ラスボスとの会敵
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数分前。
……ヤバイヤバイ、美香、ちょ美香っっ!
「なにようっさいわね、今悠哉が帰ってくるのを待ってるのよ?」
[その悠哉がやばいんだよー、激情に駆られて人を殺そうとしてるよー?]
「いや良いでしょそんなクズ組織。適当に間引いた方が悠哉が壊滅させた後犯罪発生率が減って万々歳じゃない」
「……? どうしたんですか美香……さん」
「いやね、なんか悠哉がマッセカーメイトの構成員を殺そうとしてるかも、って話が……」
「だめっっ!」
美香の言葉に温厚な日向子が珍しく、大きな声を上げた。
「美香さん、悠哉さんの電話番号はなんですか?」
「いやでもあいつらクズよ? 別に死んでも構わないじゃないの」
「良いから早く教えてくださいっ! このままじゃ、悠哉さんが……っ!」
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……ふー、間に合ったぜ。マッセカーメイト壊滅戦の前半はなんか説明が多くて喋られなかったけど、後半はもっと遊ぶぞーっ!
[まあもう少し後からなら良いけどー。]
『悠哉さん、復讐は良いですけど、殺したらだめですっ!』
突然かかってきた電話の、しかも同じ親を殺された日向子からの言葉に悠哉は一瞬驚いて、それから理由を訊いた。
「どうして? こいつらは親の敵だ。死んだ所で、こっちの心は痛まない」
『当たり前じゃないですか、そいつらが死んだところで私はなにも言いません。逆に良い気味だと思うと思います。でも……』
日向子は知っている。
悠哉は驚くほど一途な事を、優しいことを、ぶれない事を。
だから、日向子はそんな良い所がいっぱいある悠哉に、なって欲しくないのだ。
『悠哉さんそいつらと一緒にならないで下さいっ!』
「…………」
悠哉は理解した。
それが、日向子の強さだということを。
自分の気持ちを我慢してまで他の人を思いやれる、そういう強さの持ち主なのだと。
(しょうがないよなぁ)
その言葉を聞いて、悠哉は思う。
(依頼人がそう言うなら仕方がない。)
「分かった、日向子さん。承りました」
そう言う悠哉の右手から、尖った破片が落ちて砕けた。
電話を切った悠哉が目指すのは、倉庫の中で唯一人間の滞在環境が考えられている、休憩室兼在庫管理室だ。
……いやぁなんとかなったなぁ。
[まぁそうだねー、地の文のとっさの機転で悠哉が殺人犯になるのは防げたよー]
…………来たよ……。
……おう、今回は普通に登場だなぁ。
[彼女は地の文にくっついたー]
今は悠哉が無双してる所だからな、描写は多いけどその文しゃべりやすい所だ。いっしょに楽しもうぜ?
一番奥にある休憩室に着いた悠哉は、正面からドアを勢いよく開ける。
そこへ襲い掛かるのは銃弾の洗礼、しかしそれを予想していた悠哉は金属製のドアを締めて全てを防ぐ。一応これは防火扉なのだ。
その合間に確認した室内は、学校の教室を縦に半分に割った位の大きさだった。
そこにいるのは五人ほどのMM構成員。さっき倒した奴らとは違い、背中から延びるマニピュレータは二本になっており、単純計算で手数は二倍に増えている。
それでも、悠哉の表情は動かない。
「(恐れることはない、手が二本増えたとしても、動かしているのは脳だ。脳の機能が追い着かなければ、ただの木偶と変わりない。)」
……そういえば美香がいないこの三人だけで集まるのは初めてじゃないか?
…………む。……私のいる前で他の女の話を出すなんて……。……これが噂のNTR……?
……俺はまだ童貞だよ馬鹿野郎っ! お前以外で卒業する気は無いって言ってる……言ってはいないか。
[彼女さんノリノリだねー]
止んだ銃撃に、訪れる静寂。あえて間髪入れずに開けた扉からカランッと音を立てて出てくるのは円筒状の手榴弾。
「(MK3っ!)」
起爆まではたいてい3から5秒。投げ返している暇などない。
だから悠哉はあえて弾痕だらけの扉を掴み、部屋の中に入ってそれを閉めた。
直後の爆発にビリビリと震える部屋の中には、侵入者が自ら近づいてくるという予想外の出来事に、一瞬思考停止した構成員が。
その悠哉以外誰も動けない時間帯に、今度は悠哉が円筒状の化学手榴弾のピンを抜く。
空中から全員へ均等に衝撃波を撒き散らすように投げられた手榴弾は、
(自爆特攻かっ?)
思考停止から脱出した後一瞬で身を屈めた構成員の、驚愕とともに起爆する。
「チェック」
……あんなのぶち込まれたら悠哉もただでは済まないだろ……。どうするつもりなんだ?
…………案外、普通に受け切るのかもよ……?
瞬間、放たれたのは閃光と爆音。
脳の処理能力を越えて強制的に入力された情報は、構成員に何も考えられない状況を作り出す。
麻痺手榴弾を使って、脳を使用不能状態に追い込めば、脳で考えて操作しているBMIでも関係がない。マニピュレータがあるないに関わらず一瞬で制圧できる。
両目瞼に塗った遮光塗料とかざした両手、登録された音をノイズキャンセルの技術を使って無音化するイヤホンを使ってスタングレネードの影響を排除した悠哉は、速やかに五人を気絶させ、ヘルメットを取って無力化する。
……もうダメだ、悠哉の思考回路が分からない……。
…………あなたがわかるのは私だけで良い……。
……ああ、おまえの事は誰よりも深く知るつもりだぞ、安心しろ。ついに男同士の友情にまで嫉妬し始めたか?
[悠哉は地の文のこと知らないけどねー]
……まぁそうなんだけどな。だからなんで美香は俺達のことが見えるんだろうな?
…………男同士の友情……? 私よりあなたのことを知ってるんだったら嫉妬する……。
……大丈夫さ、地の文の中で俺を一番知ってるのはおまえだからな。
[一応前例はあるんだけどねー。そういう血を引いているのかもしれないねー]
……なんの話だ?
[美香さんの話だよーっ!]
そうしてたどり着いた最奥の部屋、在庫管理室。
在庫を管理するために、本社を通じてインターネットに接続しているこのパソコンが、在庫管理にしか使えない訳がない。MMの情報共有のために使われていたと考えた方が良いだろう。
その部屋の、パソコンが置かれているスチールデスクに座っていたのは、悠哉が長年捜し求めていた男。
…………さぁ運命の出会いっ……。
……その言い方だと悠哉とこの男がこの後恋仲になるみたいになるだろっ!?
「リオン・ハーバーマス……」
「ほぉ? 俺の事を知っていたか」
ついに、悠哉は両親の敵と出会ったのだ。




