第3話 陣の病室を訪れた男の正体
その人の名前は、佐伯信二と言ったが、陣は誰だか分らなかった。
最初は父親の友達かなと思っていたものの、
佐伯さんの自己紹介によって、そうではないと分かった。
「あ、こんにちは。陣くん。僕とは初めましてだよね。
僕は君の父親のお父さんだからお爺ちゃんのもう一人の息子です。
あ、でもこのことを知っているのは僕と君のお父さん、
そしてお爺ちゃんだけなんだけどね。」
陣は内心よくわからず、首を傾げてしまった。
なんで父さんの兄弟なのに、母さんやおばあちゃんも知らないんだ?
それにそんな話、父さんからも聞いてないよな。
なんか怪しいなぁ。この人
そう考えていたのが分かったのか、
佐伯さんはその疑問を解決するような答えを発した。
「う~ん、やっぱりもう少し詳しく話したほうがいいかな。
まず知らない理由だけど、
あんまりこんな話をされても困ると思うんだけどね。僕の父親、
君から見たらお爺ちゃんは君のお父さんが生まれた後、
一時の気の迷いから他の女の人と不倫していたみたいなんだ。
その時にできた子供が僕なんだ。
まあ、そのあとお爺ちゃんはぼくと僕のお母さんを残して、
自分の家に戻っていったみたいなんだけどね。
まあ、でもそのあとお爺ちゃんは頻繁にお金や手紙を送ってくれて、
さらには18歳になったときに、君のお父さんにも会わせてくれたんだよ。
妻には内緒でとか言っていたけどね。
それからはお父さんともたくさん会ってね、ある時、こういわれたんだ。
「俺に何かあったときは陣を頼むよ」って。だから迎えに来たよ」
佐伯さんは一気にいろいろなことを一息も入れずに伝えたため、
陣は少々疲れてしまい、
佐伯さんの第1印象が「おしゃべりな父さんの腹違いの兄弟」になった。
そして話が終わると、聞きたいことができた。
「まあ、要するに腹違いの兄弟ってことはわかりました。
でもそのあとの迎えに来たよっていうのは意味が分からないんですが、
どういうことですか?」
すると佐伯さんは笑顔のまま、続けた。
「あんまり言いたくはないんだけどね。もし君の母親が生きていれば、
僕は来なかったんだけどね。
もうどっちもいないってことだから今、君は身寄りがない状態なんだ。
そうなると孤児の施設に入れられる可能性は極めて高いんだよね。
まあ、君の母親の親戚の人が引き取ってくれるのなら、
別にいいのだけれど。そうはいかない可能性も高い。
だから僕はお父さんの言葉の通りに
君を僕の家で引き取って面倒を見ようと思っているんだ。
絶対に不自由はさせないと約束するから、どうかな?
もし僕の助けがいらなくなったら、君は自由にどこかに行ってくれてもいい。
ただ僕としてはお父さんの形見として
ずっと育てたいとは思っているんだけどね」
そして陣は佐伯さんのその必死な言葉に心を突き動かされ、
この人なら信用できるかもしれないと思った。
実際問題、陣は母方の親戚にいい思い出がなく、
父親の方の親戚にはよく会い、良くしてくれていた。
そのため父親の親戚が迎えに来てくれるのを期待していた。
だからこそ、陣は佐伯さんに付いていくことを決意して。口を開いた
「わかりやすく説明していただき、本当にありがとうございました。
本当にあなたが父の兄弟なのかどうかはまだわかりませんが、
さっきからの言葉を聞いてあなたなら信用できると思いました。
なので僕はあなたについていこうと思います。これからよろしくお願いします」
陣の言葉を聞き終わるまで、
佐伯さんは断られるかもしれないという思いもあったため、
少し冷や冷やしていたものの、最後まで聞き終えた瞬間に笑顔で涙を流していた。
「うん。これからよろしくね。陣君。
僕のことはお父さんと言ってくれてもいいからね」
涙を流しながらもそう言ってくれた佐伯さんを見て、
本当にやさしくて正直な人なんだなと陣は思うようになった。
その後は父さんと母さんの葬式を終え、母方の親戚に来ないか?
と言われたものの、佐伯さんのような必死さはなく、
形式的なもので一種の冷たさもあったことから、
その誘いを断り自分のした選択は正しかったという確信を抱き、
陣は佐伯さんと共に佐伯さんの家族の待つ家へと行った。
佐伯さんの家族は彼同様優しく陣を迎え入れてくれた。
まるで本当の子供のように。
そしてまどかともその時から一緒に暮らし、兄妹のように育てられた。
家族には気づかれてはいなかったが、
陣はまどかを初めて見た時から好きになっていた。
そのため、まどかと共に暮らしていくたびにどんどん好きになっていくものの、
家族として育っているため、告白したらその関係は崩壊してしまう。
そう思うと告白できず最近は葛藤の日々だった。




