配送センターからの帰りに
16
「ハズレだったわね……」
美香はタクシーの中で呟いた。
配送センタージャックから一時間。監視カメラにだれもいなくなった所を見計らって出てきた三人は、センターの職員に「後日また改めて」と言って、タクシーを呼んでもらい一度帰途についた。
ちなみに三人は、会話の内容が運転手に聞こえないように全員後部座席に座っている。
「そうとは限らないよ、美香さ……美香。これで分かったのは、配送センターの朝勤の人はとりあえず白だ、ということだけ。まだ配送センターの夜勤の人を調べきっていないから、黒ではないかもしれないとは言えるけど、完全に白とは言い切ることは出来ないよ」
悠哉はもう邪魔にしかならないフィルター付き超立体マスクを外した。一応来る前から着けていたという建前なので、配送センター職員の目の前で取る訳にはいかなかったのだ。もちろん、所長室で話している間は失礼にあたるので外していたが。
「でもこれで、もう同じようには調べられないんじゃ……? 所長さんも警戒するでしょうし」
「大丈夫、他に調べる方法なんていくらでもある」
……ホントかよ?
「そう、ですか……」
俺と同じ疑問を抱いたらしい日向子は、しかしそれを心の中におさめてそう言った。……うーん、こういう日向子ちゃんかわいいー!
「おい地の文。ナンパして良いって誰が言った? というかお前この前のナンパ野郎じゃないだろうな」
残念賞、俺は最初からいる地の文でーす。……というかナンパ野郎? もしかしてあいつがここへ来たのか?
「……知り合いなの? いや別にあんたの知り合いが気になる訳じゃないんだけど」
やーい美香のツンデレー。いやいつでもツンツンか。ああ、あいつとは地の文学校からの付き合いだよ。なつかしいな、あいつ今何やってるんだろう……。少なくとも代理で呼ばれたって事はまだニートやってんのか。
「…………」
あれ? ツンデレとか言った報復が来ないなぁ? いやMな訳じゃないんだけど、いつも来ていたのが来ないってのはなんか嫌な感じがするというか……。
「Zzz…、Zzz…」
なんだ寝ちゃったのか。ふーん、そんなに俺の話面白くなかったかなぁ? って日向子ちゃんも寝てる……。悠哉はかろうじて寝てないか、ってなんか言ってる?
「この微かな甘い臭い、笑気ガスか。この甘い味はハロタン……。まずい、一服盛られたな、このタクシー自体が『我々』の誘拐専用特別車両なのか……」
あ、寝た。どゆこと? ハロタンって悠哉が使ってた麻酔だったよな、漏れたのか? って運転手ガスマスクしてるし! なになになになに、悠哉達眠らされてる訳か? でもハロタンだけだと眠らないとか俺言わされた気がするが? もしかして、さっきハロタンの影響受けたから眠りやすくなってるとかなのか、知らんけど。というかこんな真っ昼間から誘拐!? ちょっとちょっと、この後描写面倒臭いじゃん、こんな展開止めてよー。……そういえば、ここの空気本当に甘いのか? ……ん、ちょっと甘い。臭いも甘いし腹に溜まらない以外は良いが……。……あれ、眠い……。これ、地の文にも効く、の……。