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テンプレ主人公は偉大だった!?(プロト版)  作者: トクシマ・ザ・スダーチ
テンプレ主人公になっちゃった!?
56/62

トム・ポナー

56話です。

「本当に申し訳ありません!」


 日も暮れだした中庭、その若干中央辺りで魔力纏衣の練習をしていたのが彼の運のつきか、直剣をぶっ飛ばしてきた男子生徒はまばらながらも人目があるにもかかわらず見事な土下座を慣行していた。


「いや、無事だったからいいよ。もし腹に刺さってたらその直剣を俺の目の前で丸呑みしてもらうつもりだったけど、無事だったからいいよ」

「おお、なんて寛大な!……ん?今何て……」

「無事だったから許すよっていってるんですぅー」

「あ、ああ!寛大なお心遣い、どう申し上げたものでしょうか!……いや物騒なセリフが聞こえた気がして?」

「気のせいだろ。それよりもう顔を上げてくれよ」


 俺がにこやかに許すと言っているのに男子生徒が妙に納得いかないような声色混じりに土下座を続ける。そろそろ周囲の目が痛いし顔を上げてもらうとしよう。


 俺のセリフに顔を上げる男子生徒。顔は、なんというかフツメンだな。いや、フツメンって言ってもラノベの世界のフツメンだからね?それなりに美形よ?ある程度のトーク力があればクラスのカースト上位に食い込めるくらいにはイケメンだよ?


 スレイやその周りの人間の顔が完璧なだけで。俺の周りマジで平均値上げすぎ。三下キャラのアジーの取り巻きで小デブポジのサイファですらイケメンの輪郭あるからな。彼の痩せ顔が密かに気になる。アジーともう一人の取り巻きのヨイショも結構イケメン。


「私はトム・ポナーと申します。先日から授業を体調不良で欠席していたもので、その遅れを取り返すために訓練をしていたのですが、その、手からすっぽ抜けてしまいまして」

「俺もちょうど魔力纏衣の練習中だったのが不幸中の幸いだったな」


 そう考えると結構危なかったな。習得が今一歩遅れていたら、俺は腹に穴が空いてまたハイセのお世話になっていただろうし、このトムという男子生徒は後日俺の前で自前の直剣を踊り食いするところだったわけだ。いや、お互い無事でよかったね!(暗黒微笑)


「ほんと、奇跡のようなタイミングでこういうことに巻き込まれるよね。スレイって」

「お祓いに行った方がいいかな?」

「えー?ここだけの話だけど精霊教のお祓いはそんなに効果ないらしいよ?ハイセさんに頼んだ方が早くない?」


 ああ、精霊教は国教だもんな。お祓いに行くってなったら自然に精霊教の教会になるのか。というか効かないんですね?


「えっと、申し訳ありません。『スレイ』というお名前が聞こえたんですが、もしかしてあなたがスレイ・ベルフォードさんなのでしょうか?」


 ニアと軽くじゃれ合っているとトム・ポナーと名乗った中肉中背のフツメンが俺に問いかけてきた。


「あーそうね、俺がスレイ・ベルフォードだよ?君の知ってるスレイ・ベルフォードと一緒とは限らないけど」


 自分の記憶喪失を踏まえてこんなセリフになったが、なんだか意図せずにすごい中二病感が!?


「あ、記憶を失ったというお噂は本当なのですね?いや、以前お会いした時とは雰囲気が変わっておいでで、お恥ずかしい話ですがお名前を聞くまで気づきませんでした」


 俺の中二セリフに気がついた様子もなくトムは社交辞令じみた言葉を返してくる。


 こいつ、スレイの知り合いか?あれ、でもなんかこいつの名前聞いたことあるような……?


「ああ、以前君とは知り合いだったのかな?すまんが噂どおり記憶喪失でな?まぁ、ここはお相子としておきましょうや」

「そう言ってもらえるとありがたいです。私は2組だったのですが、スレイさんは?」

「え?俺も2組だけど君の顔は見てな、……そういえばさっき体調不良とか言ってたっけ」

「はい。入学式は大丈夫だったのですが、その後に環境の変化の影響からか寝込んでしまいまして。ようやく今朝起きれたので、午前は室内でトレーニングを、午後からはここで剣を振っていました!」


 いや、授業に出ろよ。なんかまた微妙に抜けてる奴が出てきたな。……思いだした。ポナーってスレイのメシマズエピソードの発祥の原因になった狩猟大会を開催した伯爵家じゃねーか!


