一章 旅立ちの日に―2
清水の様子を調べに行ったウォーリーを見送ると、僕らは村長の家へまっすぐ向かった。
わきに樽をよけてドアの前に立つとコンコンとノックをする。
返事がない。仕方なくドアを開けて奥にいるであろう村長に向かって声を出す。
「ウォーリーから伝言があるんですけど、村長さんいらっしゃいますかー?」
「おー、分かった。ちょっと待ってくれ、すぐにそっちに行く」
少しの間ロブと談笑していると、コップを二つ持って村長が奥から出てきた。
「待たせたな。収穫祭が近いし、家の手伝いも大変だろう。とりあえずサイダーでも飲んでくれ」
渡されたサイダーをごくりと飲むと、酸味と炭酸の刺激が歩き疲れた体を癒してくれた。
飲み干してふぅ、と息をつくと村長が口を開く。
「それで、伝言ていうのは何だい?旅芸人でも来たのかい?」
いえ、それが……と事の顛末を話す。
「そうか。清水に関しては弟が帰ってきてからにして、……見張りはだれか適当に頼んでおくよ。伝えに来てくれてありがとう」
村長がそう言うと、僕らはサイダーのお礼を言って村長の家を出た。
家に向かう途中でロブと別れた。遊びたそうにしていたけど仕方がない。
井戸端会議をしていた母親に見つかって、耳を引っ張られながら帰っていったのだから。
家に着くと、母親がお疲れ様と声をかけてきた。
思ったよりも遅かったわね、昼食があるわよと言われたので樽を水桶の近くに置いて食卓に向かった。
腰に提げていたナイフで固焼きパンとチーズを一切れずつ切る。
パンを少し冷めたスープに浸し、柔らかくする。
浸している間に塩漬けのキャベツを甕からひとつかみ出してシャクシャクとかじる。
古漬けになってきているからだろうか、最近妙に酸味が強くなってきている。
柔らかくなってきたパンを一口かじると、スープを掬って飲む。
収穫祭前だからだろうか、具が少ないが文句は言うまい。
パンとスープを食べ終えると、チーズをかじりながら午後はどうしようかと考える。
とりあえずは昼寝をするとして……どうせまたお手伝いだろうか。
そうして食事を終えると、食器を片付けベッドへと向かった。
ベッドに寝そべり、羊毛の柔らかさに身を任せると途端にうとうととしてくる。
そして、僕は柔らかさに包まれてしばしの間眠りに入った。
一刻か二刻たったころ、僕は村中に響く大きな声で目を覚まさせられた。
「山で大変なことが起こっている!子供は家の中へ、大人は集会場へ!今すぐだ!」
何度も繰り返すこの声はウォーリーの声だ。
やはりあそこで何かあったのだろうか。
眠気の覚めるころにはきょうだいが家へと入ってきて、母親は戸の向こうから静かにしていなさいというと集会場のほうへ向かっていった。
少し不安がっている兄弟をなだめると、僕はまた眠りについた。
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