肉食女子
クレオパスが獣人と人間の関係の架け橋となる役職につくそうだ。今朝の朝食の席でクレオパスの父親と一緒に報告してくれた。
みんな驚きながらも喜んでいた。
それはミーアもすごいと思う。純粋に祝福したい。
だけど、なんだか言いようのないモヤモヤがミーアの心の奥底にあった。
今はクレオパスは家にいない。シンガス家のお偉いさんに役職を受けるという返事をしに行っている。
まだ朝早いのでフランクは来てない。妹の恋愛に集中したら、今のモヤモヤも少しは紛らわせられるかもしれない。それでも来てないのだからどうしようもない。
ヘタレめ、と何も悪くないフランクを心の中だけで責める。八つ当たりの自覚はある。口に出していないからいいだろう。
「ミーア、どうしたの?」
居間で考え込んでいると母が話しかけてきた。
「なんでもないよ。ちょっとクレオパスさんの事を考えていただけで」
「クレオパス君と何かあったの? 喧嘩した?」
喧嘩はしていない。ミーアがただ拗ねているだけだ。
「さっき、朝食の時、クレオパスさんの将来の話が出てたでしょ」
ミーアは話し始める。声に出して話せば少しは落ち着くだろうと思ったのだ。
「ああ、人間と獣人との交流のお話?」
「そう」
「ミーアはそれが嫌なの?」
「嫌じゃないよ。いい事だと思う。酷い目にあう獣人も減ると思うし。でも……」
そう言って口をつぐむ。その先が辛くて言い出せないのだ。
「でも?」
だが、母は許してくれない。先を促してくる。
「それ自体はいいの。でも、でもそうするとクレオパスさんは家に帰っちゃうんでしょ」
「そうねえ。修行もしなきゃって言ってたしねえ」
母がのんびり言う。母にとってはそんなに重要な出来事ではないかもしれない。むしろ、故郷に胸を張って帰れるクレオパスを祝う気持ちの方が多いのだろう。
「……あたし、まだ。告白の返事、もらってないよ」
ぽつりと呟いた。母が目を見開く。
「ミーア、付き合ってもいないのに『浮気者』とか言ってたの?」
呆れたようにそんな事を言われてしまった。
「だ、だって、多分両思いだし。……たぶん」
確信は持てないが、両思いなはずである。
——もしクレオパスさんの問題が解決してたらあたしの方を選ぶの?
——そうだね。
こんなやり取りをして両思いでなかったら逆にびっくりだ。
これでフラれたら運が悪かったと思って諦めるしかない。
それよりも、返事もしないで出て行くのは卑怯というものではないだろうか。
数ヶ月後か数年後か分からないが、仕事で戻ってくるとしても、そこまで待たさせるのは納得がいかない。
こんなのはちっとも男らしくない。
でも彼はミーアが好きになった男の子なのだ。
このままでいいわけはない。
「あたしたちも話し合わなきゃ。今日!」
ミーアは話しもしないまま、クレオパスを送り出す気はない。
リルに『話し合え』というのなら、自分もそうするべきである。
そして、あわよくばきちんとお付き合いをしたい。ほぼ両思いが確定しているのに、これで終わりなんて嫌なのだ。
今でもやっぱり人間や魔術が怖い気持ちはある。でも、それも克服するためにいろいろと努力しなくては、と思った途端に離れ離れになるのは納得がいかない。
そういうミーアの気持ちや覚悟もクレオパスに知ってもらいたい。
少し前に読んだ恋愛小説に、女の子を肉食動物に例えている描写があった。結構ユーモアのある考えだな、と思ってずっと頭に残っている。
そして、今、自分もそうあるべきなのだ、と思う。
だってミーアは猫の獣人なのだから。
猫は『肉食獣』なのだから。
「頑張りなさい」
母は微笑ましそうに笑いながら応援してくれた。




