ep.18 フィオーリ様は縮めたい
期末テストで平均点ジャストを取ってしまった満。
赤点だった虹己とともに、
追試を受けることになってしまう。
唯一優秀な恭弥の手を借り、
勉強会をすることになるが・・・?
放課後を知らせるチャイムが、鳴り響く。
カリカリと、シャーペンで文字を書く音だけが教室に響く。
外ではサッカーや野球など、様々な部活動生の声が聞こえてくる中僕はというと……
「できた~~~きょうちゃん、あってる? 正解?」
「……ああ、完璧な答えだ。よくできたな、春夜」
「えへへ~~でっしょ~~? ほめてほめて~」
二人の世界に、どうしようもなく入っていけません。
テストが帰ってきた放課後、恭弥君に勉強を教えてもらおうと集まった僕達。
その中に、なぜか恭弥君の彼女である春夜先輩まで一緒に混じっているこの状況。
最初は恭弥君が誰も教えてないときに聞こうと思っていた質問も、今ではきくにきけなくなってしまった。
というのも、さっきからこの二人すごくいい雰囲気で……邪魔するのはいかがなものかと……
なんだか前も似たようなことがあったなあと、しみじみ感じている僕だけどそれより問題なことがもう一つ……
「結愛ち~~~ん、みてみて~? 春夜ちゃん成長したよぉ~」
「ふぇっ? う、うん……すごい、ね」
「結愛ちんもこっちきなよ~一緒に教えてよ~」
「む、無理! 彼氏さんにお任せします!」
びくびくしながら、肩を縮こませる。
彼女―鳳結愛さんも、この勉強会に参加している一人だ。
なぜ彼女が参加しているのかというと、春夜先輩曰く恭弥君に聞いてもわからなかった時に聞けるように……とのこと。
きっと無理やり連れてこられたようで、異様にびくびくしている
机をくっつけてグループ状にしているのに、彼女だけ離れた席で一人勉強している。
それもそのはず。だって彼女は……
「あーごめんねえ、きょうちゃん。この子、緊張しててさぁ」
「緊張……というより近寄れないんじゃないのか? 男性恐怖症なのだろう?」
「そうなんだけどぉ。きょうちゃんのお友達が彼氏さんでしょぉ? ちょっとは結愛ちんに慣れてもらおうと思って~」
鳳先輩は男性恐怖症が故に、近づくことすらままならない。
虹己君の彼女になってもらう一連のことで、それは痛いほど痛感した。
だからこそ男子が三人もいるこの場に、彼女がいれるわけがなくて……
「鷹匠先輩、でしたっけ? 余計な心配はいらないっすよ。必要以上に近づかないって約束しましたし、校則でやってるだけなんで」
「そうなのぉ~? こうきん手厳しい~~」
「人をばい菌みたいな名前で呼ばないでくれます?」
彼にそう言われても、春夜先輩はいいと思うのに~となおも続けている。
それを勉強に集中しろと、恭弥君が促してまた同じ流れに戻る。
恭弥君が勉強を教えている間も、僕は鳳先輩の方が気になっちゃってちらちら見てしまう。
鳳先輩はいづらそうに肩身を狭めていて……
「……満、虹己。手が進んでいないようだが集中できているか?」
「あっ、ごめん……ちょっと考え事を……」
「あのさー彼女に教えるのかオレ達に教えるのかどっちかにしてくんない? 嫌というほどリア充見せられて、こっちのやる気がうせるんだけど」
自分の思いをこうもはっきり口にしてしまうのは、実に虹己君らしい。
正直僕も二人の雰囲気に圧倒されて、勉強どころじゃない。
どうにかならないかなあという淡い期待をしながら、彼の方を仰ぎ見答えを待っていると……
「じゃあ満ちんとこうきんは、結愛ちんに教えてもらえば~~?」
予想の斜め上の答えが返って来て、思わず彼女の方を見てしまう。
答えた本人の春夜先輩は正しいことを言ったかのように、少し胸を張っている。
誰も言葉を発することなく少しの間、謎の静寂と化してしまい………
『まさか彼女さんからこんないい提案が聞けるとはなあ』
僕達の頭の中で、声がする。
何かたくらんでいるように笑う、低い声……ミミルだ。
どこかにいるのかと周りを見ても姿はなく、なおも僕達に語り続け……
『満が第一条件をクリアしたんだ。次は虹己の番だろ?』
「……恭弥君はどこ行ったわけ」
『恭弥はすでにリア充じゃん。逃げようたって無駄だよ』
「あのさぁ……」
「こうき~~ん? 誰とお話してるの~?」
春夜先輩が不思議そうに、首をかしげている。
フィオーリの姿、声を聞けるのは僕たち三人だけ。
だから見えない彼女にとっては、一人で何かをしゃべっているようにしかとらえられていない。
そのことがわかっているのか、虹己君はすごく不満そうに顔をしかめ
「……へーへー、二人きりにすればいいんでしょ」
覚悟を決めたように、彼女のもとへ行ってしまったのだった。
きょうちゃ~んと親し気に呼ぶ春夜先輩の声が聞こえる。
相変わらずの二人を横目で見ながらも、僕は虹己君と彼女を交互に見ることしかできなかった。
春夜先輩が言い出してから約数分。
僕は彼女の言われた通り、席を移動し鳳先輩がいる端の方に座っている。
とはいっても男性恐怖症であるのには変わらないので、三つくらい席を離して座っているんだけど。
二人で移動したはいいものの、会話を一切かわせていなくて……
こ、ここは僕から会話をしないと!
