わけ
「どっちも選ばないよ」
クレオパスがそう言うと、予想通り、ミーアはショックを受けた顔をした。
「どうして? あたし達の事嫌いなの?」
ミュゥー、という悲しそうな声をたてる。なんだか可哀想になってきた。
でも、心を鬼にする。流されてはいけない。ダメ人間になってしまう。
「だってどっちを選んでも今は誰のためにもならないだろ。気持ち以前にそれがなぁ……」
「どういうこと?」
説明するが、ミーアには分からなかったようでキョトンとしている。
「ミーアさんは、おれをルーカス様達の悪意から逃してくれようとしてこんな提案してくれたんだろ。それがミーアさんの言う『選択肢』なんだろ?」
「……うん」
ミーアは渋々認める。『それだけじゃないけど』という言葉は今は聞き流しておく事にする。
「リルもクレオパスさんを逃がそうとしてたの?」
恐る恐る尋ねている。
「いや、リルさんは自分が逃げたいんじゃないかな? 何かからは分からないけど。だから好きでもないおれに頼み込んでまで外に出ようとしてるんじゃないかなって」
だから先ほどミーアと喧嘩をしたのかと聞いた。答えは否だったが。だったら原因は何だろうと今でも考えている。
「リル、学校でいじめられでもしてるのかな? キュッカちゃんからは何も聞いてないけど」
「そっか」
リルの親友であるキュッカから聞いてないのならいじめではないのだろうか。
「あたしの可愛いリルをいじめるなんて! 許せない!」
「まだいじめられてるって決まったわけじゃないからな!」
さっきからミーアは冷静じゃない。落ち着いてもらわなければならない。
「とにかくキュッカちゃんあたりから探ってみる。リルの悩み」
そう言ってくれるのは本当にありがたい。
「でも詳しい事は言わないでよ。終わった後リルさんが大変な事になるから」
「それくらい分かってるって」
それなら安心だ。
「そういえばリルといえばさぁ」
ミーアが思い出したかのようにつぶやいた。何かいい情報だろうか。
「最近、あたし、フランクくんと二人きりにされるんだけど、リルに」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すのだろう。わけが分からない。ただ、その状況にミーアが不満を持っている事は分かった。
「それは気のせいじゃない?」
「気のせいじゃないよ。昨日だってクレオパスさんが用足しに行った時にさ、『あ、部屋に忘れ物しちゃった。取ってくるー!』って」
「何だそれ」
もう何だそれとしか言いようがない。
「困ってるのよね。クレオパスさんからも何か言ってあげて」
そんな事を言われてもクレオパスの方が困る。
「……えーっと、これ雑談なの? それともさっきの話に関係ある?」
「ただのあたしの悩み事」
先ほどの話には関係ないようだ。でも、それが最近のリルの奇行なら、もしかしたらヒントになるのかもしれない。
「何かそれも原因があるんじゃないの?」
だからそう言っておく。ミーアは、うーんと考え込む。
「ちなみにいつから?」
「この間、リルが珍しくおやつの用意しに行った時から。クレオパスさんと」
『クレオパスさんと』という言葉に棘がある。これは妬いているという事だろうか。こういう経験は初めてなので何だかこそばゆい。
それにしても、それは変な発言が始まった時と同じくらいだ。
「フランクとなんかあったのかな?」
「フランクくんがリルをいじめたの!?」
けしからん、という様子でミーアが眉を吊り上げた。先ほどのイジメ説とごっちゃになってしまったらしい。
「それはないと思うよ。だってフランク、リルさんの事大好きじゃん」
「あたしもリルの事大好きよ」
「そういう事じゃなくてさ」
つい突っ込むと、ミーアがふふ、と悪戯っぽく笑った。どうやら茶化されたようだ。リルだったら『じゃあどういう事?』と返ってくるだろう。
「揉め事だったらなんとか仲直りさせてあげたいけど……」
「そうよね。でも最近も普通にフランクくんの話するよ? 嫌ってるわけじゃなさそうだけど」
だったら本当に何だろう。
とりあえず可能性があるという事でフランクを探った方がいいだろうか。喧嘩しているのだったら本当にそれはそれで解決させてあげたい。
「とりあえずまた遊びに来てもらう? それで話を聞こうか」
「でもあたしもう二人きりにされるのはごめんよ」
ミーアが不機嫌そうに言った。どうやらとても気まずいらしい。当たり前だ。
「わかった。なるべくそうはさせないようにするから」
「『なるべく』?」
その返答では満足しないらしい。とりあえず『頑張ります』と言っておく。
「じゃあクレオパスさんも宿題頑張ってね。いっぱい出すからね」
話が飛んだ。フランクを家に誘うという苦労をさせるぶん、クレオパスにも勉強で少し苦労しろという事だろうか。
だから静かに『分かりました』と返事する。
とは言っても数問増えただけなのでホッとする。無茶ではないようだ。
話がまとまると、ミーアは立ち上がって扉に向かう。
「もしクレオパスさんの問題が解決してたらあたしの方を選ぶの?」
「うん? そうだね」
急に、しかも何気なくを装って問いかけられたせいで何も考えずに答えてしまった。そして、固まる。
今、自分は何と言っただろうか。
ミーアを見ると、そちらもびっくりした表情をしていた。
顔がどこか熱いような気がする。
確かに言葉には気をつけないといけないのだろう。
しばらく二人はぼうっとしたままその場から動けなかった。




