月曜日術者母はたそがれてしまうのです
保育園の子供達の声はなごめる。
…はずなんだけどなぁ。
ウチの娘が泣き止まない。
そんな月曜日の朝。
いつものように送ってきただけなのに。
なのに泣く。
厳しい修行では滅多に泣くことはないのに。
おかげで胸が痛む。
無理してるんだろうか?
家業を仕込む自分に、母としてズキズキする。
21世紀もだいぶ経ち、術者は特別な存在じゃいられなくなった。
普通の常識や生活の中で暮らしていかなければならない、かつての貴族めいた特別な生き方ではいられないのです。
なので保育園に通うのです、母はお仕事です!
保育園は楽しいよ、普通の日常だよ?
いつもお友達と先生と楽しく遊んでると聞くんだけどなぁ。
迎えに来るよ?夕方だよ?
引き離されるわけじゃないのにね。
その言葉にチラッと過去が蘇る。
かつての自分を思い出す。
小さい頃のわたしもおばあちゃんとお別れする時は泣いてばかりだった。
おばあちゃん。
本当の祖母ではない乳母みたいに育ててくれた人。
どんな関係といったらややこしくなるんだけど、父の前妻の義理の叔母。
関係だけ考えるとややこしい上に、わたしのことなんてスゴク微妙な感じだったんじゃないだろうか?
でももう思いだせるのは優しかったこと。それと再会で喜び泣いてくれた顔と亡くなる前抜け殻になった顔の2つだけ。
引き離された原因は、わたしの修行に邪魔だからという理由だった。
当時一族は衰退しかけていた頃で、なにしろ第2時大戦後の術者の激減と国際交流という名の侵略でかつての権力もなく、少数が馬車馬のようにコトにあたっていたのだ。
特に前世紀末以降天変地異の封印と諸々の浄化は、術者の減少もあって引切り無しとなっていた。
そうしたことから身の回りにいる家族は少なくなり、子供の頃は術者修行も自己学習させられる程だった。
もっとも自己学習といっても禁忌を使わざるを得なくて、死者=かつての術者の残り魂に教えを請うというものだった。
おかげで失伝したはずの数々を得ちゃったりもしたんだけど、わたしの精神状態は絶妙なバランスで成長して何度も壊れかけ続けた。
今はもう救われたからいいけど。
とにかく10代前半から結婚するまで大忙し、今も程々には忙しい。
あと旦那が異世界経験者という常識外なおかげでだいぶ助かってます。
それにこの仕事も世の中のためになるならいいかなって思う。
世界がヤバイと自分達の暮らしもヤバクなるし、副収入にもなるというか大金過ぎる上に税金免除だから大助かり。ちなみに家を再起させたいとかいう気持ちはない。
それはそうと話を戻そう。
娘のこの泣きようがかつての自分と同じじゃなければいいなぁと思う。
当時の涙は、遠くないお別れの予感だったから。
わたし早く死ぬのかな?
なぁんてね、ないよね?
旦那がいれば大丈夫はなず。
彼は宿命の人、彼の戦いはまだまだ続く。それがわかってる自分がそう簡単にパートナーを終えることなんてない。
母は強しなのだよ。
それにわたしはもう乗り切った、かつてのイタイ…いっそ根暗系って言葉で始末したい凶暴な半生は反省して終わったんだから。
色々戦ってきた人生。といってもまだヤンママだよ、言い方は合ってる?
大なり小なり片付けてきたけど…最大の過ちはやはりおばあちゃんに対してだった。
人間としての過ちでもあった。
それは彼女を哀れみ、別れを悲しんで他者を恨み続けた自分。
腹違いの姉達がおばあちゃんが亡くなってから10年経ってようやくお墓参りに行くと聞いた時は、冷笑しか出なかった。育ててもらったくせに追い出した癖にねって。
…結局思うだけで生前のおばあちゃんに何もしなかったのだからわたしも同罪だったんだけどさ。
恨むだけの暗い10代だった。
過去はいつまでも残る。
でも忘れることはできる。
本当の意味で忘れることはできなくても、気にしないようにすることはできる。
今ではそう思える。
でも10代の頃のわたしはこじらせていた。
それが術者としての過ちになった。
強過ぎた想いが暴走したのだ。
そのせいで私は大切な思い出の存在を歪めてしまった。
多くの破壊を生み出した。
でもなんやかんやで助かったわたし。
たくさんいた血族ももうほとんどいない。
正統な血統はもうこの子のみ。
宿命は紡がれる。
ひどい親だって自覚はある。
でも強くならないといけない未来はきっと来る。
それまではちゃんと近くで守るから。
だから泣き止んで欲しい。
月曜の朝は忙しいんだけどなぁ。
子供のためにニコニコだぁい。
災厄浄化少しくらい待ってなさい、娘の方が大事なんだから。
久しぶりに書いてみたんですが、投稿方法だいぶかわってて戸惑う。
思い立ったが吉日で即興…1話ものだったので、ひとり語りな書き方をまとめ過ぎたかも?
読みづらかったかもしれません。
文の練習して又来ますので、機会がありましたら又よろしくお願いします。