休む依頼人
5
「暖かい……」
日向子は暖かい湯のなみなみと湛えられた風呂に入って体を温めていた。
日向子の思考は今こんな事をするのではなく、今すぐにあの探偵に相談すべきだと訴えていた。
だが、この数日の間危機に晒され続けてきた体は、疲労と、久しぶりに入る風呂の感触が喜ばしく、風呂に入る事に対して意識は逆らう事が出来なかった。
ほんわりとする意識の中、日向子は考える。
(どうして探偵がここしか無いんだろう……コンビニの店員さんに訊いてもここしか教えてくれなかった……)
そう、悠哉があんな事をしている所に突入してしまった日向子は、あんな探偵に任せておけるかと別の探偵事務所を探そうとしたのだ。勿論斡旋所で『葛城探偵事務所』を紹介されたのだから、この街の中で一番日向子の依頼に向いているのは『葛城探偵事務所』なのかもしれない。
それでも『葛城探偵事務所』に依頼するのは何か腹立たしくて、別の探偵事務所を探したのだが。
見つけることが出来なかったのだ。
最初に貰ったパンフレットを見ても、道行く人に訊いても、コンビニに入って訊いても、「『探偵事務所』はどこですか」という質問の答えはたった一つ、『葛城探偵事務所』の名前を言うだけ。
(……なんでだろう、ここは『専門家の街』、探偵の専門家なんてたくさんいそうなものなのに……)
そこまで考えて、日向子は考えることを放棄した。
それより意識をはっきりさせて、あのいけ好かない探偵に依頼をしないといけないのだ。
日向子は湯船の中から勢いよく立ち上がって、
「っ! さぶさぶ……」
あまりの温度差にもう一度湯船に浸かってから、今度は覚悟を決めて立ち上がった。……眼福眼福。