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見つけた手掛かり(襲撃者)

   27



 ……ところで、悠哉は何やってるんだ?


 カランッと音を立てて、黒い円筒状の物体が転がった。


 (攻撃手榴弾っ!?)


 「くそっ!」


 持っていた軽機関銃(サブマシンガン)を投げ捨て、咄嗟に新幹線のトイレの中に逃げ込む。勢い良く閉めた扉に、鍵をかける暇も無くそれは起爆する。


 ボッパァァッッンッッ!


 扉越しに伝わるくぐもった爆発音、全力でスライド扉を押さえ付ける腕にかかる衝撃。


 悲鳴を上げる腕をなんとか堪えて、爆発の後に続く風を耐えきる。


 金属片を撒き散らすパイナップル型の防御手榴弾ではなく、暴風で殺傷する攻撃手榴弾だったのが幸いして、トイレのドアをブチ破られることは無かった。


 風の影響か不気味に振動する扉が静かになった瞬間、扉を開けて外に出る。


 目の前にもトイレが見える、新幹線の通路。ここは横向きにしたTの軸で、横切る棒の両端には乗車用の扉がある。


 爆風で殺傷するといっても外殻は金属だ、その破片のいくつかがアルミ製の壁に突き刺さり、傷がついている様子を見ながら体を90度横に向け、サイドアームの拳銃を構える。


 そこで最初に目に入ったのは、床に落ちているまだ新しい煙草の吸い殻……。


 それが強烈な光を放って、俺の思考能力は途絶した。





 「ぐ、がぁぁぁっ、……」


 煙草スタングレネードを喰らった敵一人を、悠哉は速やかに気絶させた。……びっくりしたー? びっくりしたでしょ、悠哉がやられたと思ったでしょー。引っ掛かったヤッターっ!


 「やっぱりいたか」


 その男を翻弄した悠哉は呟いた。


 ここは後ろから二番目の車両の一番後ろ、車両全部が客車として詰まっているのではなく、トイレスペースと乗り込み口としてある程度のスペースが確保されている場所だ。といっても両手を延ばせば壁に手はつくし、そう広い訳ではない。


 トイレに行くと言ってここに来た悠哉は、とりあえず本当にトイレに入ってみた。別に尿意があった訳ではないが、アリバイ作りというか、美香が見ていて「悠哉入ってなかったよね?」と後で言われることに対しての予防線だ。……本当に悠哉は小心者だな、そんなんで敵に勝てるのか?


 そこで適当に手を洗い、扉を開けて外へ出た時に、今の男と遭遇した。


 「チッ、見られたか」


 不機嫌そうに言う男が身に纏う装備は、まるっきり軍隊のそれだった。両手で抱えているある程度砲身の短い銃は軽機関銃(サブマシンガン)突撃銃(アサルトライフル)か。閉所戦闘での取り回しと威力とを秤にかけて、後者を選択したらしい。左腰にも二つのグレネードが引っ掛かっていて、どこのゲリラやテロリストを制圧しに行くのかと疑問になるほど重装備だ。……こっちもそれくらいの装備が欲しいぜ、本当に。そうでもしないと美香には勝てそうにもない。譲ってくれないかなぁ?


 「両手を頭の後ろに組んで、膝をつけ」


 男がその言葉を口から吐き出すと同時、悠哉は体勢を低くして一瞬で男の横をすり抜ける。


 男の左腰にかかっていた、円柱状の手榴弾を掴み盗んで。


 一度の交錯で、立場は一瞬にして逆転する。


 T字の通路、その交わっている方に逃げ込んだ悠哉を捕捉しようとした男は、カランッという音を聞く。


 ……ということがあったわけさ。はい騙された人挙手ー、思い切り笑ってあげるからさっ!


 「MK3A1……?」


 気絶した男を再びトイレに押し込めながら、悠哉は不思議そうに呟いた。……? えーと、たしか宅急便爆弾の時に言ってたヤツだよな? 宅急便爆弾に使われてたのが、旧式のMK3ってヤツだったはず。


 悠哉はポケットから取り出した万能ナイフの、マイナスドライバーを使って鍵の表示をいじり、トイレの扉をロックする。


 「なんでこっちはMK3A1なんだ?」


 悠哉のその思考は長く続かなかった。新幹線の進行方向、悠哉が来た方向とは反対の車両から、今気絶させた男と同じような装備を纏う男三人が現れたからだ。


 「おい、そこの男っ!」

 「何をしている?」

 「怪しい奴だな」


 ……お前らには言われたくは無いな、日本で銃をぶら下げてるなんて相当不審者だぞ? で、悠哉はどうやってこの窮地を切り抜けるのかなぁ?


