つまらないドライブ
自宅を出て、かれこれ2時間は過ぎていました。夏休みを使って、カミーユは父親の車で、お祖母さんの住んでいる田舎、ザハレヘンへ向かっています。
“ほら、ゲーム機ばかりいじっていないで、少しは父さんの話相手をしてくれよ。もう、運転に飽きてきたんだよな。CD回しっぱなしだから、もうこの曲も3回目だよ。山の中だとラジオもまともに入らないからな。」
夏の山麓の谷間を貫くように通された高速道路、それを挟み込むような木々の様子が鮮やかに見えています。濃い緑葉が生い茂り、美しく清々しい景色は、心が洗われるほど堪能させられるものなのですが、仕事人間の父親は、自然鑑賞を楽しみながらハンドルを握るような性分ではないのです。
でも、モバイルゲームばかりやっているカミーユも、ある意味同じようなものでした。
「ちょっと待ってよ。今、やっとこのステージをクリア出来そうなんだよ。」
「ああ、つまんね。父さんが小さかった頃は、夏の里帰りの途中じゃあ、皆で盛り上がってたんだぞ。」
「何で盛り上がってたの?」
「そりゃ、お祖母ちゃんの家から見えている湖があるんだ。そこの畔でキャンプ張って、親戚の子供達でバーベキューするんだぞ。誰がテント張るか、食事の用意は誰、魚を釣って来るのは誰、買い出しは誰、夜、何のゲームやるか、だよ。従兄弟のアドロフおじさんやメロアおばさん達と山麓行きの列車の中で“これは嫌”だの、“あれはお前がやれ”だの言い合ってたのさ。」
「ふ~ん、そうなんだ。」
「なんだ、寂しいな。従兄弟達もそうだが、全く今のお前達は外で探検したり、レクリエーションしたりすることに関心がないよな、面白そうだと思わないのか。」
「ちっとも、だって今回お祖母ちゃん宅に行くのは僕等の家族だけだろ、妹のメアリーとキャンプなんて全然面白くないよ。母さんはそこでも“勉強やれ”だの、“行儀よくしろ”だの煩いし、父さんは会社に電話かけてばっかりだろ、それに1人だけ先に直ぐ帰っちゃうじゃないか。あ~あ、やっぱり家に残ってれば良かった。お祖母ちゃん宅にゲームシステムを持って行けないから、バルディアスのダンジョン、攻略するのに友達の皆より遅れちゃったよな。」
「お前な、そんな手先だけでの遊びばかりだと、いつかは身体が崩れて動かなくなるぞ。どんなに頭良くても、ひ弱やデブはモテないんだぞ。気持ち悪いとか、臭いとか、暑苦しいとか言われて、女の子から嫌われるからな。」
「じゃあ、父さんもそう言われたんだ。」
「むっ、逆らったな、これでも俺は、ニーメン地区ユースのサッカークラブに所属してたんだからな。今では、小煩いババアだけど、さっそうとした俺の姿に惚れて、母さんが声を掛けてきたんだからな。」
「なんだあ、父さんも母さんのこと、小煩いババアだと思っているんだ。」
「何で、そんなところだけ聞くんだ・・・しかし、女ってのはどうしてこうも変わるもんかね。その頃は、手に触れただけで顔を赤くしてくれたもんだ。」
「母さんは、父さんのこと“いつまでも子供でしようがないわよね”って言ってたよ。」