ep.10 何かと問題の多い娘たち
ミミルに相手役を導かれた虹己は、特に何もすることなく
満と二人でいつも通り過ごしていた。
分からない問題を聞きに行こうと恭弥を探しに行くと、
そこには知らない女の人がいて・・・?
「お、女の人!!?」
「バカ! 声がでかい!」
「ご……ごめん、つい。でもあれって……」
「どう考えてもそうでしょ」
信じられないと口をあんぐり開ける僕に対し、興味深そうに女の子の方を玩味する虹己君。
それは予想だにしていなかった出来事だった。
さかのぼること中学時代、恭弥君から「彼女が出来た」という報告があった衝撃は今でも忘れられない。
もちろん彼女が出来たことに嬉しかった半面、僕が知らない世界に先に行ってしまったようで少し寂しくも感じたっけ。
彼女の話は少しだけしか聞いたことなかったけど、まさかあの子が……?
「何をこそこそしているんだ? 満、虹己」
呆れたような、怒っているような声が頭上から降ってくる。
びくっと肩をゆらし、恐る恐る顔を上げるとそこには恭弥君がいた。
彼の姿を見た僕は、慌てて立ち上がる。
「ごめん! どこ行ったのかなって心配しちゃって!」
「すまない。少し話をしていた」
「それはいいんだけどさぁ……その子、もしかして恭弥君の彼女?」
核心をつくような、虹己君が容赦ない質問を彼に投げかける。
すると恭弥君はああと思い出したような声を出し、
「校則のことを色々聞いていたんだ。そうだ、せっかくだから二人にも紹介しよう」
と言いながら横によける。
隣から出てきたのは、恭弥君より一回りくらい小さな女の人でー
「こんにちは~~~~初めまして~~」
僕よりも小さな背丈、マッシュルームのようなふんわりとした髪の毛。そしてのーーーんびりとした喋り方……
最初はどう反応していいか、わからなかった。
僕が想像していた彼女像とは、似ても似つかなかったから。
恭弥君のことだから、大人っぽい人とか頭がよさそうな人とかかなーって勝手ながらに思ってたけど……
なんというか、その……
「うすうす思ってはいたけどさ……恭弥君、女性見る目ないんじゃね」
「虹己君!!!!????」
時、すでに遅し。
僕が気付いた時には、彼が容赦ない言葉を言ってしまった後だった。
性格柄、虹己君は躊躇なく色々言っちゃうところはあるけれども……
「こ、虹己君! そんなはっきり言っちゃかわいそうだよ!」
「っていわれてもさぁ……満君もそう思わねぇの?」
「ひ、人の好し悪しは、個人によるっていうかなんていうか……」
「まあ二人が言うのもわからないでもない。そういう奴だからな、こいつは」
言われているにもかかわらず、恭弥君は平然としている。
すると当の本人でもある女の人が、にゅっと出てきて僕達を面白がるようにつぶやいた。
「ほほぉ~なかなか言うねぇ、君達~春夜ちゃんは素直な子も嫌いじゃないよぉ~?」
「ええっと……なんかすみません……」
「いいんだよぉ~春夜ちゃんのよさがわかるのは、きょうちゃんくらいだからね~」
愚痴のようなものをぼやきながら、彼女はこほんと咳払いする。
なぜか敬礼のポーズをし、のんびりとした口調で
「二年三組、弓道部のマネージャーの鷹匠春夜ちゃんだよ~~~きょうちゃんの彼女歴なんと二年~~~よろしくね~~~」
と挨拶してみせた。
「俺が春夜と話していたのは、他でもない。虹己、お前のためだ」
「はぁ? 彼女と話すのになんでオレが関係するわけ」
「昨日みみ……占いで言ってただろ。二年の鳳先輩……彼女は、春夜の知り合いなんだ」
ほえ~~そんな偶然あるのかあ。
覚えているのはさすがだなと思う半面、これもミミルが絡んでそうって思うと少し怖いような……
「話はきょうちゃんから聞いたよ~結愛ちんを探してるんだってねぇ~あの子はいいよ~かわいいしかわいいしかわいいし~」
「かわいいしか言ってませんよね?」
「ただちょぉっと色々ある子なんだよね~~~この春夜ちゃんが連れて行ってあげる~お弁当持ってきてね~」
そう言いながら、こっち~とのんびり歩きだす。
有無を言う暇もなく、僕らは先輩のところに歩き出した。
