ep.28 恋敵ってこんなに厄介なものでした?
智恵の登場により、雲雀をとられ、
彼女を失ってしまった満は、
一気に退学に追い込まれる。
雲雀の本物の彼氏になりたいという彼は
ミミルらと共に闘志をみなぎらせるが・・・
時刻は十二時。
昼休みをお知らせするチャイムが、校内に鳴り響く。
みんなご飯を食べるため、場所の確保や学食に向かう。
わいわいとおしゃべりするクラスメイトに目を配らせ、誰も僕を見ていないことを確認する。
……よし! 今なら……!
がたっと立ち上がり、教室を出ようとする。
その途端、すっとどこからともなく男子生徒が僕の足を止めて……
「どちらに?」
外に出させまいとばかりに、ぎろりとこちらをにらんでいる。
あまりの圧迫感に僕はどうすることもできず……
「あ、あははははは~何でもないですぅ~!」
結果自分の席に戻って、ため息をつく。
このやり取りを何回すれば気が済むんだろうと、自分にため息をつく。
「情けないねえ、毎度毎度」
一部始終を見ていたのか、にやにや虹己君が笑みを浮かべて僕の方に来る。
彼の隣にいた恭弥君は、ドンマイというように肩をたたき自分の弁当を机の上に置いた。
「最近視線をよく感じるとは思っていたが、まさか全部先輩のファンクラブだったとはな」
「今まで何もしてこなかったくせに今更何って話だよね~これじゃ、先輩のとこ行くのさえ無理じゃね?」
二人が言うように、僕はあれ以来色々な人に見られている。
犯人はもちろん雲雀先輩のファンクラブ、ヒバリクラブと言われるものだ。
入っている人は主に上級生が多く、一年生は演劇部の人くらいしか入っていないらしい。
そのファンクラブが先輩のところに行かせまいと、僕をずっと見張っているのだろう。
おそらく、鷲宮先輩の指示に間違い無いだろう。
どうやら本当に僕と彼女を、引き離したいらしい。
おかげであれから一週間たった今でも、先輩とはいまだに会えないし……
「何とかファンクラブの人たちを巻く方法ないのかなあ……」
「あったとしても考え付かないでしょ。君、頭悪いんだし」
「虹己君よりはいいも~ん~」
「おそらく俺達が動いても同じだろうな。こうして満と一緒にいる時点で、仲間だとわかっているに違いない」
恭弥君が推理するような口ぶりで、どうする? と僕に聞いてくる。
正直に言って、ここまでひどいとは思っていなかった。
そりゃ僕のことが気に入らないのは、しょうがないことだと思う。
でもこうやって毎日のように見張られるのは、さすがに嫌というか……
「やれやれ、予想以上の大物だね。その鷲宮智恵っていう女は」
いつの間にいたのか、隣にはミミルがいて我が物のように買っていた僕の弁当を食べている。
彼は口を舌でまわすようになめると、ぱちんと指をならす。
その瞬間、人々の動きが止まった。
笑ったままの人、あくびをしたまま口を開けた人。
外で飛んでいる小鳥や風で舞う葉っぱ……ありとあらゆるものがその場で静止していて……
「なにこれ……」
なぜか口も、体も自由がきく僕はそう言うしかなかった。
同じ状況なのは僕と二人くらいで、みんながみんなやっていたことの動作のままピクリとも動かない。
これって、もしかして……
「お前ら以外の時を止めた。満を屋上に飛ばす。二人は俺が合図するまで、トイレにでも隠れておけ」
「はぁ!? あんた、何考えて……!?」
「……わかった。行こう、虹己」
「ちょ、恭弥君!? ああ、もう! ちゃんとやんないと許さないからね、満君!」
時が止まった状態の中、二人は足早にどこかへ行ってしまう。
これもまたミミルの力なのかと、すごさで声さえ出ない僕はミミルを仰ぎ見る。
彼は睨むような、鋭い眼光を向け
「時間がない。しっかりやるんだぞ、満」
またぱちんと指を鳴らして見せた。
その瞬間、僕は屋上にいた。
止まっていたはずの風や小鳥たちが、思い出したように動き出す。
その風に揺られながら、屋上にいたのはー……
「……嘘……みっちゃん……?」
雲雀先輩だった。
誰かと食べていたのか、弁当が二つ置いてある。
