ep.24 リア充あるところ、フィオーリあり
宿題提出のため、夏祭りに誘われた虹己は
満と恭弥も道連れに、みんなで行くことに。
ミミルの不思議な力を宿した眼鏡を利用し、
男性恐怖症の結愛と春夜と
回ることになるが…?
「きょうちゃぁん。かき氷の抹茶味、意外とおいしいよ~? はい、あーん」
「あん……確かに悪くない味だな。このたこ焼きも食べるか?」
「いいの~? じゃあ食べさせて~」
「まったく……世話が焼けるな。ほら」
周囲の声がまるで、虫の声のように遠く聞こえるように感じる。
それはきっと、二人に挟まれているからだろう。
春夜先輩がいる時から、こうなるんじゃないかってうすうす勘づいてはいたけれど……
「……ちょっとオレ達がいること忘れてないよね? リア充恭弥君」
その二人を嫌というほど見る羽目になっている虹己君が、不機嫌そうに言う。
おどおどしている鳳先輩とは逆に、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。
カップルが多い中でも、二人は相変わらずだ。
食べさせ合ったり、射的でほしいものを取ってあげたり……ほんと、どこから見てもお似合いなカップルである。
虹己君は多分、それを目の前で繰り広げられることに怒っているようで……
「もぉ~こうきんってば春夜達の邪魔ばっかり~自分もリア充になればいい話じゃ〜ん」
「オレが怒ってるのはそういうことじゃありませんから」
「すまん虹己、満。春夜といると、どうしても……な」
「だ、大丈夫だよ恭弥君! 僕達こそ、話に水を差しちゃってごめんね?」
僕が謝ったせいか、虹己君の怒りの目が一瞬だけこっちを向いた気がする。
正直いづらいって気持ちがないってことはない。
けど鳳先輩がいる以上、あまり離れちゃいけないような気がするっていうかなんていうか……
「まったくしょうがないなぁ。じゃあ〜結愛ちんの好きなぬいぐるみが輪投げ屋さんに置いてあるから、あれ取ってくれたらちょっとはおとなしくするよ~?」
「は? なんでオレが」
「結愛ちんあれほしいって前言ってたもんね~?」
「え? あ、うん……そうだけど……」
消え入りそう声ながらも、浅く彼女はうなずく。
それでも春夜先輩が言っているのは本当のようで、輪投げ屋にあるくまのぬいぐるみを一心に見つめていた。
その光景を見た虹己君は、しびれを切らし
「ったく、取ったらリア充禁止っすからね?」
と言って代金をおじさんに渡した。
すると鳳先輩は申し訳ないと思ったのか、焦ったような声をあげた。
「あ、あの、欲しいのは、本当なんですけど……相良君のお金なのに、私のためにそこまでしなくても……!」
「別に、あんたのためじゃないっすよ。このリア充二人を黙らせたいだけ」
「で、でも……!」
「それに、こういうぬいぐるみってちょうどいいんすよね。手芸の参考に。本当にいらないっていうんだったら、オレのものになるってだけ」
赤色の輪投げが、狙ったものへ一直線に投げられる。
さすが虹己君、といったところか。
彼の投げた輪はあっさりとぬいぐるみをつかまえ、一発でゲットしてしまい……
「はい」
店員さんからもらったぬいぐるみを、無造作に彼女に渡そうとする。
なんだかんだ言ってたけど、最初から先輩のためだったのかな。
鳳先輩はそのぬいぐるみを受け取ると、今にも泣きそうな声で
「ありがとう……ございます」
と笑って見せた。
その笑顔が彼にどう見えたのか、虹己君はサッと向きを変え恭弥君達の方を振り返り、
「さあ約束ですよ! おとなしくしてもらえますか!?」
と怒りをあらわにした。
するとなぜか二人は嬉しそうな笑みを浮かべていて……
「んも~~しょうがないなあ。じゃあいきますか~きょうちゃん」
「ああ。じゃあ満、後は頼んだぞ」
……え?
ちょっと待って。何がどうなってるの?
