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君は賢い

 それは、長雨の季節を予感するような、絶え間無くシトシトと降り続く日でした。更に風が出ているようで、広い軒先があるにもかかわらず、たまに居間の大きな窓に雨が吹き付けているようです。

「捜している?」

 幸四郎が、そう思わず吉野に聞き返しました。

「そうなんです。昨日、役所に行ったんですけど、市民掲示板に載っていたんですよ。」

 兎の飼育ケースの前にある白いムートンソファーに2人は座っています。吉野の話によると、読者の方はご存知の通り、兎は緊急非難施設で飼われていたところ、何者かに盗まれてしまった。見かけたなら知らせてくれとの記述がなされていたとのことでした。幸四郎は、少し戸惑っている様子です。

「みんなのマスコット?」

「モグちゃんと呼ばれているそうですよ。自慢の歌声は、施設の人達の心のよりどころだったそうですよ。だから、居なくなって残念に思っている人が沢山いるみたいです。」

「そうだよね、兎君の歌声を聴いていると、何だか小さかった時の事を思い出すんだよ。此処の庭も賑やかだったよ。誕生日には、沢山の人が来てくれて、清水のお姉さん、芦沢のお祖母ちゃん、従兄弟の良樹ちゃん、千尋ちゃん、そして、そして・・・父さん、母さん・・・。」

「坊ちゃん・・・。」

 幸四郎は、声が出なくなりました。そして、吉野も。

# キューン、キューン キューン、キキ、キューン

 絶妙のタイミングでした。そのいじらしいく切ない鳴き声は、哀しみの重い空気を和らげたのです。兎は、幸四郎の気持ちが分かっていたのでしょうか。

「僕を慰めてくれてるのかい?、そんなこと、何処で覚えたんだい?」

「へえ、驚きました。今のは、私もぐっときましたよ、偶然に鳴いた声じゃないですね。兎君、君は随分賢いんだねえ。」

~~~~~~~~~~

”思いやり?、人間の心が和むようなことをすれば良いんだよね。”

”そう、アタイの言ってたことよく聞いてたね。日頃からご主人様の様子を観察するんだよ。笑ったり、泣いたり、怒ったり、悩んでたり、顔付きや仕草、口調で感じ取るんだ。特に、目を見るんだよ。”

~~~~~~~~~~

『ネズミさん、これで良いんだよね。こんな夢のような所に住んでいるのに、小さなご主人様は、いつも哀しい顔をしている、楽しそうじゃないんだよ。』

 幸四郎の目が不自由なことを知るよしもありませんが、彼の中にずっとある心淋しい心の内を感じ取っていました。兎にとっては、ハムスターから学んだことをやってみただけなのです。

「吉野、避難所の皆が心配しているのは良く分るよ。災害で苦しんでいる人達は、兎君の声を聴くことで、勇気をもらっているんだよね。」

「坊ちゃん、そう言っていらしゃるってことは、この兎を避難所に届けようと思っているんですか?」

「う、・・・うん。」


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