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テンプレ主人公は偉大だった!?(プロト版)  作者: トクシマ・ザ・スダーチ
テンプレ主人公になっちゃった!?
52/62

精霊対話

52話です。

 楽しい楽しい休日も終わってその翌日の一葉日、本日も快晴です。


 以前にちょろっとジャックが話してたがこの世界の一週間は5日。それぞれ一葉日、二葉日…五葉日となっている。5日で1ループである。日本でいう日曜日が五葉日にあたって、その翌日が一葉日である今日というわけである。


 いやぁ、それにしても太陽が眩しいね!もう夕暮れ時で傾いてるけど全然あったかいわー。春らしいぽかぽか陽気だわー。


 という現実逃避は程ほどにしておこうか。


「で、そろそろ私のことを一週間も放っておいた件について納得のいく説明をしていただきたいのですが」


 土下座する俺の目の前には長く腰にまで伸びた白銀の髪が特徴的な、淑やかさを感じさせる幼い顔立ちと背丈、白いワンピースを着ている儚げな雰囲気の少女が仁王立ちして見下ろしていた。


 覚えておいでだろうか。俺、いや『スレイ』の精霊の熱の精霊さんです。ご覧の通り大変ご立腹でございます。


 事の始まりは本日の午後の授業のこと。医務室でハイセからの個人レッスンで一般知識をちょろっと手に入れた俺は何とか授業についていけるようになったわけだが、そんな折、精霊学実習なる授業が行われた。


 初回である今回はどういった授業をするのか、そのためにしなければならない準備は何か、そしてその授業の基礎中の基礎という内容で締めくくられたわけだが、次回からは手持ちの精霊を用いた実習があるそうなのだ。


 これはいい機会だと思い、早速寮に戻って対話を試みたわけだが、まぁ案の定、熱の精霊さんキレてた。そうだよなぁ。臭いで気絶させられたかと思ったらその謝罪も説明もなく一週間放置されてたんだもんなぁ。怒るよなぁ。


 というわけで俺がとれる行動は平謝り一択なのである。いや、やらなきゃなー、とは思ってたんだけど一日学園生活を送って疲れると帰ったらすぐ寝ちゃうんだよね。おかげでここのところ晩飯と朝飯が兼任みたいな感じで一日二食の生活送ってるんだよな。


 それはおいといて。


「本当にすみませんでした」

「いえ、謝罪ではなく、なぜ、どうして魂の臭いを克服したのにもかかわらず私を放置していたのかについて説明をしていただきたいのですが」

「いや、その、タイミングがなくて、ですね?」

「なるほど、タイミングですか。そーですか。それで一週間放置されたと。私を。スレイ様が5歳の時から契約精霊としてお仕えさせていただいているこの私を!」


 熱の精霊は粛々と俺に問い詰めて攻めていくスタイルをやめて内に眠る怒りをあらわにする。これダメだわ。すっごい怒ってる。鈴なりのする声で「ふんぬー!」とか言ってる。


「まぁまぁ、スレイにもいろいろあったんだよ。こう、病院行ったり、流血したり、…流血したり」


 俺といっしょに寮に帰ってきていたニアが微妙なフォローをしてくれる。


「なんですか流血って!大体この人は誰なのです!ここが学生寮の中の部屋なのはなんとなく察しがつきますですがそれ以外なんにもわかりませんです!スレイ様の性格も魔力の味も魔力の臭いも、もう別人みたいに変わってるですし!というか精霊が気絶するほど臭い魔力って一体何なんです!?一体この一週間で何があったですか?説明を求むのです!」

「あー、それな」


 うーむ、この熱の精霊もフィーネと同じく『スレイ』の信奉者みたいな感じなのかしら。説明は今後のためにするしかないし、俺としてはできれば友好的な関係を築いていきたいんだけどどうだろうなぁ。


 早口で混乱の極みにある熱の精霊に俺はニアと一緒に記憶喪失の話、魂の臭いが変わってしまった話、ニアと知り合った話など今日までのことを説明する。


「な、な、な、なんてこったなのです。スレイ様の臭いが気絶するほど臭いものになったのは身をもって体験したですがまさか記憶まで失っているなんて、嘘、なのです…」


 一通りの説明をうけた熱の精霊は口をパクパクさせてその次の言葉を紡げない。


 まぁ俺も近しい人間、例えば祐司がいきなり記憶喪失になったりしたら多分こんな感じになるだろうしな。仕方ないことですよ。


「じゃ、じゃあ炭みたいな料理を私に振る舞って精霊石に強制送還させたあの日のことは!? 5年前の契約記念日にプレゼントしてくれたこの花の髪飾りのことは!?最初に出会ったときに大きくなったらお嫁さんにしてくれるって約束はどうなったですか!?」

「あ、ごめん。全然全部覚えてないわ」

「うなあああ!」


 だって君のことはアニメ一話分の知識しかないもん。ほとんどセリフなかったからキャラも知らなかったし。というかスレイさんってばやっぱり精霊にもきっちりフラグ立ててたんですね。容赦ないわー。主人公特有のヒロインキラーな属性怖いわー。あとスレイはもう料理すんな。


 綺麗な白銀の髪をもしゃもしゃかきむしって唸る熱の精霊はとても哀れに見えた。あ、件の花の髪飾り落ちた。髪飾りのサイズは親指サイズで小さく、彼女の髪色に似たような色をしていたので一目見ただけでは気づきそうにないものだった。