 しかもこいつ、2組で同じクラスだと?つまりこいつが体調崩してなければあの上顎を割られた白兵戦の授業の時ももっとマシな結果に終わったんじゃ。まぁあれがなければハイセから一般知識を仕入れるタイミングが遠のいていただろうけど。


 あ、なんかちょっと腹立ってきた。こいつに悪気はないし俺の運が悪かったとも言えなくもないがどうやら意図せずにスレイに悪いものを吹き込むお邪魔キャラと見た。しかしこの行き場のない怒りの矛先はどうしてくれよう。


 いや、落ち着け。こいつはスレイと同い年。俺の方が年齢は上なんだから寛大な心で許してやろう。大人には大人の対応が求められるもんだしな!仏の顔も三度までともいうしな!


 今回の件と白兵戦の件でリーチなトム君。次もよっぽどじゃなければ許すけどその次はないよ?


「へぇ、2組なんだね。じゃあ僕と一緒だね!」

「えっと、スレイさん。こちらの方は?」


 なんだこいつ。ニアが話しかけてるのにどうしてこっちに話しかけてくるんだ?


 ニアは無視された気分になったのか困ったように頬をかく。なんだこれ、むかつくな。


「俺のルームメイトのニアだ。ちなみにさっきの剣がニアに向かってたなら俺は君が死ぬまで殴るのをやめなかったよ?」

「は、ははは。ご冗談を」

「え、冗談に聞こえた?」

「ごめんなさい、肝に銘じておきますぅ!」


 なんか癪に障るやつだな。トム・ポナー。この世界に来て初めて気分がささくれてる気がする。これは主人公の虫の知らせめいた勘かもしれないがこいつなんか嫌。


 そういえばジャックは俺に稼がせてもらってると言ってたか。てっきりスレイ親衛隊なる組織が懇意にして情報を集めてるもんだとタカをくくっていたがこれは認識を改める必要ありか。


 まぁ今まで評判の良かった貴族の子供が記憶喪失とかいうふってわいた災難で評判が落ち目なんだからここぞとばかりに足を引っ張るやつが出てきてもおかしくないしな。俺は挫けず自分を磨くだけだ。『スレイ』という輝きを取り戻すために。


 お、今のちょっと導かれてるっぽい言い回しじゃなかった?


「あれ、スレイじゃない。こんなところで何してんのよ?」


 冗談めいた思考で気持ちをクールダウンさせたところでもうすっかり聞きなれた声が俺に向けて発せられた。


「フィーネ。今帰りか?」

「ええ、そうよ。……ってどうしてここにトム・ポナーがいるのよ?」

「あ、そういえば私、用事を思い出しました!それでは皆様、お達者で!」


 突然のフィーネの登場にトム・ポナーはわかりやすく動揺してそのまま芸のない逃げ口上を口にして去っていった。……これは、黒ってことでいいんですかね?


「スレイ、あいつになんかされなかった?」

「腹に向かって剣をぶん投げられた」


 フィーネは何を言われたのか理解できなかったらしくキョトンとしていたが、やがてみるみる顔を険しくさせた。ちょ、怖い怖い。


「記憶喪失で剣の心得まで失っているスレイに向かって……?ぶっ飛ばす」

「まぁ待てよフィーネ」


数刻前まで熱の精霊がしていた表情をそっくり真似たような顔になったフィーネの肩をとっさに正面から抑えて引き留める。あぶねぇ。さっきのイアレットの威圧を体感してなかったら間に合わないところだった!


「離しなさいよスレイ。あんたあいつがやったことを忘れてるからそんな態度をとってるんでしょ?」

「いや、俺もあいつなんか嫌な感じするなーとは思ってた」

「じゃあなんでよ?どきなさいよ。あいつ殺せないじゃない」


 過去にスレイとフィーネに何をしたのか知らないがトム・ポナーは相当な恨みを買っているらしい。今まで見た中で一番殺意をみなぎらせたフィーネを見ていると本当に何をやらかしたのか……。


「落ち着けって。俺はこうしてピンピンしてるし今のところ問題ないよ。それにさっきのは傍から見れば普通に事故だしな」

「でも!」

「ま、そのうちこの落とし前はつけてやるさ」


 一旦落ち着けというのにそれでも食い下がってくるフィーネにそんな強気で物騒なセリフを吐いてみる。するとそんな俺の態度に気勢を削がれたのかフィーネは不満顔だが引き下がってくれた。


 こんな下らんことで流血沙汰で会長からおしかりを受けるのも面白くないしな。ああ、そういや会長にしばらく会ってないな。機会を見つけて会いに行くか。紹介状のお礼まだだし。


「そんなことよりちょうどいいところに来たなフィーネ!今、俺ってば魔術の稽古してたところなのよ。フィーネは魔力循環が得意って前々から聞いててな?だからちょっとコツみたいなのを教えてくれませんかね?」


 おどけ混じりにそう言うと、そんな俺の態度にフィーネはちょっと長めのため息を吐くのだった。


この話を書いている間にさらにブックマーク登録件数が一件増えました!多大なる感謝を!

次は23日の午前5時辺りにしときましょうかねw

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