探偵が訪ねた友
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「よう悠哉、久しぶりだな」
「巧、しばらく」
座頭巧は軽く手を挙げ、友達の来訪に応えた。
……ええと、どなたですか? まぁいいや、美香がいないから初めての自由な時間だぜ!
「そっちは儲かってるみたいだね」
「まぁ、な。興信所は基本企業との契約だから、一つ契約すると定期的に仕事と金が入ってくる。っていうことは悠哉は相も変わらず儲かってねぇのか。探偵って良いイメージあるし、特森町にも一つしか無いんだから儲かりそうなモンだけどな」
不思議そうに言う巧。しかし、
「じゃぁ巧もやってみたら?」
「無理だって、不可能だ」
悠哉の言葉に慌てて否定する。……やーい巧の意気地無しー。悠哉ですら出来てるんだから興信所やってる巧なら出来るでしょー?
「巧はそう言って一緒に『葛城探偵事務所』を起業してくれなかったけど、巧なら絶対出来るって」
「俺じゃ足手まといにしかならねぇよ。悠哉みたいに数十種類も学問を修めてないんだ、出来ない分野の方が多くてアウトさ」
「助手としては巧みたいに調査力があるだけで良いと思うけどなぁ」
……ちょっと待てっ! 数十種類の学問を修めたっ? どういうことだよ、悠哉はただの民間探偵じゃないのかっ?
諦め悪くなおも言う悠哉に、巧は最後通牒のつもりで言葉を突き付ける。
「んな訳ねぇだろ、この街で自営業として起業するには、その店で受けるであろう全種類の仕事に対して精通・熟練している必要がある。興信所なら取引相手の調査、最悪でも極秘取引の仲介ぐらいだが、探偵で扱う仕事の種類はヤバイほど多いだろ。普通の調査力から各専門分野知識、果てには依頼人を守るための体術系統? もっかい言うぞ、俺には無理だし、大低の人にも無理だ。だから特森町にはお前以外の探偵がいないんだろうが」
「ごめんごめん」
その言葉と、巧の込めた意味にさすがに気付いて謝る悠哉。しかしきつめの言葉とは裏腹に、巧の顔にも笑顔が浮かんでいた。これは二人にとってじゃれあいの様なものなのだろう。………えっ、探偵事務所って特森町に一つしか無いの? もしかして……、マジで悠哉ってすげえ奴なのか?
「そんなに儲かってねぇなら俺から依頼出してやろうか? 20年前、前首相大宮宗太郎はどうして『専門家の街』計画の成立に尽力したのか。そして15年前その息子が駆け落ちした相手は? もう大宮は引退したが、政治家に狙われる素敵な仕事だぞ?」