「なぁニア、精霊と人って結婚できるの?」

「法的には問題ないよ。いろいろ問題があるみたいだから結婚するならそれなりの覚悟がいるって聞いたことがあるけど」

「…興味本位で聞くけど問題って何?」

「まず、精霊が顕現するには契約者の魔力が必要になるのは知ってるよね。だから魔力が続く限りでしかお互いに触れあえない。そして精霊は精霊石にいる間、つまり顕現していない間に外の様子が知れない。だから浮気とか心配して気分がささくれる。そして精霊と人間の間に子供ができない。ざっと挙げるとこんな感じかなぁ」

「大体予想の範疇だけど、どうなのソレ」

「精霊教っていう大きな宗教が推奨してるからねぇ。国がそれに反対しちゃうといらない争いに発展しちゃうから法改正とかはないと思うよ。推奨とはいえ強制じゃないから国も静観の構えなんじゃないかな」


 数百年にわたって魔獣が人類圏を脅かしているってのに、人口が減るかもしれない方策をとるポーズをせざるを得ないほどその精霊教とやらは大きな組織なのか。…関わらないようにしよう。テンプレラノベものの宗教系は大体ダメだからな。いい関係結べるのは極稀。


「しかし、なんだってそんな悪く言えば非生産的なことをその精霊教とやらは推すんだ?人類の総人口が減るのはあんまりよくないと思うんだけど」

「なんでも神子の誕生が彼らにとって悲願らしいよ。その、精霊と人とで子作りに似たようなことはできるらしいんだけど、今まで子が産まれたことがないから。だからもし生まれたらそれは神子として奉られるんだそうだよ」

「なるほどなぁ。やっぱり宗教ってあんまり理解できないわ」


 何の気なしにそんな感想をぽつりと漏らした俺にニアが神妙な顔をして俺を見る。


「スレイ、僕は精霊教徒じゃないからいいけど一応国教だからね?外でそんな発言を聞かれたら追い回されちゃうかもしれないから気をつけてね?」

「宗教やっぱ怖ぇ!」


 ほら、もう絶対その宗教ヤバいフラグじゃんよ。絶対原作のスレイは精霊教にいらんことされて四苦八苦してるよ。ましてや今の俺なんて消臭の精霊のリッキーの加護が切れたら精霊を害する臭いを散布するちょっとしたバイオ兵器だぜ?絶対粛清対象だよ。


「あ、そうだ。せっかくだしリッキーも召喚しちゃおう。あいつも契約してから全然出してないし。『きたれ。我が同胞。呼び出しに応えよ』」


 ポケットから消臭の精霊の白い精霊石を取り出して、すっかりお馴染みの詠唱を唱えるとポンッという軽い効果音と共に白いスカンクが姿を現した。俺の周囲の精霊たちの救世主、リッキー君である。


「おう、久しぶりだねスレイ。今日はどうした?なんかの臭い消しかい?任せてくれよ!」


 熱の精霊と違って放置していたのに陽気にやる気を見せる白スカンク。相変わらず消臭の精霊なのにどうしてこの形態をとってしまったのか疑問が残るがしっかり仕事してくれているので問題ない。


「いや、そういえば契約してから全然話してないな、と思ってね。いい機会だから召喚させてもらった。リッキーは臭い消し以外はどんな特技があるんだ?」

「なるほどね。そうだな、僕はずうっと倉庫に置かれてたから結構目利きに自信があるよ。古いツボとか剣の善し悪しがわかるのさ!すこいでしょ」


 そう言ってリッキーがピスピスと小さい鼻を鳴らす。何この小動物癒される。小動物が人の言葉を喋るってのにちょこちょこと愛らしい態度をとるのがすっごいいいです。


「ふおおお!かっ、かわいいっ!何この子!」


 予想外に大きく反応したのは熱の精霊だった。リッキーに飛びついたかと思うと脇を抱えて掲げている。熱の精霊に掴まれた白スカンクは柔らかそうにうねうねともがく。ずるい。俺も後で撫でさせてもらおう。


「うわわ、なんだ君は!やるのか!かかってこい!数百年ぶりの喧嘩だけどタダでは負けてあげないよ!」


 リッキーが短い前足を熱の精霊に向けてしゅっしゅっとか言いながら前後に突き出している。


「かわいいいいいいいいいいっ!」

「その精霊はさっき話した消臭の精霊のリッキー君だ。彼のおかげで俺たちはこうして何事もなく向き合えている。いなかったら入学式と同じように君は気絶してるところだ」


 そう考えるとリッキーはマジでいい仕事してるよなぁ。精霊石の持続効果で俺から漏れ出る精霊にとっての悪臭はさっぱり抑えられてるし。


「君が消臭の精霊!?ありがとう!君のおかげで私はもう一度陽の目を見れたです!」


 もう夕暮れだけどな。そんなことも気にせずに熱の精霊は精一杯の親愛の証なのかリッキーをわちゃわちゃと撫でまわす。


「くうううおおおおお、はなせええええ!」


 しかし当のリッキーは攻撃されていると勘違いして熱の精霊のホールドから逃げようと必死にあがいている。


「…なんだかスレイの精霊ってにぎやかだね」

「俺も今日、初めて知った」


 まぁ、熱の精霊の機嫌が直ったなら上々じゃないですかね。ナイスだリッキー!



明日10月20日も0時投稿予定です!

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