ep.30 彼等の萌え要素はインフィニティー☆
タイムリミットまで時間がない中、
満は雲雀のために定期演劇会へ向かう。
一人プレッシャーに戦う、彼女をすくうために。
無事に彼女の笑顔を取り戻すこともできた二人は付き合い、
止まっていた時間が再び動き出すー
十月です。
木に生い茂っていた紅葉が赤く、イチョウが黄色く色づいてきたこの頃。
吹く風が段々、涼しさを感じさせるような……ひんやりとした感触に変わっていく。
「知っての通り、末は文化祭だー。各自やりたいこととかねえか、友達同士で話してくれー五分経ったら集計すんぞー」
さもめんどくさそうにあくびをしながら、黒板にある三文字の漢字を残していく。
文化祭。それは学生生活において、一大イベントと言ってもいいもの。
僕達の高校、四葉高校には珍しく体育祭がない。
そのため文化祭に気合を入れる人が多く、まだ一年生だというのにみんなのテンションも高めだ。
もちろん、僕もその一人であったりするわけで……
「文化祭! 何しよっか、恭弥君!」
「満、いつもより興奮していないか?」
「だって文化祭だよ! 高校生の文化祭って、なんだかワクワクしない?」
「相変らずだな、お前は」
「雲雀先輩も部活が終わったから一緒に回れるって言ってたし……春夜先輩や鳳先輩を連れてまわってみようよ! ねっ、いいよね? 虹己君!」
隣の席にあたる彼に、同意を求めるように声をかける。
……が彼―相良虹己君は、気付いていない様子で深いため息をついているだけだった。
どうしたんだろうと首をかしげながら、僕は恭弥君と目を合わす。
と、そんな時―
「ふぁ~~~……なんか決めるのめんどくせー……俺ねみぃし、あとは実行委員に任せていいかー? 立候補者きょ~しゅ」
相変わらずの先生節に、クラスメイトが一斉に「えー」と声を上げる。
そういえば実行委員なんてものが、中学校時代でもあったっけ。
高校でもあるんだろうなあとは思ったけど、こういう形で決めるなんて先生らしいなあ。
実行委員って結構みんなの前に立ったり、することも多いだろうし……うう、どうしよう……
「立候補者なし、か……じゃあ今日の日直の相良~頼まれてくれね?」
思わぬ名前に、え? と僕が返事をしてしまう。
当の本人である虹己君は、聞いてなかったのか何のことか分かってないような顔をしている。
そんな彼にかまわず、先生は
「じゃああとは相良に託すわ。お前らー、相良の言うことちゃんと聞けよー」
と黒板にさらさら、実行委員に虹己君の名を書いてしまう。
すると虹己君はようやく事態を把握できたようで……
「ちょっ、まっ! 何を勝手に!」
「ほい、じゃあ俺寝るから」
「先生としてそれでいいのかよ、あんたは! 第一、オレは……実行委員なんて……」
机の上に置かれた両手が、少し震えている。
ダメだ、このままじゃ……!
「せ、先生!!! ぼ、僕もやります! 虹己君と恭弥君の三人で、一緒にやってもいいですか!?」
気が付いた時には、すでに手を上げていたのだったー
「カフェ……展示……メイドカフェ、男女逆転希望……みんな、すごい色々考えてるなあ」
集まった紙を一枚、また一枚と机の上に広げていく。
放課後。僕たち三人は皆が出してくれた、案の紙をチェックしていた。
先生は係に任せたという言葉だけ残し、さっさと職員会議へ行ってしまった。
取り残された僕らは部活動生の声や物音を聞きながら、うんうん頭をうならすばかりで……
「こうも具体的すぎるのも考えものだな。色々ありすぎて、選びきれん」
「一番多いもの、にしようと思ったけど……こうもばらけてると難しいよね……」
「……あの……二人とも……」
僕と恭弥君で手分けしている中、か細い声が耳に入る。
ぱっと隣を見ると、珍しく体を縮こませている彼は申し訳ないとばかりに
「なんか、悪いな……巻き込んじまって……」
とらしくない声で謝ってみせた。
「何を言う、虹己。困ったときはお互い様だろ?」
「そうだよ! 虹己君が出来ないことは、僕達に何でも言って! 協力するから!」
「……いつもはうっとおしいとしか思えなかった優しさが、今は痛いほどしみる……いい人すぎでしょ、君達」
「感謝するのか文句言うのか、どっちかにしようよ……虹己君」
今日が日直だからという不憫極まりない理由で決まってしまった、彼の実行委員の任命。
