妹の気持ち2
「うん、嬉しいよ。当たり前だよ」
リルは笑顔で言った。でも、ミーアには分かった。妹は、少し悲しそうな目をしている。
「リル?」
顔を覗き込む。
「うん。なんかちょっと悲しいけど、……いつかお姉ちゃん離れもしないといけないしね」
「リル……」
寂しい思いをそうとったようだ。そういう気持ちも確かにリルの中にはあるのだろう。ミーアは優しく、愛しい妹を抱きしめた。
「お姉ちゃん、少し怒るかもしれないけど、いい?」
ミーアの腕の中でリルがやっぱり悲しそうなトーンで言った。いいよ、と答える。
別にミーアは何を言われても怒る気はない。『お姉ちゃんのバーカ!』とかなら怒るだろうが、この話の流れでそんな事は言わないだろう。
「あのね。なんか変な気持ちなの」
「うん?」
「フランクくんとお姉ちゃんには幸せになってほしいいよ。幸せになってほしいんだけど、なんか仲間はずれっていうのかな。なんか変な気持ちになってさ」
自分にもよく分からないのだろう。でも、何を言いたいのか、何となくミーアには分かった気がした。
「なんか……お姉ちゃんの事嫌いになっちゃいそうで……そんなの嫌なのに……」
小さな嗚咽が聞こえた。
「ごめん、ごめん。お姉ちゃんの事は大好きなんだよ。でも……でも……。なんでリルは……。リル変だよ。なんか変だよ」
ぐずぐずと泣きながらそんな事を言っている。
間違いない。リルはミーアに妬いている。それも妬く必要のない原因で、だ。
何もなければすんなりとうまくいったはずの関係が、シピの発言のせいでこじれたのだ。クレオパスとミーアの関係も、フランクとリルの関係も。
ヤキモチというのは変な方向に行くととことんおかしくなるようだ。
シピを何発か引っ掻いてやりたいとミーアは静かに考えた。今日、彼女のせいで酷い目にあったのだから、ちょっと引っ掻くくらい許されるだろう。
そこまで考えてから、自分も冷静じゃないな、と思い直す。そんな事をしても何の解決にもならない。
それより、大事なのは、今、目の前にいる無意識の初恋と初ヤキモチに戸惑っている愛妹だ。
「でもね、リル。リルがクレオパスさんとミュコスに行っちゃったら、あたし、いろんな意味で悲しいわ」
まず大事な事を言っておく。リルがびっくりしたように顔を上げた。
「クレオパスさんがチクったの!?」
「あたしとリルが喧嘩してるんじゃないかって心配してくれたのよ。チクったんじゃないの。そういう事言ったら失礼よ」
酷いことを言っているので、しっかりと訂正しておく。これでは心配したクレオパスに気の毒だ。
「ねえ、リル。フランクくんとちょっと話してみたら?」
思い切って言ってみた。リルは思いがけない事を言われたようにきょとんとしている。いや、実際そんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。
「どうして?」
「なんかあたしには二人の間に誤解があるように見えるの。だからちゃんと話し合った方がいいんじゃないかな、って」
ミーアの言葉に、リルはよくわからないというように首をかしげる。
「フランクくんと話したくない? フランクくんの事嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。フランクくんはお友達だもん。大事なお友達」
気づいていないとはいえ、『お友達』連呼を聞いたら、フランクは複雑な気持ちになるだろう、とミーアは思った。
そういえば、あの時も『お友達』発言に複雑な表情をしていたような気がする。そのせいでシピが冗長し、リルが戸惑ったのだ。
「ああ、もう!」
どいつもこいつも、と叫びだしたかった。
「お、お姉ちゃん?」
いきなり叫んでしまったミーアにリルが目を丸くしている。とりあえず、ごめん、と謝っておいた。今のはミーアが悪い。
「とにかく本人に聞かないとね」
そうして誤解を解いて、仲良くなってくれればいいと思う。もし、障害が少なくなって、リルが幸せになるのだったら付き合ってもいい。
フランクは少しヘタレだけど、別に妹の相手として最悪というわけではないのだ。
「……分かった。今度会ったら話してみる」
いい子だ。ミーアは優しく妹に頬ずりする。
リルは恋愛には消極的なようだが、少しは積極的になった方がいいとミーアは思っている。もちろん、シピのような真似はやめてほしい。でも、普通のアタックは許されると思う。
身を引いて逃げるなんてよくない。それも、ミーアの大好きなクレオパスを連れて、だ。
でも、解決しそうでよかった。もう一度妹に頬ずりしながら、ミーアは心の中でホッと安堵の息をついたのだった。