学園都市探索②
47話です。ちょっと長めです。
「この串焼きうまいな。鶏もも肉に絶妙に合う甘辛なたれの中に時折ピリッと辛いスパイス効いてて素晴らしい。さっきの屋台当たりだわ」
適当に探索する、と意気込んだはいいもののさて何をするかと考えた結果、前の世界でそんなときにやっていたように食べ歩きをすることに決まった。
「食べ歩きしない?」なんて言った後で貴族が食べ歩きとかするんだろうかと思い直すグダグダっぷりを発揮して内心焦ったが学園の貴族も普通に食べ歩きしているらしい。今までなんとかなってるけど成長しねぇな俺!?もっと慎重に行こうぜ…。
ま、終わったことは置いといて探索だ。とりあえず今のところ目ぼしい店舗は見つからず、そこかしこに出ている屋台を冷やかしながら回っている状態だ。串焼きの他にもたこ焼きや、フライドポテトなどの定番屋台も見受けられた。
これは稀代の天才科学者さん日本人説がより濃くなってきたのではないだろうか?俺が言うのもなんだけど自重しなさすぎだろ。既得権益的な方面でトラブルに巻き込まれないんだろうか?
いや、これだけ好き放題やっているのだ。既に国の上層部が完全に囲い込んでると考えるのが自然か。もし、そうだとしたらちょっと会える気がしないんだが。もう俺の中で稀代の天才科学者さんは日本人ではないかという疑いが確信になりつつある。
「ほんとだ。おいしいね、弟君!マイシャちゃんにも食べさせてあげたいなぁ」
「あー、そうだなぁ。妹ちゃんに今度持って行ってあげようかね」
「そうだね。きっと喜んでくれるよ!」
串焼き談議に花を咲かせる俺とネーシャの後ろを見やると、一パックのたこ焼きを二人でつつきあっているニアとフィーネがいた。
「…何よスレイ。このたこ焼きはあげないわよ?前来たときはなかったから新商品なのよ?これ。あ、ネーシャさんの分は残しますので心配しないでください」
汽車の中でからかったことを根に持っているのかフィーネが意味のない意地悪をしてくる。なんでや、あれはお前の自爆だっただろ。俺にもたこ焼きくれよ。
「一団体に一パックしか売ってくれなかったもんね。中央にはこんなおいしいものがあるんだね!でもこの中に入っているタコってどんな食べ物なんだろうね?」
「それ、あたしも気になってるのよ。癖になる食感でおいしいんだけどなんなのかよくわからないのよね。多分、何かの動物の肉だと思うんだけど」
どうやらニアもフィーネもタコの正体は知らないらしい。この辺に海はないのだろうか?それにしては日替わり丼がマグロ丼だったりするが。となるとここでも稀代の天才さんの日本人的なこだわりが影響していると考えるのが妥当か?
しかし二人とも、タコの正体を知ったら卒倒するんじゃないだろうか。軟体生物って見慣れてないとすごい恐怖感あると思うの。なめくじとか不意に遭遇するとビクッてしちゃうわ。
そんなことを考えながらしばらく歩を進めていると、気になる看板を出している店があった。
【鍛冶屋ゴルゴロッソの店~鍋など金属道具の修理始めました~】
古びた看板にはそう書いてあった。もちろん異世界文字で。
しかし鍋の修理か。こう、ファンタジー小説の鍛冶って言えば武器づくりのイメージだがこの看板を見るに妙に生活感があってちょっと面白いな。
入ってみようか。もう剣は握るつもりは毛頭ないが、やはり男の子としては武具には逆らえない魅力を感じる。間違いなくデート中に入る店ではないと思うが、まぁ今は厳密には違うはずだし。何より重要なのは俺のためになる情報収集だからな。
「みんな、ここにちょっと寄ってみないか?」
「鍛冶屋かぁ。そういえば僕も兄さんのお古のダガーを何本かしか持ってなかったから何か新しい武器が見たいと思ってたんだ」
「あたしももうちょっと重い直剣が欲しかったところよ。スレイにしてはいいチョイスね」
「お姉ちゃんは後方支援担当だけど、弟君が入りたいならいいよー。あ、弟君に似あいそうな軽鎧選んであげよっか?ふふ、我ながらグッドアイディアだね!」
……予想外に鍛冶屋が好感度スポットなんですがそれは。いや、確かに俺たちは軍学校の生徒だけど休日まで女子が武具に気を回すレベルで教育されてるってのはいろいろどうなの?
