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ep.33 〜いまこの時は未来への架け橋〜

ついに始まる文化祭。


虹己は友人の助言もあり、

結愛と回ることに。


彼女の希望で、自分のクラスに行くが

男児達のいたずらにより

結愛は逃げ出してしまうー

☆虹己Side☆


オレは、走っていた。

ただひたすらに、人混みの中をあちこちと。

どこを探しても彼女の姿は、影一つ見当たらなかった。


「くそ!! どこ行ったんだよ、あの人は!」


走っても走っても目に飛び込んでくるのは、なんだなんだとオレを変な目で見てくる奴らばかり。

……オレは、一体何をしているんだろう。


「ねえっ! 音波調(おとは しらべ)のチケット、当たったんだけど! 超やばくない!?」


「ええー、やばっ! 倍率高いって評判なのに! いいなぁ」


二人の女子が、テンション高めに話しているのが耳に入る。

……あの時と、同じだ。

どこに行っても同じ話。どこで会っても、同じことの繰り返しー


『やっぱあんた、あたしとパパの血を継いでるだけあるわ。期待してるぞ~虹己』


ふと奴らの言葉を思い出してしまうのは、あの時と状況が似ているからだろう。

思い出したくもない、遠い遠い昔の記憶。


オレの家は、音楽一家だった。

唯一無二のソプラノボイスを持つミュージカル女優の母と、世界屈指のピアニストである父。

そしてその血を証明するかのように有名になっていったバイオリニストの姉と、ギタリストの兄。


そんな家族がオレをほめてくれたのは、自分達と同じ才能があるとわかった、たった一回きり。

物心つく頃から両親のように、兄や姉のようになれと言われ続けてきた。

やる気がないのにどんどん上達していくピアノの腕が、憎たらしくてしょうがなくて。


それでもなんとかしがみついて、親の期待に応えなければと必死だった。

あの日―コンテストの大舞台に立つまでは。


『演奏をしないピアニストがいてどうすんのよ!! 出ていきなさい! あんたはもう、うちの息子じゃない!!!』


初めてのピアノ演奏舞台。オレは幕が上がったその瞬間、広がった光景に逃げ出していた。

演奏ができなかったんじゃない、しなかったんだ。

向けられるのはあの人の息子だという注目と、期待ー……


それをきっかけに、オレは人の目を浴びるのが怖くなった。

失敗したらどうしよう、必要ないと言われたらどうしようー

誰かになにか言われるくらいなら、何もしない方がいい。

何もせず、一人高みの見物の方が楽だから。


誰も、オレの親が有名人であることは知らない。

小学校に上がる前、自分の息子であることすら切り捨てた母親が、唯一音楽の道に行かなかったというひいばぁちゃんの名字を名乗れといわれたから。

それから数十年。もうオレの過去を知る奴は、一人もいない。

オレはただの一般人として、日の当たらない場所に逃げているだけ。


そんなオレと彼女はよく似ている。

だから、忌々しい昔の記憶を、思い出してしまうんだ。

このままほうっておけばいいのにと誰かが言ってもおかしくないだろう。

なんせ男性恐怖症だ。オレが行ったって、どうにもならないに決まってる。

むしろ小谷とかいう先輩を探した方が、一層楽な気がする。

ただ彼女の姿が、あの頃のオレと重なってみえて、じっとしていられなくてー


『あーあー、テステス。もしも~~し。ピアニストになれなかったちみ~~?? How are you?』


するとその時、ミミルの声が聞こえた。

だけど近くに満君はいないし、彼がここに来れるはずがない。

空耳かと思ってまた足を進めた、その時。


『あーーそっちじゃなくて逆方向。せっかく人が教えてあげてるのに、無視はひどくない?』


また声が聞こえた。

もしかしてと指にはめていた、指輪に目を落とす。

案の定、はめ込まれていた石が緑色に発光していて……


「……なるほど、指輪に通信機ね。なんでもありなんだね、君って」


『いやあ、それほどでもないよ~』


「探してくれるのはありがたいんだけど、人の過去のぞき込むのやめてくれる? オレはピアニストになれなかったんじゃなくて、ならなかっただけだから」


