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テンプレ主人公は偉大だった!?(プロト版)  作者: トクシマ・ザ・スダーチ
テンプレ主人公になっちゃった!?
58/62

テンプレ主人公と三下キャラと言えば勝負

58話です。

 しかし魔術の訓練のために中庭に出たのだが結構いろいろイベントが起こったな。さすがに今日はちょっと疲れたぜ。


「さて、魔術も無事に体得できたし、俺たちも今日はもう寮に戻ってゆっくりしようか」

「それがいいよ。でもスレイといると本当に退屈しないよねぇ。あ、今晩はご飯食べる?」

「今日は食べようかな。麺類の気分だ」

「新メニューにちゅうかそば?っていうのが出てたよ。ちゅうかって何だろうね?」


 夕食をどうするかに花を咲かせて俺とニアは踵を返して男子寮へと歩を進める。


「待ちやがれぃ!」


 不意に帰宅ムード万歳だった俺たちの後ろから声がかかった。もう、今日はイベントお腹いっぱいなんですが!


 というわけで無視します。俺らに向けての言葉とは限らないし。ニアが振り向きそうになったが「しっ、見ちゃいけません」と俺はモブおかんめいたセリフでたしなめて足早にその場を去ろうとする。


「あ、ちょ、ま、待て!待て待てぃ!スレイ・ベルフォード!お前だ!待て!待ってって言ってるだろ!?」


 さっと逃げてしまおうと思っていたのだが、件の人物は魔術でも発動したのか猛スピードで俺の前に立ちはだかった。


 はい。この覚えのあるセリフの節々でにじみ出る残念な感じでお察しの方もいるだろう。俺の上顎を割ったギジー教官に食って掛かった三下貴族のアジー君です。


「なんで無視するの?俺が周囲からアホみたいに見られるじゃねーか!?」

「えっと、どちらさまでしたっけ?」

「アジーだよ!アジー・レッカー!お前の宿敵だよ!」


 知ってる、けど宿敵かどうかまでは知らないな。俺とこいつのちゃんとした面識は白兵戦の授業が最初だし、それ以前の話をされてもしょうがない。


「で、えーっとその宿敵さんが一体どのようなご用件で?」

「ふっ、知れたこと!宿敵同士がまみえたとなればやることは一つ!勝負だ!俺と勝負しろスレイ・ベルフォード!貴様を打ち負かして俺こそが時代の剣聖の座にふさわしいことを世に知らしめてやるのだ!」


 ……最後の最後ににぎやかなのが来ちゃったな。あれ、でもアジーの賑やかし、もとい取り巻き二人はどうしたんだろう?


「ねぇ、アジー君。いつものお二人さんはどうしたんだい?」

「む、ニア君か。いや、ヨイショは交際している彼女とデートに、サイファは実家通いなので帰ったのだ。商家の者でな、算盤の稽古があるらしい」


 白兵戦の時に仲良くなったのか、きわめて友好的に会話を始めるニアとアジー。というかあの口の悪い取り巻き彼女いたのか。で、小デブ君の方は典型的な成金キャラか。意外に三下役たちの背景がしっかりしてるな。


「ああ、それで一人なのか。……えっ、これからグループのリーダーが勝負に臨むって時に?お前の人望って……」


 思わず口に出てしまったその言葉にピクッと反応したアジーは幽鬼のようその体を揺らめかせる。怖い。今日俺はあと何回恐怖を感じればいいのだろう。


「お前は言ってはならないことを言った!」


 言うが早いかアジーは腰に二本帯びている訓練用の木剣のうち一本を引き抜く。そして俺の腰に得物がないことに気づいて渋い顔になる。


「……訓練用の木剣くらい下げておけよ。ほら、貸してやる」


 いきなり勝負を仕掛けてくる奴だが最低限の騎士道精神は持ち合わせているらしく、予備用であろうもう一本の木剣をこちらに投げてくる。


 俺はそれを視線で追って、そのまま眺め続けた。


 カラン、カラン…という木製ゆえの質素な音が妙にこだまする。それはなんだか物悲し気なものに聞こえた。


「いや、なんで受け取らねぇんだよ!?」

「え、いや俺は勝負するなんて一言も言ってないし」

「次期剣聖が剣の勝負を断ってどうする!?」

「え、俺、剣握るのやめたんだけど」

「えっ?」


 割とすごい剣幕でまくし立てていたアジーは俺の剣使うのやめました発言に呆けたような表情になる。


「そっ」


 やがて気を取り直したのか、それともそれに失敗してかアジーの口からくうきの抜けるような音が聞こえた。何か言いたかったんだろうか?