 (予想通りこっちの車両は『我々』が席を買い上げて、占有してるみたいだな。でも、昨日の今日で同じような手を使ってくる組織のはずが無いから、やっぱり『あいつ』がいるな。とりあえず……)


 悠哉の思考が高速で回転し、一秒も満たない間に最善手を導き出す。


 「ヒッ、ヒィィィイイッッ! なんだ、俺は何もしてないぞ? ただここのトイレが開かないし中の反応が無いから鍵がかかったのかと思って弄ってるだけだ、なんなんだよおまえらっ!」


 一瞬で両手を上に挙げ、悲鳴を上げて善良な市民のフリをする悠哉。……お前プライドとか無いのか悠哉? こんなとこ日向子さんとかに見られたら幻滅されるぞ? ここは主人公らしく正面から圧倒とかして一気に制圧しないと。


 「とりあえずお前こっちへ来い。抵抗さえしなければ悪いようにはしない。俺達の目的はお前じゃないからな」


 男達の言葉に、俯いて手を挙げたまま進む悠哉。


 「よし、顔を見せろ」


 悠哉に指示を出す、男達のなかでリーダー的存在らしい男が悠哉の顎に手を沿え顔を見ようとする。……よしこいつをBLと名付けよう、端から見たら大人し系の受けをくいってしてる攻めにしか見えないからな。


 BLが悠哉の顔をくいってするために足を一歩踏み出そうとし、背景に薔薇の花が咲き乱れる、まさに直前。


 「……シッ!」


 気迫と共に悠哉はBLを投げ飛ばす。


 小外刈り。


 相手が前か後ろに進むとき、相手の体重が乗っている足を払って相手を投げ飛ばす技だ。


 悠哉より大きな体格で、重い装備をつけている男が悠哉に投げ飛ばされる光景は、『柔よく剛を制す』という柔道の理念を鮮やかに写し出していた。……すげー……。これを覚えれば、美香にもかてるか……? いや、あっちの方が確実だな。


 BLはそのまま男2の上に落とされて、叩きつけた衝撃と、叩きつけられた衝撃で二人の意識を奪う。


 「んなっ……!」

 一瞬のことで理解が追いついていない男3が間抜けな声を漏らす。


 それも仕方の無いことなのかもしれない。

 不測事態(アクシデント)から混乱収束(クッション)思考切替(スイッチオーバー)、そして活動再開(アクション)へ繋げる一連の流れは、正式の軍隊でさえ数秒はかかる。いくら専門家(エキスパート)が率いていたとしても、戦闘に特化していない『我々』にはそれを消す術など無い。


 そんな何も反応できない状態にいる男3に、悠哉は股間へ容赦なく蹴りを叩き込む。……今だっ、拳銃をBLからもらうっ! ……って体が動かない!? またお前か、謎の力ぁああ! お前が俺の邪魔をするのかぁああああああああっっ!?


 そこが男の弱点であることは常識であろうが、それが死に繋がるリスクを孕んでいる事はあまり知られていない。


 そこに大きな衝撃を受けた時、男は激しい疼痛に襲われたり、虚脱症状に陥ったり、呼吸困難になることがある。それらが死に繋がるかもしれないということは、少し考えれば分かるだろう。柔道ではその状態から回復させるための、睾丸活と呼ばれる応急蘇生法があるほどだ。


 よって、男は何をすることも出来ず股間を押さえて崩れ落ちる。意識はまだあるようだが、動ける状態ではない。


 そんな男3のみぞおちへ悠哉は躊躇なく当て身を喰らわせて気絶させる。


 そして悠哉は悠々と、『我々』の占領する客車のドアに近づいた。……いい加減にしろよ謎の力……。俺はこんな固い描写したくないし拳銃が欲しいんだよっ!

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