ep.14 君と僕で紡ぐ“青春”を
強制恋愛法期限日当日。
未提出である虹己のために、ミミルが考えたのは
男性恐怖症の結愛と女性として話すことだった!
何はともあれ、無事に3人とも提出できたが・・・?
奥のコートではバレーを、手前のコートではバスケをしている音だけが軽快に鳴り響く。
舞台の上にはホワイトボードと、何かを作ろうと崩された段ボールや油性ペンなどが、ばらばらに置かれている。
それも彼女がみんなに、声をかけたからだ。
「みんなぁ、ビックニュース! なんとこのたび! 演劇部に助っ人に来てくれました! はい、パチパチパチ~」
練習するスポーツ系の部活の声を掻き消すように、彼女の声は一段と目立っていた。
どうも、皆さんこんにちは。赤羽満、十五歳。ただいま絶賛、ピンチ真っ最中です。
僕は今、体育館にある舞台上に立っている。
どうして僕がこんなところにいるのか、それは一応彼女である雲雀先輩に頼まれたからだ。
彼女が所属する演劇部はまだ新入生も見学しかしていないせいで、少し人手が足りないらしい。
そこで僕が助っ人に呼ばれたわけなんだけど……
か、かえりたい! 今すぐにこの場から消えてしまいたい!!
確かに困っている人は放っておけないけど、僕に演劇なんて無理だよおおお!
「じゃあみっちゃん! 早速だけどこれあ~げる!」
そんなことを考えているとも知らずに、先輩は一冊の本を差し出す。
それには題名が大きく書かれており、下の方には決定版と書かれた文字が四角で囲んである。
「雲雀先輩、これは?」
「今回やる劇の台本♪ みっちゃんには歓迎演劇するよ~って言う宣伝をしてほしくて! 内容知ってた方がいいと思うし、助っ人してくれるお礼も兼ねて♪」
ああ、助っ人って宣伝のことだったんだ。
てっきり裏方とか、そういうのやってほしいのかとばかり……
でもちょっとほっとした。そういうの僕、向いていないから……
「というわけで早速お願いします!」
「あ、はい、僕でよければ……ってこんなに!? 多くないですか!?」
先輩に見せられたそのちらしの量はえげつなく、こんもりと山になって僕の視界に飛び込んでくる。
ずっしりと手に伝わってくる重みは、とても先輩が一人で持っていたとは考えられないほど重かった。
「え~やっぱり多いかなあ? 目標生徒一人に一枚! って思ったんだけど、ダメ?」
「生徒一人一枚って……まさか、全校生徒全員に配るつもりだったんですか?」
「だって一人でも多く見てほしいなって♪」
な、なるほど。先輩に悪気がないのは分かった。
確かに一年生だけに公開するっていうのはすごくもったいなし、たくさんの人に見てほしい気持ちもわかる。
先輩もこういってるし、助っ人になったからには協力したいし……
「分かりました! やるだけやってみます!!!」
たくさんある紙の中から自分で持てるだけの量を取り、台本を一緒に胸に抱えながら僕は体育館を後にしたのだった。
楽しそうに笑う声、ボールなどの道具が地面に落ちる音。
色々な音が僕には一つの音楽のように聞こえる。
その一つ一つの音に負けないように、僕もひときわ声を上げる。
「演劇部です! 今度、新入生歓迎で劇やります! 笑いあり、感動ありのオリジナル脚本です! 上級生や先生、誰でも観覧自由です! ぜひご覧ください!」
人前で何かすることはあまり得意じゃないはずなのに、自然と大声を出せている自分がいる。
多分それは、先輩が渡してくれた演劇の台本のおかげだろう。
宣伝する前に読んでおこうと思って目を通した台本は、予想以上に面白いものだった。
脚本が演劇部オリジナルというところにもひかれたし、キャラ一人一人が際立っている。
だからこそたくさんの人に届けたいって、熱が入るのかな。
僕から受け取ってくれる人は皆、面白そうだねと言ってくれたり、逆に僕にエールさえ送ってくれる。
今まで話したことなかった同級生の子達ともコミュニケーションをとることもできて、なんだか楽しいな。
最初は僕にできるか不安だったけど……ひょっとしてこれが分かったうえで、ミミルは仕組んだのかな?
