『スイッチ』の入った悠哉
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「ありがとうございましたー」
宅配便を受け取った美香だが、緊張はまだ解けなかった。悠哉がまだ『スイッチ』が入ったままだからだ。
バタン、と音を立てて扉が閉まったことを確認してから悠哉は口を開いた。
「美香、絶対に慌てるなよ。恐らく中身は爆弾だ」
「きゃっ…………っ!」
日向子はそれを聞いて叫びそうになったが、悠哉の「慌てるな」という言葉を思い出し、口を手で覆って声を抑える。……ば、バクダンっ! やばい逃げないと、って俺逃げられないじゃんこのやろうっ! おい美香、早く逃げようぜ?
「……っ! なるほど、日向子さんを狙ってるやつらの手口ね」
悠哉の表情に覚悟が決まっていたのか、さほど驚く事なく受け入れる美香。……無視かよ。
「依頼人に恐怖を与えるための爆弾だ、人を殺すだけではなく、周りにもわかりやすい被害を及ぼす物と見て間違いない。つまり破片を飛ばして殺傷するタイプではなく、爆風で殺傷するタイプだ」
淡々と、口調さえわずかに変わって説明する悠哉。
さっきまでの、美香に尻にしかれ、物腰が柔らかい少年はもうそこにはいない。探偵がそこにはいた。
悠哉と美香の話は続く。
「その箱の大きさと、美香が持てている事から爆弾の大きさは手榴弾程度だと予想できる。つまり完全殺傷範囲は2メートル程度だ」
「つまり……?」
美香の質問に続いて、悠哉はこう結論づける。
「玄関から出来るだけ遠くに投げ捨てろ」
悠哉がそう言った瞬間、美香はドアを強引に開け、Tmazonの箱を力任せにぶん投げた。……本当に大丈夫なの?
バタンッッ!
と音を立てて美香が勢いよくドアを閉めた瞬間。
ボーン、ボーンと柱時計の低い音が響き。
ドッッパァァァァアアアンッッッッ!
という轟音と共に、爆弾が炸裂した。
「きゃっっ!」
日向子が小さく悲鳴を上げた。
未だ空中にある中で爆発したのだろうか、衝撃波が一階二階を含めた裏口周りの窓ガラスを全て叩き割る。
玄関のドアは外開きだったのが幸いし、ドアが壊れて破片や衝撃波、熱等が悠哉達の所になだれ込むことはなかった。
「ふう、なんとかなったか…」
『スイッチ』が切れたようで、口調もだいたい元に戻った悠哉は、自分の周りにいる二人の少女の安全を確認する。爆弾による怪我がなくても、音に驚いて転んだとかで怪我をしているかもしれないからだ。
「美香さん、日向子さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です……」
日向子は耳を押さえていた手をはなしてそう答え、悠哉から少し距離をとる。やーい嫌われたー。
「美香さん? ……美香さん?」
息を切らして片手でドアノブを持ち、ぺたんと座り込む美香は返事をしない。……おかしいな、さん付けなのになにも反応しないぞ?
膝を曲げて、靴を脱ぐ一段低いところに座り込む美香と悠哉は目を合わせようとする。……やーい怖かったのかー? いくじなしー、怖がりー、ろくでなしー!
その途中で、悠哉は気付いた。
とんでもないほどに溢れ出す、美香の感情に。
もちろんそれは、恐怖ではなく……。
「悠哉」
「は、はいッッ!」
その怒りの感情を込められた平坦な声に、悠哉は悲鳴のような返事を上げた。……やばい、煽りすぎた殺される逃げなきゃどうしよう死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
「爆弾を送り付けてきた組織は絶対に潰す。良いわね、悠哉? 異論は認めないしこれからの悠哉の捜査にわたしもついて行くわ。誰にケンカを売ったのか思い知らせてやる。……あと地の文。どうなるかは分かっているわよね?」
ごめんなさい許してください出来心だったんでブゴバギャッッ!




