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お叱りを受ける探偵

   46



 河崎医院。


 医院長河崎真由美が特森町に設立した病院。彼女の専攻は外科だが、特森町審査基準で内科を設立できるほど内科にも長けている。


 日本のみならず、アメリカ、中国、ヨーロッパ等での勤務経験もあり、基本的に彼女に任せておけばオールオッケーとまで言われている。


 運営方針は『一に緊急、二に緊急。三四飛ばして、五に緊急』。普通受付にどれだけ人が並んでいても、緊急搬送が一つあれば通常業務を全て一時停止して、緊急手術に励む地方病院の鑑だ。


 [それで地の文どういう事ー? 日向子さんが撃たれた所からきちんと説明してよー?]


 ……分からない。

 [分からないってなによー、地の文に起こったことを説明してって言ってるだけでしょー?]

 ……分かった、まず日向子さんが撃たれた時に言ったのはなにー?]

 ……あれば俺じゃない。

 [どういうことー?]

 ……そんなことよりどうしよう、あいつが今大変な目に遭ってたら……。

 [その話も聞いてあげるけど、とりあえず順序立てて話そうー?]


 「ち、の、ぶ、ん、あんたなんでわざわざあんな事言ったわけ? あんたの……なんだっけ、補強表現ならヒナを守れたでしょ?」

 [あ、美香さん来たー]


 ……やめろやめろ俺の襟首掴んで前後に揺らすなっっ! それと誇張表現な。あいつはそれを利用して日向子さんへの狙撃の成功確率を『誇張』したんだと思う。


 「あいつ?」

 [どういうことー?]

 ……あの時謎の力はノイズを感じなかったか? あの時誰かは知らないけれど、俺の地の文という仕事に介入して、一言喋って行ったんだよ。


 「地の文に介入した……?」

 [あのノイズはそういうことだったんだー]

 「というかあいつって地の文敵知ってるわけ? 知ってて隠してるの?」


 ……違う違う、そんなことしてねえって! ただ単に、知らない相手だからあいつって呼称してるだけだっ!


 「ヒナは、ヒナは大丈夫ですかっ……?」


 一時間を越える手術の後、出てきた執刀医に美香は気が気でない様子で尋ねた。


 彼女はマスクを外すと、美香の後ろに立っている悠哉に向かって口を開く。


 「危なかったがなんとかなったよ。特森町じゃなきゃ死んでたけどね。何やってるんだい、依頼人をこんな目に遭わせて。あんたはこういうことを防ぐために危険な所へ一人で行っていたんじゃないのかい? ……おおかたマッセカーメイトに気でも取られて側面を見逃していたのかね」


 「……返す言葉も無い」


 わずか昨日の晩に起きた、新聞に載るとしても今日の夕刊になるはずの情報を知っている執刀医と悠哉の会話を聞いて、美香はおずおずと訊く。


 「えっと……、悠哉のお知り合い?」


 その言葉に執刀医は、美香の方を向いて笑う。


 「はっはっは、そういや実際に会ったことはなかったね、瑠璃浜美香さん。あんたのことは悠哉からたまに聞いてるよ。私は河崎真由美。一応悠哉の後見人ってヤツさ」


 その言葉に、悠哉は説明が足りないと感じたのか補足し直す。


 「河崎さんは、母の古くからの友人だった、らしい。小さい頃は祖父の所に預けられていたが、こっちの方に来てからは河崎さんの世話になってる」


 「まぁあたしと悠哉の関係を表すならそんな所だね。とりあえず、あたしの部屋においで。ありゃ高速弾……ライフルの銃創だろう。どういう状況になってるのか、説明してもらわなきゃならないからねぇ」

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