相良虹己の運命の相手は、鳳結愛。
結構な印象を残した言葉だったのに、いつの間にか忘れてしまっていた。
多分自分のことじゃなかったから、というのもあるんだろうけど。
虹己君も当初から信じていないせいか、ついていくのさえめんどくさそうにしている。
恭弥君と春夜先輩は、仲睦まじく話しながら歩いているし……
「屋上とうちゃ~くっ。結~愛~ち~~ん」
僕達のことまで考えていないのか、彼女はついた途端足早にかけてゆく。
そこにいた一人の少女の背中を、ポンッとたたいていた。
彼女の登場にびっくりしたのかたたかれた少女は、「ひゃあっ」と声をあげる。
僕達も先輩につづかないと思いながら、そうっと後を追う。
後ろ姿しか確認できない少女の声は高めで、鈴のようにきれいだった。
「は、春夜ちゃん……どうしたの……?」
「えへへ~結愛ちんに、お友達だよ~」
「お友達……?」
そう言いながら、彼女はゆっくりと振り返る。
ハーフアップにまとめられた長い髪が揺れ、優しげな瞳がこちらを向く。
その姿はまるで、トランプにえがかれていたものと同じ。フランスにありそうなお人形さんみたいに、端正な顔立ちで……
思わずうっとりしていると、ばちっと彼女と目があった途端。
「ぴえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~!!! こ、来ないでぇぇぇぇぇ!」
いきなり甲高い声を出したかと思うと、人間とは思えない素早さで隅っこの方へと逃げだしてしまう。
ぷるぷる震えているようで、目には涙を浮かべている。
それはまるで、人間におびえる小動物のようで……
「どーいうことか説明あるよねえ? 恭弥君の彼女さぁん」
声は怒っているのに、顔は笑みを浮かべている虹己君が眉毛をぴくぴくさせながら言う。
恭弥君も聞いてないとばかりに春夜先輩の方に、顔を向けている。
すると彼女は……
「それがですねぇ~困ったことに結愛ちん男性恐怖症なんですよ~あ、あと人見知りもついてきまする~」
いやあ~と参ったような動作をしながらも、顔はまったく困っておらずむしろ楽しそうな声をあげる。
春夜先輩はどうどうと鳳先輩をなだめだし、僕達はほぼほぼスルーされるという事態に陥ってしまう。
でも相手は虹己君の運命の相手なわけで……うう、どうすれば……
「男性恐怖症なら、校則はどうするつもりなんだ? ゴールデンウィークまでに決めなければ、退学になるのでは……」
「そうなんだよ~きょうちゃぁん。春夜ちゃんはずぅっとそのことを言っているんだけど、男の人と関わるくらいなら退学した方がいいって聞かなくて~今絶賛お悩み中なのです~」
そ、そこまでなんだ……
確かに鳳先輩は、自分からこっちに来る気配はない。
ここはミミルにもう一度相談しようかなあと、僕が思っていたのにー……
「本人がそう言うなら、しょうがないんじゃない?」
冷たいような、自分には関係ないとでもいうような言葉を投げかける。
彼―虹己君はため息をつきながら、すっときびすをかえし、
「最後になるかもしれない高校生活、楽しんでくださいね」
と言って……
「こ、虹己君! いいの!? だって、彼女は虹己君の……!」
「あんな様子じゃ、それどころじゃないでしょ。それに、最初っから信用してねぇし。オレはオレの好きにやらせてもらうよ」
怒っているような、いつにもまして冷たい言葉が僕の胸に突き刺さる。
虹己君はじゃあねと言って、屋上を後にしてしまった。
残ってしまった僕と恭弥君も、どうすることもできず、仕方なくその場を去ったのだった……
(つづく・・・)
雲雀ちゃんしかいなかった女子キャラに、
ついに結愛ちゃん、春夜ちゃんも登場しました!
前作の双子姫と同様、女の子が難癖ばかりです。
そのせいなんでしょうか、男子に肩入れしがちなのは笑
はたして虹己君の相手はどうなるのか・・・
まだまだ目が離せませんね。
ちなみにですけど、女の子達は鳥、
男の子達には色を名前につけているんです。
今後出てくるサブキャラの名前にも注目してみてくださいね
次回は2日更新。
満の身に何かが起こります!