいませんか……?」


それが俺と春夜の、すべての始まりー……



「藍沢~~~~藍沢ってば。話聞いてんのか~?」


意識が途切れたのは、その声が聞こえたからだ。

恐る恐る顔を上げると、あきれたようなため息をつく秋山先生がいた。


「お前がぼーっとしてんの、珍しいな。生きてっか~? ちゃんと」


「はい……生きてます」


「とっくに終礼終わってんぞ? ダチ二人は先に帰ったみてぇだが……喧嘩でもしてんのか?」


「いえ、大丈夫です。日誌、あとで出しに行きますので」

そう言うと先生は疑いつつも、その場を後にする。

机の引き出しから日誌を取り出しながら、俺はひそかにため息をついた。


藍沢恭弥、弓道部所属の高校一年生。

今は文化祭も終わり、にぎわっていた校舎が少しずつ期末テストモードになりつつある。

にもかかわらず俺は勉強にも手が付かない。


それも彼女―春夜が俺に会いに来なくなったせいだ。

知らない男と話しているのを見ただけで、こんなに自分が複雑な感情を抱くとは知らなかった。

こんな状態の俺と一緒にいると、迷惑がかかってしまう。そう思い、友人である虹己と満にも距離を置くようにした。


あれから、数日。

二人と距離を置いたことに、悔いはない。だが一人になると、どうしても春夜のことを考えてしまう自分がいてー


『あんたさぁ、肩の力入りすぎなんだよ。色々と』


その時、だった。

ふいに声が聞こえたのは。


この声には、聞き覚えがある。俺達三人のことを全部わかってますよ、とばかりに何でも見透かしてしまう不思議な存在・フィオーリの青年、ミミルだ。

だが今は俺一人だ。満がいない限り、彼は俺の前には現れないはず……


『最近、調子がどーも乗らなくてね。二人と距離を置くって時に、心配だって満がうるさくかったからリハビリがてら、ちょぉっとあなたのメガネに細工して、こちらの声が届くようにしといたよ』


「なるほど……通信機のようなものか……いつの間に……」


『あんたの夢を少しばかりのぞかせてもらったけどさぁ、意外とぞっこんなんだね。虹己が呆れてた理由が、少しわかるよ』


いったい彼は、どこまで見透かしてしまうのだろう。

満の時といい、虹己の時といい、予想外のことをいとも簡単に出来てしまう。

それがフィオーリとしての彼の力なのだろうか……


『とまあそんなことより、鷹匠春夜のことなんだけど。そんなに考え込む必要ないと思うよ。すぐにわかるけど』


「どういう、ことだ?」


『携帯を見てみろ』


そう言われ、自分のポケットに入っていた携帯に通知があることに気付く。

そこには久しくなかった春夜からのメッセージだった。

「きょうちゃん、屋上にかも~~ん」と、彼女らしい、何の変哲もないものだった。

まさかとうとうお別れの申し出か……つい身構えてしまう自分がいて……


『藍沢恭弥。メールの字が見えないの? 今すぐ屋上に行け』


「しかし……」


『はぁ……あんたがそんなんだとさぁ、満だけじゃなく虹己までうるさいんだよ~? はよ解決して来な』


そうか、やはりあの二人は……

一人にしてくれ、とは言ったものの不安そうに見つめてくる視線があったことも気づいている。

それは満だけじゃなく、不満そうに満を引っ張っていった虹己も同じだとわかっていた。

ここでうだうだしていても、しょうがないということか……


「もし、結果が望むものじゃなかったとしても……ミミル、二人には言わないでくれ。俺自身でちゃんと伝えたいんだ」


『りょ~~か~い。ご武運を~』


その声を境に聞こえなくなった声をかみしめ、俺はやっと重たい腰を上げたのだった。


(つづく・・・)


ここにきて、やっと! やっと?

2人の馴れ初めを明かすことが出来ました!

いやあ、ぞっこんですね~

虹己君が呆れるのも無理はないかと・・・


タイトルに使った言葉は、

ドイツのことわざからもじっています。

ちゃんとした意味はのっていなかったのですが、

恭弥君に当てはまるように格言っぽくしてみました。


次回は22日更新。

ついに、真相が明らかに!?

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