ま、まぁいいか。どうもバッチリ好印象らしいし、好感度が上がること自体はいいことだ。うん。とりあえず入ってみよう。話はそれからだ。
「それじゃ、入るぜ」
看板同様古ぼけた感じの扉を開けると内装は予想より奥行きがあって広い感じがする。会計のために設置されているせあろうカウンターの奥の方に炉がちらっとみえるのでそこで鍛冶をするのだろう。
そして肝心の店側の内装だが、なんというか割と圧巻である。人が通れる隙間はあるもののそこかしこに武器や防具がひしめき合っている。一つ何かを手に取るとすべて崩れそうな予感すらするレベルである。
「おう、いらっしゃい。今日はどういったご用件ですかい?」
カウンターの下で何か作業でもしていたのか、突然ひょっこりと顔を出した店主であろう人物に若干驚いてしまった。彼は服の上からでもパンプアップされているのがわかるがたいの持ち主で無精ひげを生やしたおっさんだった。
「なんでぇ、今日はいつになく華やいでやがんなぁ。坊主、全員お前のコレかぁ?」
などと言いながら、その発言で気のよさそうなのがひしひしと伝わってくるおっさんがやたらと太い小指を立てて俺に向けて言ってくる。
「ちょ、ああああたしはそんなんじゃないわよ!?スレイのことなんて全然、うん、好きじゃない、こともないんだからね!?」
「やや、やだな。僕は男、だよ?まいったな、はは。男の僕がスレイを好きなわけ…ね?」
「お姉ちゃんはいつでもウェルカムだよ、弟君!」
さっきまで店独特の割と厳かな雰囲気なのにすっかりカオスになってしまった。おっさんの野次一つでここまで色めき立つとは…。ほらみろ、当のおっさんが一番狼狽えた表情してるよ。
「ええと、坊主。本当にどんな関係なの?おっさんほんの冗談のつもりだったけど気になっちまった」
「幼馴染と、ルームメイトと、ねーちゃんだ。ねーちゃんとはいつも抱き合う位には好感度高い」
「お前何なの?本当に何なの?どうしてそんなんなっちゃってんの?」
「俺ってば導かれてるだろ?」
俺の返答にさらに困惑顔になってしまったおっさんは、店内を姦しくしている三人をしばらく見つめた後、こちらに視線を戻した。
「で、坊主。今日は何をお買い求めですかい?」
どうやら考えるのをやめたらしい。うん。俺も最近自分がどんなポジションにいるのかわからなくなってきてるからそれが正しいよ。おっさん。
「気になったから寄らせてもらったんだけど、ここは主にどんなことをやってる店なの?表の看板には鍋とかも修理するって書いてたけど」
「おう、うちは表の看板どおり鍛冶をやらせてもらっている。武器や防具を作り、鍋なんかの金属製の日用品の修理をやっている。あとは少ないが精霊武具も扱っているぜ。精霊付与もやってる。まぁ割と手広くやらせてもらってる。この辺じゃ鍛冶師ゴルゴロッソっつったらそこそこ有名なんだぜ?」
なんかいろいろできるらしい。しかしまた気になる単語が出てきたな。精霊武具?精霊付与?
「そいつはすげぇ店に導かれたもんだ。ところで精霊武具とか精霊付与ってのはなんなのかちょっと教えてくんない?」
「あぁん?お前さん、見たところゼル学の生徒だろ?そんなもん知ってて当然の知識じゃねぇのか?」
「まぁ、復習がてらって感じだな。ほら、知ってる知識でも専門家と一般人じゃ結構ズレてるもんだろ?せっかくだし現職の鍛冶師の見解を聞かせてもらいたいじゃん?」
「はー、お前さんは休日だってのに勤勉だな」
「休日に働いてるおっさんほどじゃないよ」
「ぬかせ。その分毎日早めに店を閉めてんだよ。この学園都市に散らばる店は全部そうだろ」
おっさんはぶっきらぼうに答えるがその口元には笑みがあった。俺の口角も同じように上がっているのだろう。こういう店屋のおっさんとのテンプレなやりとりは俺、好きよ。
「精霊武具ってのは精霊が使う武具のことだ。顕現させている間は術者が精霊の力を大きく引き出して戦うことができるのは当然の話だな。その顕現させている間、精霊も一緒に武器を持って加勢に回ってくれりゃ戦闘も楽になるだろう、って考えで作られたのが精霊武具だ。精霊に装備させて送還すると一緒に精霊武具も送還される。逆に召喚するときは精霊と一緒に精霊武具ももちろん召喚される。テメェの武具が破損したり、弾き飛ばされたりしたり、いざという時は精霊から借り受けて使える保険武具にも使える。最前線の連中はこぞって買いに来るから常に品薄だ。学生で持ってるやつはほとんどいないはずだぜ」
ああ、精霊を顕現させて行使するのってそんな効果あったのか。いや、リッキーの消臭効果とか顕現させなくても効いてるみたいだからあんまり顕現させる意味はないのかと思ってたわ。
考えてみれば会長もネーシャも精霊顕現させて力を行使してたしな。出してない間はかなり能力が制限されるとみていいだろう。そうでないなら顕現させる意味は薄いしなぁ。
ん?ということはリッキー君の消臭効果って意外にかなり強い部類なのでは?というか俺はそろそろ精霊とコミュニケーションとらないとまずいな。特に熱の精霊。悪臭で気絶させた後一切交流なかったからな。最悪殴られるまである。
しかし精霊武具か。なるほど、確かに聞いていると前線で奮闘するなら、その装備があるかないかで死線を分ける時があるのかもしれない。
というかそれは戦闘ド素人の俺にこそ必要なものなのでは?これから先嫌でも魔獣との戦闘はあるだろうし。これは是非お買い求めしないと!