「そ?」

「そんな理屈通るかああああぁぁぁぁぁ!!」

「うおおおおおお!?」


 間の抜けた表情から一変して怒気をはらませた赤ら顔となったアジーが木剣を振りかぶって俺との距離を詰めてきた。え、何!?普通にやんわりお断りする予定だったんだけど!?


 俺はとっさに覚えたての魔力纏衣を発動させて両腕を硬化し、打ち据えられる木剣を十字に受けて防御する。


 って、結構痛い!?見ればアジーもうっすらとオーラのようなものを纏っている。まだまだ魔術の素人なのでわからんが魔力纏衣か魔力循環のいずれかを使っているのだろう。


「馬鹿、やめろ!痛ぇじゃねーか!」

「うるさい!剣聖クラウドに認められた男がやすやすとその剣を手放すだと?許されるかそんなこと!貴様から次期剣聖という名を奪うがためにこれまで俺が費やした時間を愚弄する気か!?」

「いや、知らねーし!大体剣聖クラウドって誰だよ!?」

「わが長兄の、剣聖の名まで忘れたかあああああああ!!」


 いや知らんがな!?剣聖クラウドってお前の兄貴かよ!?だからここまで剣聖の称号にこだわるのか。いや、こちらとしては迷惑極まりないが。


 記憶喪失の時期剣聖を倒して得る称号に如何ほどの価値ありや?と問うてみたいが今のこいつはどう見ても聞く耳を持っていない。


 袈裟、逆袈裟、さらには突きまで放ち始めるほどにアジーの苛烈な攻撃は勢いを増す。俺はといえば魔力纏衣をかけて身体硬化で亀のように防御に徹するばかりである。


 いや、だって攻撃の手段ないもの。すぐそばに彼が放った木剣が転がっているが全然使う気にならない。


 拾ったってこいつに勝てる気しないしなぁ。木剣を握ったら握ったで嬉々としてこいつは攻撃してくるだろうし。だったら魔力纏衣で耐え忍んで隙をついて魔力循環からのアッパーカットでも狙った方が勝算はあるだろう。


「アジー君!やめてあげてよ!」

「俺と戦え!スレイ・ベルフォード!その剣の耀きを俺に見せてみろ!」


 やはりニアの言葉は耳に入っていないらしく俺を攻める手を緩めないアジー。『スレイ』につけられた称号を奪うために腕を磨いてきたと自称するだけあってこいつの剣は疾く、正確で、隙が見当たらない。


 こいつの頭の中にすでに俺が記憶喪失であるという前提は忘れ去られているらしい。おかしいなぁ。こいつの目の前で教官にしばき倒されたはずなんすよ、俺。


 スレイの持ち前の身体能力と動体視力でどうにかアジーの剣閃に対応するが、度々防御を誤り手痛い一撃を受ける。というか木剣を受けている手も痛い。これカウンターする隙とかあるんですかね!?


 原作者に用意された三下キャラだったので油断したが、こいつは俺の見込み違いだったらしい。こいつ戦えるタイプの三下だったか!あるいは現在のスレイがへっぽこすぎるのかもしれない。もしかすると両方か。


 そんな現実逃避にも似た思考に入ってしまったのが運の尽きか防ぎ漏らした木剣が俺の顎を掠めた。途端に視界がぐらついて俺は膝をつく。その機を逃さずアジーは俺の前頭葉辺りを木剣でついてきた。おれはたまらず後ろに倒れこむ。


 それでもなおも攻撃を加えようとするアジーを脇から俺をかばうように出てきたニアに阻まれるのを視界の端に捕らえて、俺の意識は暗くなっていく。


 言っただろ?だから剣は嫌いなんだ……!


次は10月24日の0時投稿予定です。ブックマーク登録件数一件減って悲しい(´・ω・`)

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