その頃。彼らは平和だった?
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その頃。
……何度でも言ってやる、いくらでも宣言してやるっ! 俺はお前のためならなんでも出来るし、どんな手を使ってもお前を幸せにしてやりたいんだよっ!
…………あなた……(きゅんきゅん)。
「本当私の前でやるなっ!」
「(美香さんなにやってるんだろう……?) ……そういえば、美香……さんが住んでる特森町って、たしか日本で初めての機械化都市……なんですよね?」
電話をするために客車から出ていった悠哉を尻目に、二人はガールズトークに花を咲かせていた。
「完全行政電子化都市、ね。街の行政が全部データ化されていて、市役所には巨大なコンピュータしかないのよ。人がいるのはヒナも行った斡旋所のみで、しかもそこもコンピュータ検索が主らしいわね」
「たしかにそう……でしたね……。受付の人の横に一台ずつパソコンが置いてありました。私の時は、用件を言っただけで葛城さんの所を勧められましたけど……」
……がーるずとーく? ただの世間話以下だろ、どこにガールズ(w)な部分があるんだ?
「他の都市と比べたら、かなり楽だって聞いてるわよ? 専用ソフトを簿記つけてるパソコンに入れて、更新する時に一度ソフトを噛ませるように設定しとけば、法人税とかも勝手に計算してくれるし、口座まで登録しておけば勝手に引き落としておいてくれるし。税務士を雇わなくて良いし、コスト削減にもなってるわ」
「……? どういうことですか?」
不思議そうな顔をして聞き直してくる日向子に、美香は苦笑して言葉を改めた。
「あぁ、自分で経営してないヒナには分かりにくいかもね。つまり、会計をきちんとパソコンでつけているだけで、面倒な申請とかがいらなくなるってことよ」
「そうなんですか……。よく分からないけど、そういうことなんですね」
「そういうことなの。……ははっ」
「……ふふっ」
適当な会話に、なんとなく込み上げた笑いで笑い合う二人。 [あっちはなんだが物騒な話をしているのに、こっちは平和だねー]
「それで地の文。喧嘩売ってるの? いい加減勝てないってこと学びなさいよ」
……何を言ってるんだこの美香は。俺が本気でやったら人間が勝てる訳無いだろ? 人間は俺達地の文の描写の上で成り立ってるんだ、そして地の文にはある程度の『誇張表現』、『曖昧表現』が出来るんだ、これらの封じ手を使ったら美香なんか成す術も無いぞ?
「……OK、地の文。身の程ってヤツをあんたには教え込まないといけないようね」
……上等だ美香、お前とはいつか完全に決着をつけなきゃいけないと思ってたんだ。
[二人の間にめらめらと燃え上がる炎。全然平和じゃなかったー]




