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再考する探偵、浮かび上がる事実

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 「本当はまずいんだけどね、聞けばあの子は親族がすくないらしいじゃないか。まぁ職権乱用には変わりは無いけど、一応先に診断を伝えておこうかい」


 真由美の部屋に案内された二人は、着替えた真由美の前で座っていた。


 真由美は気をきかせて、美香が聞きたがっていた日向子の診断の方を先に伝えてくれるようだ。


 「大動脈破損、肺に穴が空いた程度だと良いんだけど」

 「だいたいそんなもんだね。ライフル弾は心臓をわずかにズレて肺を貫通してる。その時に冠状動脈が傷ついて、小さめの穴が空いた。動脈は血圧が高いから、小さい穴から大量の血液が流出したというわけさね」

 「……治るのか?」

 「あたしを誰だと思ってるんだい? 治すに決まっているだろう」


 その言葉に、安堵して息を吐く美香。しかし悠哉の表情は晴れなかった。


 ……なぁ、このおばさん誰だ? 早く状況説明先に活きたいんだけど。


 「【医療】の専門家(エキスパート)の人よ。地の文よりよっぽど立派な人よ」

 [まあまあ美香さんー、地の文も彼女が誘拐されたから混乱してるんだよー]

 「え? そうなの?」


 [知らなかったのー? というか地の文、どうして誘拐だと思ったのー?]

 ……そりゃ……何て言うんだ? この『返してほしけりゃこうしろ』みたいな紙が置いてあったらそれしかないだろ。

 [「え?」]


 「それで? どうしてこうなったんだい?」


 真由美の問いに答えられる可能性がある唯一の人物は、しかし黙っていることしか出来なかった。


 「…………」


 さすがに悠哉には、周囲に高い建物が無い状況で、およそ1キロメートル級の狙撃をされたという説明を聞かれているのではないということは分かったからだ。


 「え? 分からないのかい。はぁあ、マッセカーメイトが現れたからって浮かれすぎだよ。いつものあんたなら全てを即答していただろうに」


 真由美の言葉に悠哉は唇を噛んだ。


 「悠哉……」


 美香の声をBGMに、悠哉はもう一度今までのことを思い出す。


 ……謎の力、分かるか? 日向子さんが撃たれた理由。

 [これは分かるよー? 悠哉が気づいてないのが不思議なくらいだよー。]

 ……え、マジで? 全く分からねぇ……。


 [彼女さんのことは騒がないのー?]

 ……ここで騒いだら美香に殺されそうだし、ここを進ませないと本編が進まないからな……。本編を進めないと誘拐について美香を通して悠哉に相談出来ないし。


 [そんなこと考えてたのー? だめだよそんなこと、地の文の事は地の文で解決しないとー]

 ……ちょっ、そりゃないだろ、別に訊くくらい良いだ……。


 日向子が撃たれた理由のヒント! 思い出したい悠哉のセリフ100選!


 『MK3。アメリカ軍開発の攻撃手榴弾で、最近改良型のMK3A1の普及によってアメリカ軍の取り扱いが終わったロングセラーだ。』……八草組にて。


 『これで分かったのが、恐らく『我々』は一枚板ではないということ。』……誘拐脅迫の帰りにて。


 『MK3A1……?』……電車内の襲撃にて。


 『(MK3っ!)』……マッセカーメイト拠点の倉庫にて。



 ……ああっ! そうか……っ!

 [全く分からん、って言うのは禁止ねー?]

 ……なんで分かるんだよっ!?

 [まぁ、本編の最初から地の文の事は見てたからねー]

 ……でも分からんなぁ。それより100個も無いぞ? 25分の1しかないだろ、詐欺で訴えられるぞ?


 [誰にー?]

 ……いや俺が訴えらばぶべぼばびべっっ!

 [何か言ったー?]

 ……いやそれは酷いだろ、たしかに出来ないけどさぁ……。

 [まあヒントとしては、悠哉は一つ勘違いをしてる。つまり、上の四つのセリフのうち一つが間違いなんだよー]


 ……え? 悠哉が手榴弾の種類の鑑定を間違えたってことか?

 [そこじゃないよー]


 「まさか……」

 「お、なんか気付いたかね」


 やっとこの事件の本当の姿に迫れた悠哉の呟きに、真由美が説明を期待するかのように椅子に座り直す。


 「組織が、一つではなかった……?」


 断片的な情報だったが、真由美はそれだけで理解したようで、うんうんと首を振っている。


 「まさか、日向子さんを『生かして情報を得たい』組織と、『殺してでも詮索をやめさせたい』組織は別だったのかっ!? マッセカーメイトが内部で二派閥出来てた訳ではなく、MK3A1を使う組織が別に存在したのかっ!」


 一連の事件での、悠哉の違和感が初めて言語化された。


 「そうか、なら配送センターで爆弾を送り付けたのがMM、その後誘拐脅迫したのが組織、列車内強襲したのも組織、そして日向子さん宅を襲ったのがMM、日向子さんを取り巻く状況は、二つの組織が取り巻いていたんだっ! そして組織は『日向子さんを殺してでも詮索をやめさせたい』組織、日向子さんを殺すつもりで狙撃したとしても辻褄が合うっ!」


 「そうかいそうかい。それで、その組織っていうのはどんなんなんだい?」


 全てを総括する真由美の質問に、悠哉は即答する。


 「決まってる。今生きて自由に動ける中で、特森町の『鍵』を知っているのは大宮宗太郎だけだ。あいつはその冷酷な性格で、孫すら殺そうとしたんだっ!」


 ……なぁ謎の力。なんかあっさり分かりすぎじゃないか? まだ日向子さんが撃たれてから半日も経ってないぞ?

 [そりゃそうだよー、今回は証拠は全部残ってて、そこから悠哉が結論を導き出すだけだったんだからー]


 「よし悠哉。そいつはどこにいるの、潰しに行くわよ。ヒナを殺そうとしたんだもの、壊滅させないと気が済まないわよ」

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