実行委員に躊躇していた僕がすぐに手を上げたのは、彼の意外な弱点を知っていたからだ。
虹己君は人に好かれやすい。だから彼だからこそ任せたい、というような係に推薦されることが多い。
だが彼は、みんなの意見とは真逆に注目されるようなことは一番苦手ならしい。
そのためありとあらゆる手を使って、うまい具合に交わしてきた。
正直僕も、なんで苦手になったのかまでは知らないんだけど……
「そういえば虹己君、先生に言われた時……最初、何も言い返さなかったよね。僕が呼んでも気づいてなかったし……何か悩み事?」
「え? いや、別に……」
「このところ様子が変だぞ。何かあるんなら、話してほしい。友達だろ?」
恭弥君はさすがだなあ、僕もこんな風な頼もしい言い方が出来ればなあ。
そんなことをのんきに考えながらも、うんうんと同意するように虹己君の顔色をうかがう。
虹己君は僕達が言わないとあきらめないことを悟ったのだろう。はぁっと深いため息をつき、目線をあえてそらしながらゆっくり口を開いた。
「オレ……さ。鳳先輩と勉強会したり、お祭り行ったりしたじゃん? 二人と、ついでにミミルのおかげで一応宿題も出せたから……すげー感謝してる。それで、悩みっつっていいのかはわかんないけど……」
はあっと一息はくと、虹己君は頬をかく。
言いづらそうなその姿は、なんだか見慣れなくて……
「見ちゃったんだよね……鳳先輩が、男の人と触れ合ってるとこ……」
その言葉に、ええ?! と驚きの声を上げる。
鳳先輩というのは彼の相手役にもなってくれている、鳳結愛先輩のこと。
人見知りなうえに男性恐怖症という、ミミルの力なくしては虹己君に近づくことさえできなかった。
それなのに……
「もしかして、演劇会の帰りに一緒にいた男性のことか?」
「恭弥君、知ってるの?」
「詳しくは知らないが……つまり虹己は、触れられる相手がいるんだとしたら、自分が彼氏になる必要がないと思った……ということか?」
「えーっと、まあ、そんな、とこ?」
「へえ~~~本当にそうかぁ? 結愛って子にガチで惚れちゃって~その男の登場にもやもやしてる、が正解でしょ~~?」
聞き慣れた声がする。
ぱっと隣を見ると、僕達の机の上にあごをのせ「よっ」と軽く挨拶をしてみせる。
無論、ミミルだ。
「ちょっ、何勝手なこと言ってんだよお前! んなわけねぇだろ!」
「え~~~でなきゃそこまで悩むかね~~普通」
「こいつ……!」
「ま、何はともあれそいつの情報でも握って形勢逆転してくださいな」
……あれ? おかしいな。
いつもならここですごい案を勝手に始めたり、聞いてもない人の情報をぺらぺら教えてくれるはずなのに。
そんな僕の心を読んだんだろう。ミミルはあーとばつが悪そうに、
「教えてやりたいのはやまやまなんだけどね~あの時の女といい、そいつといい……心が読めないんだよね~。だからお前の退学危機も、予期できなかったわけ」
あの女、って鷲宮先輩のことかな。
それで僕が退学危機に陥るまで、何もできなかったってこと……?
「あ、でも他の生徒達の思考から、手に入った情報もあるよ? その男はこの学校にいて、しかも結愛と春夜のクラスメイト~」
「なっ!!!!?」
「つーわけだ。俺に聞くより、もう一人の彼女さんに聞いた方が早いんじゃないの? んじゃ、そういうことで」
そう言うと彼は姿をさっと消してしまう。
いなくなってしまった空間を見つめながら、僕は二人と目を合わせることしかできなかったー。
(つづく!!)
前話の内容で、劇中にミミルの名前の原点があったり、
姿を変えているのにどうして智恵には
満が分かったのかだったり
色々な疑問をすっぽかしました。
実はちょっとした伏線だったりするので、
あとがきで触れようと思っていたのですが・・・
すっかり忘れていました、えへへ。
と、そんな本編では文化祭編が始まります。
初の試みで、体育祭がない学校にしてみました。
調べてみると、そういうところも
少なからずあるそうですよ。
まあ、過去作品でドンパチしすぎたので・・・
いいですよ、ね?
そんな文化祭編でスポットが当たるのは、虹己君です。
むかーーしにあげたプロフィールには伏せてあったのですが
そう。彼は、注目されることが苦手なんです。
やっと全部明かせた感じがして、ひとまず安心しています。
次回は22日更新予定!
はたして、結愛と一緒にいた男性の正体とは・・・?




