学園都市探索①
46話目です。
「ってことが今朝あったんだよ」
「…僕が寝ている間にそんなすっごい事件があったんだね」
早朝に足を剣で斬ったけど治った話をニアにすると驚いたような、呆れたような表情をした。
どうもこんにちは。スレイです。今朝はあんなことがありましたが今はとってもハッピーな気分です。
現時刻は昼となり、修練所を後にした俺はシャワーで汗を流し、かねてからの約束通りにネーシャとフィーネ、そしてニアと件の学園都市とやらにむけて出発した。今は学園都市内行きの汽車に乗って彼の地を目指している最中である。
目の前にはキュートにお洒落したネーシャとフィーネ、隣にはボーイッシュな装いの誰がどう見ても美少年なニアがいる。ネーシャは白を基調とした花柄が所々にあしらわれたワンピース、フィーネは赤いTシャツにチェック柄のスカートを着用していた。眩しいね!
対してニアはハンチング帽にYシャツ、オーバーオールといった色気などどこにもない、悪く言えば野暮ったい服装をしていた。これは大概の男子が着用しているらしく性別を欺くには適した格好なのだそうだ。
しかし、あの服の中身がニアという一人の少女だという事実を知っていると話が変わりますな!あの野暮ったい服という薄い壁の下には柔らかそうな肢体が収まっているのだ。色気のない服装が余計に俺の妄想力を掻き立てるぜ!
俺?俺は無地の黒のTシャツにジーパンよ。スレイってば服装に無頓着だったのかこのセットを3組ケースに入れてやがった。もっと色々服あるだろ!でもイケメンが着るからさほど問題ないっていうね。もうほんとイケメンって反則。
「スレイは毎日事件を起こすよねぇ。僕、いろいろ心配だよ。……いつか盛大に巻き込まれそうで」
おっと、心の中でセクハラしてたら思わぬ毒を吐かれたぜ。ニアにはもっとこう、がっつり甘えさせてくれるような母性を醸し出すことを常に心がけていただきたいですね!
「今朝のは全員の不注意が招いた不幸な事件という話で落ち着いたけど、今のスレイは危なっかしすぎね。あたしなんて、顔を見てないときでもハラハラしてるわよ」
「それは顔を合わせてないときでも俺のことを考えてくれてるってことでいいの?」
「ば、そういうのじゃない!わけでもないわ!んもう、記憶を失った後のスレイってなんかやりづらいわ!」
フィーネが勝手に自爆して理不尽な怒りを視線に乗せて俺を睨んでくる。可愛いけど素の身体スペックで暴れるスレイを押さえつける技術があるから油断できない。俺も魔術を習得すれば今よりはマシになるのだろうか。
「あんまり心配はさせないでね?弟君。記憶をなくしてからの弟君は妙にエネルギッシュなのはいいんだけど、もう少し周りを見て気を付けた方がいいと思うの」
「あー、善処するよ」
そう言われてもなぁ、この主人公体質がトラブルを呼び寄せるというか。昨日の白兵戦なんて完全にタイミングが悪かっただけだしな。気を付けて回避できるものではなかった。
でも、この先そういのばっかり起こるだろうからネーシャの言うとおりなるべく気を付けよう。
そんな会話をしているうちに、汽車はいよいよ学園都市へと到着した。
☆☆☆
「おー……!?ここが学園都市か。なんか、こう、いい雰囲気だな!」
学園都市駅を出るとそこに広がっていた風景はレンガ造りで煙突のある家々が石畳の地面の上に等間隔に立ち並ぶ風景だった。中世とかヨーロッパとかいう言葉が躍りそうになる街である。ひょっとしたら今までで一番異世界らしい風景だったかもしれない。
まぁゼルヴィアス学園や王国病院みたいな実質ホテルレベルの建造物がそう何個もあってはたまらないけどな。会長のパパが金にものを言わせて最新技術で作り上げたのだろう。
だが視界を少し上に見やればうず高い建造物もちらほら見かける。……ヨーロッパな石畳の街並みにビルが建っているというのは前の世界で培った感性的にかなりカオスに感じるな。
多分、きっと、おそらくいるかもしれない地球から来た異世界人が仮に本当にいるのだとすれば、稀代の天才科学者と呼ばれている奴がもたらしている技術での改革はこの国ではまだ途上ということなのだろう。