『やれやれ、人が心配してみていれば……今日は空がきれいだな~文化祭日和だって、バカの満が嬉しそうに話してたな~』


「は? ここ室内だから空なんて……」


『お前にはこの答えが分かるはずだろう? 相良虹己』


声だけなのに、まるで近くにいて馬鹿にされているような感覚になる。

これだからミミルは嫌いだ。

彼だけなのか、フィオーリがこういう集団なのかは甚だ疑問だけど。


「わかりづらい解説どーも。フィオーリ様」


そう言いながらオレはまた走り出す。

オレが向かった先―それは空がはっきり見える、彼女とオレが初めて会った場所―


「鳳先輩!!!」


屋上のドアを開けた少し先のところに、彼女はいた。

びっくりしたように肩を揺らし、ゆっくりオレの方を振り向く。


「やっと見つけた。もういくら男の人が怖いからって、なにも子供相手にそんな逃げなくても……」


「相良……君」


嫌み交じりに慰めよう、そう思っていた矢先だった。

オレの体に彼女が抱き付いてきたのは。

あまりのことに変な声が漏れ、なぜか動悸が早くなる。


「ちょっ、あんた自分が何してるか分かって……!」


「ごめ、ごめんなさい、自分が蒔いた種だったのに……! 相良君の力になりたかっただけなのに……!」


そう言う彼女は泣いていて、声を一生懸命絞り出していて

怖いはずのオレに近づけているのが、不思議でしょうがないほどに震えていて。

どうしようもない彼女を、一人で泣かすわけにはいかなくてー


「……あーもー……そういうのいいですから。とりあえず落ち着いてください」


気が付いた時には、彼女の頭をなでていた。

ダメだって、わかっているのに。

ここで一人にしてはダメだ。彼女がオレと同じ道に行かないためにも。


「急だったから、びっくりしたんすよね。分かってますよ、それくらい」


「……ごめんなさい。また迷惑かけちゃった……」


「迷惑だとは思ってないんすけど~……それよりこの状況はいいんすか? そのぉ……男の人とふっつーに密着しちゃってますけど……」


「私のいとこ……男の子なんですけど、彼しか話せなかったんです。不良に襲われてから、怖くて……でも相良君と出会ってからは、男の人でも怖くない人がいるんだってわかって……そしたら少しだけよくなったような気がして……」


小さな声ながらも、彼女の意思はしっかりしていて。まっすぐオレを見ていて。

涙を拭きながら、優し気な微笑みを浮かべて。


「だから私、相良君に恩返しがしたいんです。まだ完全になおったとはいきませんけど……こんな私を、おそばにおいてくれませんか?」


その時、心臓に電気のような衝撃がオレを襲った。

それは初めて彼女を見た時の感覚と、同じー

この感情が何なのか、とっくに分かっていたのにずっと目をそらし続けてきてー


「恩返しだなんて、大げさっすよ。言われなくても、彼氏になるって言った時からそのつもりだったし。あんたのそばにいれるのはオレくらいでしょ?」


「あ、それもそうですね。じゃあ改めてよろしくお願いします、相良く……」


「虹己でいいよ。だから……オレも名前で呼んでいいよね? 後輩だけど」


嫌み交じりに言ったせいか、彼女はくすっと笑う。

オレもなんだかほっとしたように、自然と笑みがこぼれた。

ずっとずっと逃げてきた。昔も、今も。


でも彼女といると、自分が試されているように感じる。

だから少し、少しずつでいいから、過去の自分とも向き合えますように……


(つづく!!)

前回と、今回のタイトルと繋げて読んでください

文化祭のテーマっぽくないですか?

それっぽいのをいっぱい探しました笑


今回で明かされる、虹己の過去ですが

手先が器用な人ってピアノが弾ける人が

多い気がするんですよね。


そんな彼の過去を誰も知らない設定ですが…

知っていても、満君らは自然に

仲良くなっていたと思うんです。

そんなこと気にしないよ、と言ってくれそうですよね。

3人がいかにして仲良くなったのか……

いつかどこかで、見られたらいいですね。


次回の更新日を、勝手ながらに変更させていただきます

12日の予定です!

満、虹己の次といえば…? お楽しみに!

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