彼女は持っていたパンをポトリと落とすと、ばっと僕の方に駆け寄ってくれて……
「どうやってここに!? 外には、ファンクラブの子達がいたはずじゃ……っ!」
「そ、それはえっとぉ……」
「けがは? 何も、されてない!? ごめんね、ともちゃんが勘違いしたばっかりに……」
心配そうに僕を見つめる彼女は、いつもと変わらない雲雀先輩で。
たった数日しか会えていないのに、無性に安心した気持ちになる。
ああ、やっぱり僕は先輩のこと……
「ずっと会いに行けなくて、すみません。僕、先輩とお話がしたくて」
「……うん、私もずっと話したかった。申請書のこと……本当にごめんなさい」
「雲雀先輩のお友達なんですよね、鷲宮先輩って。同性も許可されていたのに、どうして今彼女に?」
「ともちゃん、一年間語学留学で海外行ってたんだ。だから、この校則のことも知らなかったの」
そう語る雲雀先輩は苦しそうで、悲しそうでとても見ていられなかった。
それでも僕の体を離さず、無理にでも笑ってみせる。
「二学期から帰ってきたんだけど、校則のことを知った途端すごい聞かれて……みっちゃんと彼氏だって言ったら、これからは私が彼女になるからその子とは別れろの一点張りで……」
「それで僕のところに……」
「本当は別れたくなんてなかった……けど話がどんどん大きくなっちゃって、みっちゃんにも会えなくなっちゃって……私は嫌! 私のせいで、みっちゃんが退学になっちゃうなんて!!」
雲雀先輩のこんな顔を見たのは、あの演劇大会以来だ。
それだけ彼女も困っていて、僕と同じ状況なんだってわかる。
その友達はどうして自分一人で決めちゃったんだろう。
友達なら、相手の話くらい聞いてもいいだろうに……。
「先輩、一度話してみませんか? 鷲宮先輩と。ちゃんと話せば、絶対分かってもらえます!」
「でも……」
「それに僕、退学まで結構期間があるんです。と言ってもあと二週間しかないんですけど」
「……二週間? それって九月の末の……?」
「随分と勝手な真似をしてくれるのね、赤羽満」
屋上のドアが、勢いよく開く。
そこにいたのは、ものすごい怒った様子の鷲宮先輩だった。
彼女は僕と雲雀先輩を引きはがすと、雲雀先輩を守るように前に立って見せた。
「雲雀から離れろって言ったのに、なんて言い訳のきかない男なの!」
「ち、違います! 僕はただ、先輩と話がしたくて……!」
「うるさい!! どうやってみんなをまいたのかは知らないけど、これ以上この子にかかわらないで! 雲雀は今、大事な時期なの!!」
大事な、時期……?
僕が首をかしげていると、そんなことも知らないんだとばかり鼻で笑う。
彼女は怒りを込めながらも、僕にわからせようという口ぶりで話し出した。
「九月末の金曜日。三年にとって最後の舞台、定期演劇会があるの。そこには大学の教師だけじゃなく、プロの事務所の人が彼女を見に来る……雲雀の未来がかかっているの! 何も知らないあなたに、雲雀のそばになんていさせない!」
そういうと彼女は強引に、雲雀先輩をつれ屋上を後にする。
あっと声を出すも、むなしく風で消えていく。
その声が聞こえたのか雲雀先輩が、後ろを振り返ってみせる。
それは悲しそうで、苦しそうで、その瞳が助けを求めているようでー……
定期演劇会。
それが彼女にとって何を意味するのか、僕にはわからないけどー
「ミミル、いる? 頼みたいことがあるんだ」
自分の退学危機よりもそのことが頭の脳裏に刻まれ、一人取り残されながら僕はある決意をしたのだったー……
(つづく……)
最近、裏話でいかに顔文字を利用して
面白く、表情豊かに見せられるか研究中です。
というのもとてもいい顔文字アプリを
インストールしたんです。
本編とは真逆に、面白おかしくやっているので
そちらもあわせてお読みくださいませ。
ちなみに最近見つけたんですが、こちら…→(▭-▭)
きょうちゃんにぴったりじゃないですか…?笑
以上、本編とは関係なく楽しんでいる
後書きと言えない後書きでした。
次回は8日更新。
満の戦いはまだまだ終わらない!