学園に関しては退役軍人の理事長が作ったものなのだから歴史あるものでもないのだろう。理事長は存命なのだから創立日はまだまだ最近のハズ。そして最近作られた学園だというのならば最新の設備が整っているという仮説も立つな。
それにしたって色々技術発展させすぎだろ……。どんだけ知識量あるんだ?俺もできれば知識チートを主に使う軍師的な非戦闘員ポジションが良かったなぁ。
「ま、あんたが期待してた学園都市ってのはこんなもんよ。都市の主要部分なんかは最新の技術が惜しみなく使われてるけど学園にいればそんなのどこでも見られるし体験できるのよね。あたしは学園を初めて見た時が一番驚いたわよ」
フィーネが苦笑交じりに言う。学園の方が学園都市より未来っぽいってのはなんだかやるせない気持ちになるな。
「でも、お店の品ぞろえやサービスなんかは王都並みのものが揃ってるよ!この服も学園都市で買ったんだよ。似合うでしょ?」
「超似合うぜねーちゃん!今日は一段とプリティな出で立ちで俺ってば超テンション上がってるわ!」
「弟君!」
「ねーちゃん!」
まぁ、新技術が出てきたら商売人としてはその技術は真似るよなぁ。軍学校の生徒用に作られた都市なんだし最新の技術に触れておかないと配属後の作戦行動時に齟齬が発生するかもしれないし。
がしっといつものようにネーシャとハグを交わしながらそんなことを考える。いや、服飾に関しては蛇足感あるが。でも、生徒のモチベーションの維持を考えるとやはり的確な判断なのか。……俺の考えることじゃないな!
「ところでスレイ、今日はどんな予定で学園都市をまわるの?」
「ん?いや、ぶっちゃけこうして連れ出してきちゃったけど学園都市見るのも今日が初めてでさ。なので本日は街を練り歩き、そして気になった店に入ってみる、そういうプランでいかせてもらおうと思う」
「要するにノープランなんだね?」
「そうとも言う。あ、でも眼鏡屋は確定で行くから」
「ブレないね……スレイ」
ニアがジト目でこちらを見てくるが気にしない。もともとその予定だったわけだしな!一番の目的を忘れるわけにはいかんぜよ。
「あたしの魅力を引き上げるメガネを選ぶのよね?」
「私には道行く人々をメロメロにさせるようなメガネを選んでくれるんだよね?」
「あ、それ僕も言われ…てない!うん、男子をメロメロにするメガネじゃないのを選んでくれるんだったね!」
フィーネとネーシャの言葉に初対面の時の俺のセリフを思い出して墓穴を掘りかけたニアが慌てて自分の失言をフォローする。さっきニアに心配されたところだが、俺も今のニアを見てとっても心配になりました。ふふ、俺らってなんか似てるね?
幸いにもニアの妙な発言にフィーネとネーシャは顔を見合わせるだけの動きにとどまっている。だがこのままでは今の発言の意図を言及される恐れがある。そうなるとニアの性別がピンチだ。というわけでフォロー入りまーす。
「ま、メガネに関してはこの俺にどーんとまっかせなさい!その辺のモブでもメインヒロインに仕立て上げて差し上げるぜ?」
生まれてから一度も使ったことのないウィンクを添えて二人の意識を逸らすように大言壮語めいたセリフを吐く。
「ふふ。弟君、気合入ってるね!」
「ま、そこまで言うなら期待してあげるわ」
「た、頼んだよ!スレイ」
「よしっ!それじゃあテンション上げて、いざ学園都市!」
目論見はうまくいったらしく、俺の態度にくすくす笑いながらついて来る二人。
「あの、スレイ」
そんな俺の背に追いついてきたニアが小声で俺を呼ぶ。
「ありがとね」
やはり小さな声で、しかしはっきりとそう言うとニアはフィーネとネーシャの会話に入っていった。
やっぱ男装女子とかいうジャンルはいいもんだな!
投稿予約ミスっていた上に短い内容…かと思ったら前半の部分が消えてるとかいう悪夢。書き足しましたw
明日!明日も頑張りますからぁ!
明日10月14日も0時投稿予定です。