第8話 再会・・・。そして
それからは一人暮らしを始めるために昼夜問わずアルバイトを重ね、
十分なお金を確保した。
そして今日は大学のガイダンスがあるということもあり、
陣は朝一の電車に乗って大学のある地域までやってきていた。
陣にとってこの場所は、受験日と発表日、今日のガイダンスしか来たことがなかった。
それなのにもかかわらず陣は最初に来た時からなぜか、この場所に見覚えがあった。
まるで何年間か暮らしていたことがあるかのような感覚だった。
だからなのか陣は進学の決まった大学に行く際にも迷うことはなかった。
そして、どうしてなんだろうなぁと考えながら大学へと向かう最中のことだった
道の先から見るからに元気いっぱいの女の子がこちらへ向かって歩いてきたのだ。
それは普通の光景だった。誰しもが当然にみている日常の一端だった。
普通はそのことで何かを感じる人はいないだろう
しかし、陣にはなぜかこの場所同様その女の子を見た瞬間、
漠然と懐かしいという想いが生まれてしまい、
知らず知らずのうちに涙が流れてしまっていた。
気が付くと陣はその女の子に向かってやや駆け足で近づき、声をかけていた。
「どこがで会ったことがありませんか?」
ナンパに見えても仕方がなかったその言葉に女の子は少し驚いたのち、
陣をじっくり見てニコリとした。
「そう言われたらなんでかなぁ。
私もあなたと会ったことがある気がするよ。あ、名前はなんていうの?
それでわかるかも!私は佐伯まどか。聞き覚えある?」
少女の名前を聞いた瞬間、陣は知らないはずなのに知っていた。
というおかしな感じだったがなぜか心地いい感じがした。
まるで何度もその名前を呼んだことがあるかのような。
「俺は朝倉陣。どう分かった?」
陣は自分の名前をまどかに伝えた。するとまどかも少しの間止まっていた。
「う~ん、おかしなこと言うけどごめんね。
なんでかわからないけどあなたの名前を聞いた瞬間に一瞬、
知らないって思ったのに懐かしく思っちゃった。まるで何回も陣って呼んでた気がするの。」
陣は驚きを隠せなかった。自分と同じことを考えていたということに。
そうしてもっと話したいと思っていた時だった。急に両方の携帯が鳴りだした。
二人同時に携帯を開けて、陣はガイダンスの時間が迫っていたことに気づき、
まどかも何かに気づいた様子で、携帯を閉じると、お互いに道の先を見た。
「それじゃあ、俺もう行くよ。引き留めてごめん」
そう言って行こうとした瞬間、まどかは手をつかんできた。
「あ、ごめんね。ひとつ聞きたいんだけど、またここ通る?」
陣が頷くと、まどかは満面の笑顔になって、手を放してくれた。
「それなら良かった。じゃあ、またね陣」
そう言いながら手を振ってくるまどかに対し、
陣も振り返ると「ああ、まどか。またな」と言って、大学への道を急いだ。
また会える。そう確信して。
fin.




