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プロローグ
1
『専門家の街』と呼ばれる街がある。
それは、その街の人口、6割以上が何らかの専門家であり、残り四割未満はその家族だ、と噂される街である。
この街の主な税収は法人税。特に、個人商店から納められる税が一番多い。
それは、その街に住む専門家のほとんどが店を出し、自らの専門分野専門の業者となっているからだ。
必然的に、客は街の外から来ることになる。というか、この街を訪れる人間の9割は仕事の依頼者であると言われている。
そんな『専門家の街』、特森町へ行けば、あらゆる種類の専門家がいる。ここを訪ねれば、叶わない依頼など、無い。
2
小雨が降る中、向井日向子は特森町を訪れていた。特森町を訪れる、他の人間と同じように仕事の依頼である。
市役所に併設されている斡旋所を経由して、紹介された専門家のところへ向かって行くところなのだ。
「ここなら……、きっと……」
日向子はそう呟いて歩く。
目的地は次の角を曲がった先。
『葛城探偵事務所』と書かれた洋風の、レンガ造りの建物へ、雨の中傘もささずに進んで行った。