「それ、おいくらぐらいするのかお聞きしても?」
「そうだな、今ある一番安いので小手、具足、軽鎧、小剣の一式セットで10000ゼルだ。一番いいのなら34000ゼルになるな」
えーっと、リンゴ一個が1ゼルだったな。仮にリンゴを日本円で100円と仮定するならば…ひゃくまんえん?
「たっか!?」
「いやそうでもねえよ?戦場で命が拾える可能性が上がるんだ。これくらいの値が妥当さ。終わるはずだった寿命を先払いで買って引き延ばすと考えればむしろ安いもんじゃないか?実際飛ぶように売れてるぞ」
おっさんに嘘を言っているような気配はなく、後ろを振り向くとさっきまできゃいきゃい言ってた面々がいつの間にかこちらの話を聞いていたらしく、雁首そろえてうんうんと頷いている。精霊武具、高ぇ!
「そ、そっか。いや、聞いてみただけだ。うん。今は、持ち合わせがない」
「はっはっは。まぁその辺の学生がおいそれと手を出せる代物ではねーな。おっさんの自慢の一品であるからしてな!」
おっさんは快活に笑う。惜しいが購入は見送らざるを得ないだろう。スレイの実家に泣きついてもいいが、それは一度弱い魔獣と一当たりしてからでも遅くないだろ。というかそれはさすがにプライド捨てすぎ感あるわ。
「じゃあ次は精霊付与について教えてくれ」
「よしきた。まぁ厳密には違うが大体精霊武具の逆の技術だな。その精霊が持つ力を武具や道具に与えるのが精霊付与だ。精霊と契約すると精霊石から小さな恩恵がもらえるだろ?あの力を回数限定で付与する技術が精霊付与だ。こっちの技術は市井でよく使われてるな。例えば屋台の鉄板に火の精霊付与を施しておけば数回火を起こさなくても鉄板を熱せられる」
「ほほう、なかなか応用がきいて楽しそうな技術だな」
「だろ?おっさんもなんか売れそうな組み合わせはないもんかと日夜研究してるんだ。何か思いついたらいつでも教えてくれ」
「もし俺の持ち込んだアイディアが売れたときは今度買い物するときに安くしてくれよ?」
「ちゃっかりした坊主だ。いいぜ。売れたらな」
そんな風におっさんと小気味よいやり取りをしていたらニアとフィーネの武器が決まったらしく、おっさんに会計を求めに来た。
ニアが選んだダガーは鞘に入っており刀身は見えないがいかにも新品といった感じで傷一つないものだった。まぁ売り物だしね。
対してフィーネの直剣は抜身で剣身は薄く赤みを帯びている。一体どんな金属を使っているのだろう。そういやじゃがいも頭が使ってた細剣も青みを帯びていたな。
「こっちのダガーは180ゼル。こっちのルビズス鉱石製の直剣は2480ゼルだ。手持ちがないなら取り置きしとくぜ」
「あ、僕は買います。いや、この品質でこの値段ならかなり掘り出し物だよ」
「あたしは取り置きで。さすがにちょっと今は手が出ないわ。でもすごくいい造りだからできれば欲しいなぁ」
「そう言ってもらえると嬉しいが、こっちも商売でな。すまんな嬢ちゃん」
ニアはほくほく顔でダガーを購入し、フィーネはしぶしぶ直剣を一旦あきらめた。意外に金持ってるな、ニア。
そのあとネーシャが俺にどの軽鎧がいいか選び始め、それにニアとフィーネが混ざり、スレイのファッションショーとなった。
なんか締まらない最後だったが買い物はやっぱり楽しいな!
明日10月15日も0時頃投稿予定です。(とうとう投稿時間をあやふやにし始めるクズ)