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少し進んだ場所から

 なんだかフランクが妙に緊張しているのをリルは感じ取っていた。


 それに何か変だ。フランクが到着したら、すぐに何故かリルと一緒に子供部屋に通された。おまけに姉は、『ちょっと散歩してくるね』と言って部屋を出て行ってしまった。


 おもてなしをするのはリルで本当にいいのだろうか。フランクが機嫌を害したりしないだろうか。


 とりあえず、いつも出してるジャーキーとミルクを出してみた。


「ねえ、フランクくん。お姉ちゃんと一緒にいなくてよかったの?」


 そう尋ねてみる。でも、そう言った途端に何だか最近よく感じる変なモヤモヤを感じた。


「ぼくはリルちゃんと喋りたいよ」


 フランクは迷わずそう言った。


「なんで?」

「なんでって……」

「お姉ちゃんはフランク君と同じ猫の獣人だし、お姉ちゃんと一緒にいた方がいいんじゃないの?」

「そんなことないよ。ぼくは……」


 フランクは言葉を切ってからミルクを一口飲んだ。


「ぼくはリルちゃんがいい」


 そして、真正面から目を見つめてそう言われる。


「な、なんで? お姉ちゃんは?」

「ミーアに会いたかったら学校で会えるよ。隣のクラスなんだから」


 それはそうなのだが、それでいいのだろうか。


「でも、ぼくはリルちゃんに会いたいから、ここにきてるんだよ」


 なんだか聞き分けのないのを諭されているようだ、とリルは思った。フランクが真剣に話しているからだろうか。


「ど、どういうこと?」

「だからぼくが好きなのはリルちゃんなんだよっ!」

「ワン!?」


 いきなり大きな声を出された。びっくりして体を動かしたせいか、耳が跳ねた。ついでに心臓もなんだか跳ねているのは気のせいだろうか。


「す、好きなのは……リル?」


 ついおうむ返しをしてしまった。


 話の流れから言って、今のは『告白』というやつだろうか。

 なんだかどこかがむずかゆい。今まで気にした事などなかったはずなのに、さっきの衝撃でひっくり返ってしまった耳がみっともない気がして恥ずかしくなったので、そっと直しておく。


「す、好きって言われても……」


 どう答えたらいいのかリルには分からなかった。昨日まで、自分には恋愛などよその話だと思っていたのだ。


「い、いやなの? ぼくの事嫌い?」

「嫌いじゃないよ」


 それはしっかり言っておく。


 困ったので、とりあえず向こうを向いてジャーキーを一本ぽりぽりと食べてみた。


「……リルちゃん?」


 フランクの戸惑ったような声が聞こえる。


 戸惑って当然かもしれない、とリルはジャーキーを食べながら考える。告白をしたのに、その相手がそっぽを向いておやつを食べているのだ。

 もしかしたら失礼な行為だったかもしれない。でも、今はなんだかフランクの顔が見られない。先ほどまで普通に見ていたのに、なんだかおかしい。


「リル、『恋愛』ってよくわかんないもん」


 とりあえず、そっぽは向いたまま、思った事を言ってみる。


「だからなんて言ったらいいのか分かんなくてさ。でも……」


 そう言って一旦言葉を切った。次の言葉がなかなか出てこない。こんな事も初めてだった。


「……なんか嬉しい、かも?」


 ようやく出てきた言葉はそれだった。こんな簡単な言葉ではフランクが理解できないのではないかと不安になる。


「なんでだろ? なんでかな? ……なんで?」


 尋ねてみたが、きっとフランクにも答えは出て来ないだろうとも思う。


「ゆっくりわかればいいと思うよ」


 無知なリルにフランクは優しい。


「だからよかったらお友達から始めて欲しいんだけど……」

「リル達もうお友達だよ?」

「じゃ、じゃあ『友達以上』……から」


 以上とはどういう事だろう。よく分からないので尋ねる。すると、『友達よりもっと仲良い事』と帰ってきた。まだ分からない。姉に聞いたら分かるだろうか。


「だから、また遊びに来ていい?」


 それは嬉しいので大歓迎である。だから改めて顔を見て『うん』と返事する。


 なんとなく、フランクがいつもより優しそうな顔をしている、とリルは思った。

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