迎え入れる準備
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悠哉が借り受けているのは、レンガ造り三階建ての建物の一階だ。外面は洋風だが、中身は普通の事務所とそう変わりない。といっても間取りも多少は洋風で、悠哉もたまに戸惑うことがある。悠哉はここを住居兼事務所として使っている。
玄関を開けると、まず普通に靴を脱ぐ土間。一段上がって正面に進むと、絨毯張りに本棚とソファの置かれた円形の待合室。待合室から四方向に扉があり、さらに二階への階段がある。少し戻って、玄関と待合室の間にトイレ、倉庫、反対側にバスルーム。
待合室から繋がる四つの部屋は、ダイニングキッチン、ベッドルーム、そしてプライベートルームと応接室。二階以上は一応美香の所有のため、あまり勝手に入ってはいけない。それでも食事に行ったりするのだが。
美香が二階に戻った後、悠哉は依頼人を受け入れる準備を始めた。
さっきの依頼人の様子から、依頼人はこの雨の中ずぶ濡れになって来ている事が予想できる。更に悠哉への心証も悪くなっているだろう。後者への対策は何とか行動で示すしかないが、前者への対策として風呂を沸かし、洗濯機兼乾燥機の電源を付けておき、新しいバスタオルを用意する。
それから、依頼の内容を予測して、必要なものがどこにあるのか思い出し始めた。
およそ30分後、風呂の湯もちょうど良いくらいになった頃。 ピンポーン、とチャイムが鳴った。
悠哉は複数用意した新品のバスタオルの一枚を持って玄関に行き、
「ようこそ『葛城探偵事務所』へ。まずは体を拭いて、そんな濡れた格好でいないで温まってください」
そんな言葉から対応を始めた。