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テンプレ主人公は偉大だった!?(プロト版)  作者: トクシマ・ザ・スダーチ
テンプレ主人公になっちゃった!?
45/62

剣なぞいらぬ!~斬りたくないものまで斬ってしまうから~

筆がノリノリだったので0時に間に合いませんでした!45話です。

「少し休憩にするか」


 そうコーデリア先輩が口にしたのは、そのあまりにも熱心な指導者っぷりに俺が安易に師事を仰いだことを後悔し始めた頃だった。体感で二時間以上休憩なしで‟構え”の稽古を強要されていたのだ。


「くはっ…!」


 ともあれその一言に修練の途中から形成された緊張の糸がぷっつりと切れてしまったらしく、俺は尻もちをつくようにして座り込み、即座に五体を倒置して寝転ぶ。


 あれれれ、…おかしいな?最初の方は楽しみを見出せていたのに後半はただただ苦痛だったぞ。背中に感じた伝説の感触の記憶は遠く、思い返せば静かだが有無を言わせぬ叱責の嵐ばかり。おかげで剣の‟構え”についてはバッチリだが。


「すまん、私もついつい指導に力を入れすぎたらしい。いや、ここまで音を上げぬ骨のある後輩は今までいなかったが故な。誇っていいぞベルフォード君。君ならばいずれ私の修練の相方になれるやもしれん」


 ちょっとだけ昔のことを思い返すような遠い目をして嬉しそうに満面の笑みでそう言うコーデリア先輩。


 息が乱れまくっている俺は先輩の言葉に頷いて返すのが精いっぱいであった。こんなに喋れなくなるまで何かに打ち込んだことなど思い出せないくらいには前だ。超疲れた。


 というか俺以外にも稽古をつけてやっていた後輩がいたような口ぶりだな。その後輩とやらも大方、今の俺みたいに口がきけなくなるくらい扱かれたに違いない。


 まぁ、今の笑顔が素敵だったのでまた頑張ろうと思っちゃうくらいには俺はチョロい奴なのだが。可愛いは正義だよなぁ?しっかし俺ってば本格的にマゾの素質があっちゃうのかもしれんね。


 それともこの得も知れぬ魅力がヒロイン補正なのだろうか。コーデリア先輩がメインヒロインの一人なのかどうかは知らんが。この世界はモブまで美形だから判断つけられないんだよなぁ。


「しばらくそうして休んでいるといい。私は食堂で何か飲み物でも拝借してくるとしよう」


 返事も待たずにそう言ってコーデリア先輩は退室した。しばらく返事などできそうもないので助かる話なのだが。


 そうして10分も経たぬ内にコーデリア先輩が戻ってきた。ネーシャとフィーネを伴って。


 いやいや、なんでやねん?


「お疲れ様、スレイ。精が出るじゃない。朝から修練に励んでいるだなんて見直したわよ」

「ほんとだよね!さすがはお姉ちゃんの自慢の弟君だね!」

「フィーネにねーちゃん。どうしてここに?」


 すっかり息の整った俺は流暢にそう問い返す。


「いやー、食堂でばったり会ったコーデリア先輩から声をかけられてね?聞けばスレイったらお休みの日の朝なのにお稽古をつけてもらってるみたいじゃない。そんなに早起きしちゃって、さては今日のことが楽しみであんまり眠れなかったんでしょう?」

「ふふ、弟君ってそういうところが可愛いんだよねぇ」


 二人はそんなことを言いながら俺をからかう。いや、単に眠ったのが底抜けに早い時間帯だっただけだし。かなりぐっすりでむしろ普段以上に寝てたし。まぁそれはそれとして、うむ。二人とも悪戯っぽい表情が非常に可愛らしいですな!


「そういうことにしておくよ。早くに目が覚めたのは事実だしな。あ、それで何もやることないから修練所に来たらコーデリア先輩と知り合ったのが簡単なあらましね」

「そういうことだな。そら、ベルフォード君。食堂で水筒いっぱいに水を汲んでもらってきたぞ」


 コーデリア先輩から手渡された水筒は異世界情緒溢れる竹筒状のものでも革製のものでもなく完全に完成された魔法瓶であった。


 技術力の謎は今に始まった話じゃないので頭の隅にその情報を追いやって、渇いた喉が欲するままに水筒の中身を呷る。冷たい水が体中に染みわたるような感覚を覚えた。


「っくはー!生き返るぜ」

「倒れこむほどの鍛錬の後の冷たい一杯は格別だろう、ベルフォード君?これが癖になって私は毎日鍛錬に勤しんでいる面もあるぞ!」

「あ、そうなんですね」


 どうしよう。コーデリア先輩ここまで凛々しかったのに急に残念臭が漂いはじめてきたぞ?あれ、ひょっとしてこれは脳筋キャラとかいうやつなのでは?


