詰問
ミーアが学校を欠席しているらしい。それを聞いて、フランクは首を傾げた。
フランクは今朝ミーアに会ったのだ。それもまさに登校しようとしているところのミーアにである。
大体、あの勉強好きのミーアが、理由もなく学校を欠席するはずはないのだ。
絶対に何かあったに違いない。それも、フランクと別れて、登校するまでの間にだ。そんな短時間で何が起こったというのだろう。
とりあえず、先生に聞いてみれば何か分かるかもしれない。なので、休み時間にミーアの担任の先生を探す事にした。
廊下を歩いてると、生徒のひそひそ話が聞こえてくる。どうやら今朝裏門の近くで何か騒ぎがあったらしい。これがミーアの欠席に関係しているのだろうか。
そして、その噂をしている生徒達の側で同級生のシピが何故か怯えたように縮こまっている。どこか、存在を隠そうとしているようにも見える。
「シピ?」
声をかけるとシピはものすごい勢いで飛び上がった。口からも『ミギャア!』とすごい声が漏れている。
「……シピ? どうしたの?」
「わ、私、何もしてないもん!」
フランクはまだ何も聞いていないのにそんな事を言っている。
そういう人は基本的に何かしている。完全に自白だ。
「何かしたの?」
「何もしてない! 私は悪くない!」
シピは完全に混乱しているようだ。そのせいで、自分が大声で喋ってしまっている事に気づいていない。
周りから『シピに何かあったの?』とひそひそ声が聞こえてくる。フランクは急いでシピを連れてその場を離れた。さすがに異性と空き教室に入るのは変な噂をたてられそうなので、廊下の隅に連れて行く。
一瞬、職員室に連れて行こうかと思ったが、何も聞かないうちから『先生! この子は悪い事してます!』と言いつけるのはどうかと思ったのだ。
まずはきちんと話を聞かないといけない。
「それで、シピ、何したの?」
「ミーアが……ミーアが絡まれるなんて聞いてないもん。おまけに怪しげな事されるなんて聞いてない。……るなんて」
シピは涙声でそんな事を言う。最後は小声で、しかも泣きながらなので聞き取れなかったが、つまり、今朝の騒ぎはシピのせいだったようだ。それは最初に彼女がコソコソしていた時にもしかして、とは思っていたが、完全に確定だ。
「わ、私はあの犬に……」
ミーアでないなら誰に、と思ったところでシピが白状した。
「犬って、まさかリルちゃん?」
確認すると、肯定の頷きが返ってきた。
それこそ、フランクにはとんでもない事だった。
「なんでリルちゃんに? リルちゃんに何しようとしたの?」
きつく問いかけるが、ミャアミャア泣くばかりで何も言ってくれない。これではまるでフランクがシピをいじめているようだ。
さらにきつく問いただすと、シピはぽつぽつと話し出した。最近、フランクと仲がいい犬獣人が目障りだと思ったこと、一人で愚痴を言っていたら見知らぬ人間のおじさんに話しかけられた事、その人に悩みを愚痴り『あの子が遠くに行っちゃえばいい』と言った事。
リルの容姿を喋ったのかという質問には、話していないけどフランクの容姿は話した気がする、と返ってくる。いかにかっこいいか話したと思うと言うが、全然嬉しくない。
だから、今朝、フランクと一緒にいたミーアが大変な目にあったのだ。自分もしばらくその変な人間につけられていたのではないかと思うとぞっとする。
「とりあえず先生に言いに行こう」
そう提案する。だが、シピは嫌だと首を振る。
「嫌だじゃない!」
怒りのあまり、つい叫んでしまった。それだけ腹が立ったのだ。
「シピ、自分が何したか分かってるの? 同級生を危機に晒したんだよ! そうでなくとも、同い年の犬獣人の子を危機に晒そうとしたんだよ」
「それは……で、でも、もしかしたら大したことないかも……」
「それも先生に聞きに行こう」
とにかくこんな事は自分の胸の中になどしまっておけない。大人に相談するべきである。
本当は自分が巻き込んだミーアとリルの姉妹の様子をすぐにでも見に行きたい、そして謝り倒したいが、早退するなど許されないだろう。
「行くよ、シピ」
「あら、フランクくん、シピさん、こんな所で何してるの?」
シピを促してると、聞きなれた声がした。
「ポピー先生」
そこにいたのはフランクが五年生の時に担当だったポピーだった。
「先生、実はぼくたち、ミーアさんの事で話があるんです。今から職員室に行ってもいいでしょうか」
「ミーアさんの?」
ポピーはフランクの言葉を聞くと不安そうな表情になる。それだけミーアは危険な目にあったのだろうか。直接関わってないとはいえ、原因は自分である。罪悪感が湧いてくる。
「うん。いいわよ。ついてきて」
すぐに許可は下りた。助かる。なのに、シピはこっそりとその場を逃げ出そうとしている。
「シピ!」
厳しい声で止めた。シピはビクッと震えて立ち止まる。
「行こう、シピ」
有無を言わさない態度でもう一度言った。
「……はい」
シピは観念したのか、大人しく、ポピーとフランクについてきた。




