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尻込み

# チュンチュン チチチチチ・・・

 辺りでは大樹に集まっている小鳥達がさえずる声が聞こえてきます。いつも通りの長閑のどかな早春の陽射しに溢れています。

# ピーポー ピーポー・・・

 すると、何処からか救急車のサイレンの音が聞こえて来ました。それが正男の家に向かっているとは限りませんが、当然意識が働きます。

『あっ、来た!、帰らなきゃ!、母ちゃん!』

 母親を助けることでいっぱいになれば、春男への思いはすっかり頭から消えてしまいます。正反対に向かう2人の兄弟。まるでこれから進もうとする意志と同じ様にますます離れていきます。それは、母への愛情の深さに関わっているのかもしれません。大人になると素直になれなくなるのはどうしてでしょうか?、春男もそんな自分に嫌気がさしているに違いありません。

 正男が自宅に帰り着く頃には、既に救急車が到着していました。そこにはもう数人の救急隊員が玄関先に集まって、現場の事情を伺っていました。

# ドンドンドン

“いらっしゃいますか?、こちらに来るよう連絡がありました。いらっしゃいますか?”

「返事が無いようですね。」

 呼び出している隊員が、試しにドアのノブを回してみます。

「あれ、鍵が掛かっていませんね。」

「よし、返事が無ければ仕方がない、断って入るぞ。」

「分かりました。」

# ドンドンドン

“救急隊です、今から中に入りますよ!”

 玄関のドアが開けられると、2人の隊員が屋内に入って行きます。

 外で待機している救急車によって、付近の家屋の住民達が玄関口に出て来ていたり、窓から顔を出して、物事の成り行きを見守っているようです。

 その中で、ゴミ捨て場の電柱の脇から心配そうに見詰めています。正男です。

 気ははやっているのですが、こんな場面は初めての経験ですから、怖くなり、尻込みして、勇ましい救急隊に近づくことが出来ないのです。

『母ちゃん、・・・。』

 間もなく、中に入っていた隊員が出て来ます。

“立ち上がることが出来ないようです。しきりに胸が苦しいと呟き続けています。呼吸の激しい乱れからみても、心肺機能の著しい低下の症状がみられます。とにかく体位を維持して緊急搬送しましょう。”

 さすがは隊員達、搬送者の状態の見極めと緊急性の判断は適確で、その対応の仕方は迅速です。そんな優れた機動性に関心を持って見ている見物人はいないでしょうが、段々と人だかりが増えていきます。


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