僕が聞こうとする前に二人は「じゃあ」と言って、人ごみの中に消えていって……
「目につくから気に障ってしまう。ならばいっそのこと俺達は離れて行動しよう……さっすが藍沢恭弥~こん中で一番男気あるってだけあるね~~」
「み、ミミル! もしかしてこれもミミルの仕業!?」
「ざんね~ん。俺の仕事はここからでーす」
べーと舌を出すミミルに、どういうこと? と聞き返す。
すると同時に、
「あれっ、みっちゃん?」
聞き慣れた、声がする。
まさかと思い振り返ると、そこにはノースリーブのシャツを身にまとった雲雀先輩がいた。
「ひ、雲雀先輩! 来てたんですか!?」
「みっちゃんこそ~来るなら誘ってくれてもよかったのに~」
「ご、ごめんなさい! 誘うの、申し訳なくって…」
「別に全然いいのに〜あ、そうだ! こうして会ったのも何かの縁だしぃ、一緒に花火でも見ようよ! 私、特等席取っといたんだ!」
そういうと断る暇なんてないというように、強引に腕を引っ張られる。
なんだろう、ミミルといるといっつもこんな感じになる気がする。
うわぁぁぁぁん、誰か助けてぇぇぇ……
声に出せない悲鳴と、言うに言えなかった虹己君への謝罪の言葉を、僕は心の中でずっと連呼していたのだったー……
∋∋
「……最悪。ミミルも恭弥君も満君も、オレをなんだと思ってんだよ」
怒りに身を任せた足取りが、砂利の音を強くする。
花火が始まる時間だとばかりに、人々は自分とは逆に流れるように行ってしまう。
あれよあれよと二人きりになってしまった虹己は、なぜか落ち着かずにいた。
結愛には自分が女に見えている。おびえられる心配も、どこかに行ってしまう心配もない。
それでもどこか一緒にいてはいけないようなきがして、その場に耐え切れず飲み物を買ってくると一人休憩所で待たせてしまったのだ。
そんな自分のもどかしさと、周りのお節介にイライラが募る。
どうしてこんな気持ちになるのか、わからないけど。
さっさと花火見て帰ろう。そう思いながら、彼女のもとへ戻っていると……
「は、離してください!!」
声が、聞こえた。
消え入りそうな声じゃなく、誰かに助けを求める声。
小走りで向かうと、休憩室にいたのは一人で待っていたはずの結愛と、それに絡んでいるガラの悪そうな男達だった。
「いいじゃあん、一人で花火なんて寂しいだろお? オレが一緒に見てやっから」
「い、嫌です! 離して……!」
「弱いくせに抵抗しやがって。かわいい顔が台無しだぜっ!」
するとその不良達は、彼女からメガネを取り上げてしまう。
途端、結愛の視界には恐ろしい光景が飛び込んできた。
けらけら笑い、彼女に何かしようと手が次々と彼女をつかむ。
「ひぃっ……!」
誰も、このままじゃまずいとわかっていた。
けれど人々はみな、見ないふりをしてどうすると話をしているだけ。
なんとかしなければ。虹己はすくむ足を何とか動かす。
その時―
「おい。てめぇら、そろいもそろって懲りねぇなあ」
虹己のすぐ横からすたすたと、一人の男性が姿を現す。
チャラチャラと音を立てるチェーン製の腕輪が、音を立てて揺れる。
顔までは見えなかった。
ただその男性を見た途端、不良達は尻尾撒いて逃げ出してしまい……
「ったく、一人で行動すんなってあれだけ言ったのに……お前も懲りねえな」
「……真純……君」
どんな男性でも怖くて近づけなかったはずなのに。
たくさんの女の子にかっこいいって言われてたオレでさえ、彼女に近づけなかったのに。
彼女―結愛はその男性に泣きながら、抱きついてたのだったー……
(つづく……)
夏祭りなんて、ここ数年行っていない作者ですが
彼らはなんだかんだ充実してますね。
春夜ちゃんと恭弥君の通常運転といい、
ミミルの策略にハマりっぱなしの満といい、
虹己君は毎日大変そうです。
はたしてこの2人の行方は、どうなることやら。
まだまだ先の話になりそうです…
次回は13日更新。
満の新たな一面がベールを脱ぐ!?