「あの鳳先輩!!」
「は、ひゃい! なんでしょう!」
「えっとぉ、その、ここの問題の解き方が分からないんですけど……」
そう言いながら近づこうとして、はっとする。
よくよく考えてみれば、問題を見せないことには教えてもらうことすら無理だよね?
でも近づくと怖がられちゃうし……聞こうにも聞けないような……
「はぁ……恭弥君。教科書、春夜先輩に渡して」
「ああ、かまわないぞ」
「春夜先輩はその教科書を鳳先輩に渡してくれます?」
「お安い御用~」
呆れたようにため息をつきながら、虹己君が的確な指示をする。
春夜先輩がど~~ぞ~~と鳳先輩に渡すのを確認すると、彼は僕の教科書をのぞき込みながら
「で、どこ?」
と聞いてくれた。
「範囲になってる24ページの問8だよ。虹己君、わかる?」
「わかるわけないからここにいるんだっつーの」
そんなひねくれたいい方しなくても……
僕達がしばらく会話していると、鳳先輩はここなら……と話をしてくれた。
ここはどう解くのか、どうしてこの答えになるのか、隅々まで丁寧に教えてくれた。
まあ最後まで、彼女は僕と目を合わせてくれなかったけど……
おかげで今まで疑問に思っていたことが、あっという間に解決してしまった。
「こ、こういう感じ、なんですけど……」
「ありがとうございます、先輩! すっごくわかりやすかったです!」
「いいいえ! と、とんでもないです!」
「オレもすぐわかりました……鳳先輩って男性恐怖症のぞけば、鷹匠先輩より有能になるんじゃないっすか?」
「ちょっと~~その言い方はひどいなあ~」
話を聞いていたのか、春夜先輩がぶーぶー言っている。
でも虹己君が言うのもわかる。
僕達にわかるようにと気を使ってくれたのか、先生並みにわかりやすかった。
本気で言っているのに先輩は肩を縮こませ、恥ずかしそうにうつむいた。
「わ、私なんて春夜ちゃんに比べたら雲泥の差……というか……私なんてダメダメで……いつも迷惑かけちゃってますし……」
「そうかもしれませんけど、オレ的には鷹匠先輩も似たようなもんだと思いますよ?」
「いいますなあ、こうき~ん。まあでも結愛ちんにはノートと宿題うつさせてもらってるし~感謝してるよ~」
「ほら先輩もこういってますし」
あの虹己君が、優し気な声色で彼女をほめている。
なんかめずらしいなと思いつつも、賛同するようにうんうんとうなずいてみせる。
「ありがとう……相良君って、優しいんですね」
それが分かってほっとしたのか、鳳先輩はにっこりと笑ってみせる。
初めて見た、彼女の笑っているところ。
なんかきれいっていうか、引き込まれるっていうか……
「そ、そういうのいいから! 次の問題に行きますよ! 満君も、追試不合格になっても知らないから!」
「わ、わかってるよ! じゃあ鳳先輩、よろしくお願いします!」
「は……はい。私でよければ」
少しずつ、何かが動いている。
そんなことを実感できた、放課後の一時は過ぎていったのだったー
(つづく!!)
地味~~~に進んでいるような、進んでいないような
二人の距離感を表わすのは結構大変ですね。
結愛ちゃんも好きですが、個人的には
春夜ちゃんのノリが好きです
ニックネームの付け方もそうですが、
いかにして恭弥を落としたのか・・・
それを語るのが待ち遠しくて仕方ありません。
次回は8日更新。
ようやく夏が来ます!