今度直接聞いてみようかなあ。
「ふうん、演劇ねぇ」
「はい! 新入生歓迎で、今度劇を……」
「手伝いってそういうことだったんだ~満君にぴったりだねぇ~」
その声を聞いた途端、笑顔が引きつってしまう。
僕を馬鹿にするように笑っていたのは、虹己君だった。
まさかいるとは思わず、見られてしまったことがすごく恥ずかしくなって……
「こ、虹己君! いつから見てたの……?」
「オレの部室、すぐそこなんだよね~」
「そ、そうなんだぁ~……って部室? 虹己君、部活入ったの?」
「一応手芸部にね~部って言っても、そんなに活動してねぇみたいでさ。鳳先輩も入ってるし、まあ物は試しにってやつ?」
そう言う彼の後ろにあるのは家庭科室で、机に色々ものが置いてあるくらいで人は一人もいない。
こう見えて虹己君は、僕たち三人の中で唯一手先が器用だ。
ほつれ直しやボタン縫いなどだけではなく、なんと洋服や人形まで作れちゃうほどすごい。
彼の作品はいつ見てもすごくて、尊敬しているんだよね。
「そっちは演劇やるんだっけ? 満君も出ればいいのに」
「とんでもない! こんな素晴らしい作品なのに、僕が出たら台無しになっちゃうよ!」
「素晴らしいって……話知ってるわけ?」
「先輩にもらっちゃった。あ、僕このちらし全生徒に配んないといけないから、もういくね! また寮で!」
あわただしいながらも僕はまた、紙をもって校内を駆け回る。
生徒だけじゃなく、先生達にまで……
夕日が落ちるころには半分のチラシを配り終えていたのだったー
「なるほど、ちらし配りをさせられたのか。よかったな、裏方の方で」
制服のジャケットを脱ぎながら、優し気に微笑んでくれる。
寮に戻った僕は、虹己君と一緒に彼の帰りを待っていた。
彼とは、もちろん恭弥君である。
恭弥君は中学から弓道をやっていた影響で、高校からも継続で入ったらしい。
だから僕達とは少し帰る時間がずれちゃうんだよね。
「夕食、今日ハンバーグだってさ。まだ部活やってるとこはやってるだろうし、恭弥君が着替え終わったら行かね?」
「今の方がすいている、というわけか。分かった、少し待ってくれ」
「あ、僕台本読み終わってから行ってもいいかな? あとちょっとで終わるんだけど……」
僕が言うと、恭弥君はきょとんとした顔でこちらを見る。
恭弥君から受け取ったジャケットをハンガーにかけながら、虹己君は逆に「は?」と怪訝そうに顔をしかめた。
「読み終わってからって、今日読んだんじゃないの? どんだけ気に入ってるの、その台本」
「だって面白くて! 何度読んでも飽きないっていうか!」
「そんなに面白いのか。ぜひ俺も読んでみたいところだが……」
「二人は本番までのお楽しみ! 僕も演技では見たことないから、どんな風になるか楽しみなんだ!」
こんなに物語にはまったのは、何年ぶりだろう。
それこそミミルという名前に出会った頃以来かもしれない。
今では何の作品だったのかも、覚えていないけれど。
「本番も裏方を手伝ってほしいって言われてるから、一緒には見に行けないけど……絶対来てね! 面白いことは保証するから!」
僕がそう笑うと、恭弥君もわかったと笑い返してくれる。
虹己君がやれやれと肩をすくめるのを見ながら、ふっと台本の方に目を落とす。
その時、僕は知らなかった。
彼―ミミルが、その姿をずっと見ていたことを―……
(つづく・・・)
とうとうカップル(仮)になった後のお話しが、
地味にスタートしてまいります!
今までもそうでしたが、ここからもまた地道というか
進んでるのか進んでないのか作者の私でもわからないので
誰にもわかりませんね笑
次回は18日更新。
演劇部、ついに始動!