決心
49
「それで? 俺はなにを調べれば良いんだ?」
逼迫した悠哉の表情に気付いたようで、巧の第一声はそれだった。
「まさか、真犯人を探せとか言うんじゃないだろうな?」
「いや、それは分かっている。大宮宗太郎だ」
「マジかよっ? 大宮宗太郎つったら日向子さんの祖父だろう? そいつを殺そうとしたのかっ?」
予想通りの驚きをする巧に、悠哉は情報提供を申し出る。
「大宮がいる場所も分かっている。八草組と巧の調査結果が違う訳だ、MK3はMM、拳銃は『組織』の物だったんだ」
「つまりは俺が調べた『特森エレクトロニック』の社員寮がヒット、ってことか」
「そうだ。だから巧に頼みたいのは、その社員寮の情報だ」
巧は一度息を吐くと、パソコンに向かって何か操作を始める。
「その調査には、どれくらい時間がかかるの?」
美香の気が立った言葉に、巧ではなく悠哉が答えた。
「すぐだ」
「……え?」
美香の疑問をおいてけぼりにして、巧の操作はすぐに終わった。続いて、隣に置いてあったパソコンに接続されているダブレット端末を、コードを抜いて悠哉に渡す。
「ここに攻め込むのは厳しいぜ、悠哉。なにせ……」
タブレット端末を受け取った悠哉は、一瞥すらせずに巧の言葉に被せる。
「【拠点設置】の専門家等防御系統の専門家の意見を多数得て建てられてる、か?」
「……っ!」
悠哉の言葉に美香がはっとする中、巧が慣れた顔付きで答える。
「ああ。確認できただけでも、【軍事要塞】【都市拠点設営】【防衛】【隠蔽】【籠城】の専門家が関わってやがる。直接噛ませずアドバイスだけ仰いだ専門家も含めば、ヤバイ数になるな。さしずめ、絶対防御屋敷って所か」
「それがどうした」
悠哉はタブレット端末を流し読みしながら巧に言い放った。
「それは無理だと断定する理由にはならない。僕は【探偵】の専門家。実行可能かなんて関係ない、ただ依頼人の望みを叶えるために行動するだけだ」
[それで、地の文はどうするのー?]
……俺……?
[そうだよー、おとなしく大宮の要求に従うの?]
……それしかあいつが帰ってくる方法無いだろ? 俺はあいつがもう一度俺の横を歩いてくれるためになら、どんな屈辱にも堪えられる。
[本当にそれで良いのー?]
……、どういう意味だよ?
[あなたが本当にそれで良いのか、って話だよー?]
……だってそうだろう、この前の美香の一件で分かった、人間でも地の文に勝つことは出来る。なら俺が刃向かっても、負ける可能性があるんだ。……俺が負けるだけなら構わない、でもそれであいつがほんの少しでも、かすり傷一つでもつく可能性が小指の先ほどでもあるなら出来る訳無いだろう!
[もう一回聞くよー? あなたはそれで本当に納得しているのー?]
……うるさいぞ謎の力。俺はこれで……っ!
[わたしは、あなたの気持ちが本当にそう叫んでいるのかを訊いているんだよー?]
……。
……。
……。
[……。]
……納得できる訳がないじゃないか。
[地の文は、やっと本心からの気持ちを出すことに成功した]
……これでよしと何てできるはずが無いだろうっ? 俺だって格好よく助けに行きたいよ、あいつを俺の手で救い出してやりたいよっ! だけど無理だろうっ!? 美香でさえ勝てない俺が、『地の文を読む』能力を使って今まで全てを思い通りにして来た大宮に勝てるはずが無いだろうっ!? だからこうするしか無いんだよ、諦めるしか無いんだよっ! だって俺にはどうしようもないし、俺が何かをやった所であいつが傷つく未来しか見えないんだから……っっ!
[やっとあなたの本心が聞けたねー]
……だからどうしたってんだ謎の力。でもこれを聞いたって、お前は地の文を監視するのが仕事だって言ってなにもやれないだろう?
[そうでもないよー?]
……え……?
[地の文、あなたわたしの説明聞いてたー? 例えるなら、わたしは地の文の神様だよー? 神様なら、自分の権能下にある者の願いを叶える手助けをするのも、当然のことじゃないかなー?]
……じゃぁ……。
[もちろん、あなたがやるべき事を代行することは出来ないけどねー? ここで神託、いや謎の力託をしてあげようー? あなたが描写してる主人公は、なにをしようとしているのかなー?]
……っ! 悠哉と同時に攻め込めば、大宮は対応が遅れるかも……?
[ほら、方向性が定まったでしょー? 準備してー?]
……おうよっ!
がたん、と音をさせてタブレット端末を机に置いた悠哉に、巧が確認するように話し掛ける。
「もう読み終わったのか……。……それで、行くのか?」
悠哉は決意に満ちた視線を巧に向ける。
[地の文、準備は終わったー?]
謎の力の確認に、この場に帰ってきた地の文は大きく頷いた。
「ここから先は、僕の時間だ」
……俺が、あいつを救い出すっ!




