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魔術式は嘘をつかない

「ルーカス……様……」


 喉が枯れたような声が出てくるのが分かる。息が苦しくなっている気がする。魔力枯渇も手伝って気絶してしまいそうだ。


「お前、何女の子泣かせてるんだ!」

「……え?」


 状況からしてリルの事を言っているのだろう。

 でも、恐怖が先立ってうまく説明ができない。荒い息を吐く事しか出来ない。


 なんだか唸る声が遠くに聞こえる気がする。


 そこにミーアが駆け込んで来た。そして、ルーカスとクレオパスの間に割り込む。

 ミーアの足も震えている。だが、勇気を持ってクレオパスを守ろうとしてくれているのだ。そんな姿を見ていると、少しだけ息が出来るようになった気がした。


 そして、ミーアが立ちふさがっている隙に、リルがクレオパスの口に魔力回復薬を突っ込んでくる。何故か二錠あったが、文句を言っている場合ではない。おとなしく摂取する。

 こういう連携プレイはさすが双子といったところだろう。


「よかった、ミーア!」


 カーロがホッとしたような笑顔でミーアを抱きしめた。


「お姉ちゃん、無事だったんだね!」


 リルも嬉しそうに父親に便乗する。


「うん。でも……アマーリャさんが……」


 だが、ミーアの表情はあまり晴れない。どうやらアマーリャを巻き込んでしまったらしい。

 そのアマーリャは彼女の夫と一緒に誘拐犯に囲まれているそうだ。


 助けに行かないといけない。獣人家族もそう思ったようでみんなで顔を見合わせて一つ頷きあう。


 すぐにカーロがクレオパスを抱き上げた。無理をさせてはいけないと思ったようだ。恥ずかしいが、とりあえずその行為に甘える事にする。またリルを泣かせるわけにはいかない。


 だが、次の瞬間、クレオパスの腹に衝撃波が飛んできた。その勢いでカーロごと転んでしまう。

 おまけにクレオパスはカーロの腕から転げ落ちてしまった。


「クレオパスさん!」

「パパ!」

「ふ、二人とも大丈夫?」


 リルとミーアが心配してくれる。


「うん。おれは……なんとか」

「父さんも怪我はしてないよ。大丈夫」


 そう言って安心してもらう。攻撃されたお腹をさすっているのが情けないが、これは仕方がないだろう。


「何を逃げようとしてるんだ!」


 怒号が飛んできた。そちらの方を見ると、ルーカスが怒りに体を震わせながらクレオパスを睨んでいる。どうやら無視されたのが気に入らないようだ。


 この人はクレオパス達の話を聞いていなかったのだろうか。この危機的状況が分からないのだろうか、と考え、そういえば彼はその人身売買組織の残党と手を組んでいるのだったと思い出す。


「……ずいぶん堕ちたな」


 思わずそう呟いてしまう。

 こんな人を怖がる必要などないのかもしれない。


「はぁ?」


 ルーカスは心外だというように眉をひそめる。


「どういう意味だ?」

「言葉通りの意味です」


 冷たく言い放つ。


「な、何だ、偉そうに……」


 まだ怒っているようだが、どこか声が弱々しくなっている。

 これは意外だ。もっと色々言われると思っていた。


「ねえ、この人誰?」

「誘拐犯さんに着いてきた人」


 リルとミーアが何やら話している。それがさらにルーカスを刺したようで下を向いている。

 誘拐犯ではなく、人身売買組織なのだが、まあ、似たようなものだ。


「仲間じゃないの?」

「うーん。『誘拐犯じゃないなら手を離してください』って言ったら離してくれたけど……」

「ミーアさん、それで信じるのもどうかと思うよ」


 珍しく能天気なミーアの言葉に、つい一言言いたくなってしまう。


「……お前はどうなんだ!」


 ルーカスが会話に割り込んでくる。そして、いきなり何の話だろう。


「おれ、ですか?」

「その獣人の女の子に『特定の人にしか外せない髪飾り』をつけてるじゃないか! これはどういう事なんだ? 変な目的でつけてるんじゃないのか!?」


 ルーカス様対策です、と馬鹿正直に言ってやりたい。でも、そうしたらさらに逆上しそうだ。


 この効能についてはミーア達は初耳だったようで揃ってキョトンとしている。そういえば効能を付け加えるとは話したが、それが何かは説明し忘れていた気がする。


「おまけにこの子達は何も理解してないじゃないか!」


 それはクレオパスのミスなので何とも言えない。


「もしかして、一昨日付け加えてたやつ?」


 ミーアが思い出したようにそう言う。もしかしたらフォローも兼ねているのかもしれない。

 きちんと頷く。


「それで? そんなものをこの子につけて、お前は何をしたかったんだ!」


 だが、ルーカスの追求は止まらない。ミーアの小さなフォローだけでは駄目なようだ。


 これはクレオパスがきちんと話さなければ止まらないかもしれない。幸い、普通に立ち上がれるくらいには魔力は回復してきた。

 だからしっかりルーカスの目の前に立つ。そして、彼の目をきちんと見た。


「魔術式を全部見てください」

「は?」

「ですから、『髪飾りにつけた魔術式を全てお読みください』と言っているのです、ルーカス様」


 真剣な表情で訴える。大事な話だ。


「何を言ってるんだ?」

「ルーカス様にとって、おれの作ったアミュレットは怪しいもののようですので、ご自分の目でご確認ください」


 何で同じような事を三回も言わなければいけないのだろう。


「え!?」


 だが、それにもう一人反応した人がいる。ミーアだ。

 訴えるようにクレオパスの腕をがっしりと掴み無言で睨む事で抗議している。爪が腕に食い込んで痛い。


「だ、大丈夫だって。()()()()()()()()()()が魔術式を近づかないと読めないなんて事はないはずだから。ある程度距離を取ってくれるはずだよ」


 とりあえずなだめる。ついでにルーカスに挑発もしてしまったような気がするが、不可抗力だろう。


 ルーカスは忌々しそうにクレオパスを睨んでいたが、渋々その通りにしてくれた。


 これで多少は誤解を解けるだろうか。とりあえずは解けると信じるしかない。


 ミーアに掴まれている腕の痛みに堪えながらクレオパスはそれを心から願った。

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