「それにしても偶然面倒を見始めた後輩君の姉であるネーシャ君に会うとは思わなかったな」

「そうですね。私たちお互い面識はありましたけどちゃんとお話しする機会ありませんでしたもんね」


 俺の一抹の不安をよそにネーシャとコーデリア先輩が世間話を始める。話をする機会がなかったとは言っていたものの心なしかお互いに親し気な雰囲気が醸し出されている。


「なぁフィーネ、二人はどういう知り合いなんだと思う?」

「ああ、二人ともこの学園の有名人だからね。ネーシャさんは去年入学して以来、筆頭回復系精霊使いとしての地位を盤石なものにして今では全学年の郊外での実技実習のたびに呼び出されるほど重宝されてる才女。コーデリア先輩はまだ学生でありながら学園創立以来過去最多の魔獣討伐数を誇る英傑だからね。お互い知っててもおかしくないし、実技実習の時に傷の手当でもしてあげたのかもしれないわよ」

「なるほどな。……うちのねーちゃんってやっぱりすごい人だったの?」

「そうよ。もしもの時は万人を犠牲にしてでもネーシャさんを護れって国から直々にお達しが来る程度にはすごい人ね」


 途端にフィーネが遠い目をし始める。今の話を聞けばそうなるのも無理はないか。


 そういえばハイセの能力についての話は聞いてなかったな。精霊術で回復をする、ってのはそんなもんか、とスルーしていたが折れた上顎をそう時間もかけずに完治させるんだもんな。冷静に考えるとかなりすごい能力だ。


 毎回昏倒している間に傷が治っていたからあまり実感なかったな。今度どんな風に治しているのか教えてもらおう。


「おっと、話し込んでしまったな。ベルフォード君、ではややこしくなってしまうな。スレイ君、もう少しだけ修練の続きをやろう」

「了解です」


 コーデリア先輩はネーシャとの雑談もそこそこに切り上げてそう言って俺に武器を手渡した。ネーシャと面識ができたおかげもあってか、名字呼びから名前呼びにシフトしたらしい。


 しっかしまた修練か。スレイの身体スペックのおかげで思ったより体の負担は少ないが気が滅入るな。でも強くならないとこの先大変だしなぁ。返事は即答したが気が滅入る。


 そこで何気なしに手渡された武器がさっきまでの木剣とは違うものであることを認識した。それは鞘に収納された剣。鈴木康太郎の人生で初めて握った剣がそこにはあった。木剣の重さが実戦用の剣に似せられていたのか重さはそう大差がない。


「コーデリア先輩、これは……!」

「さっき擦りこんだ構えは覚えているだろう?その構えから試しに抜いて素振りしてみればいい。修練で大事なのはモチベーションを維持することだからな。剣が嫌いな男は少ないだろう?記憶を失って童心に返っているとすれば尚更な」


 ふおおおお!何それテンション上がるんですけど!これはみっちり“構え”に取り組んだご褒美というやつですか!コーデリア先輩ほんと教え上手!師匠の鑑!


「抜いてみろ、スレイ君。何の変哲もない剣だが、その簡素な造りがまた美しいぞ」


 俺は生唾を飲み込んで覚束ない手つきで鞘から剣身を抜き放つ。コーデリア先輩が言うように造りは簡素そのもので“剣”と言われれば真っ先に思いつくであろう両刃の西洋剣だった。


 毎日のように使用されているため、柄の部分は薄汚れて少しすり減っている部分すらあるが、剣身は細かな傷こそあるが良く手入れさており、こう、多感なお年ごろの男には刺激が強すぎるロマンの塊がそこにはあった。


「さぁ、さっきのとおりに構えてみろスレイ君。そして思い切り振ってみろ。剣は君の想いにきっと応えてくれる。武器とはそういうものだ」

「はい!」


 興奮気味に俺は教え込まれた基本の構えをとる。そして抜身の剣を上段に構えた。これでいいのか若干不安になりながらコーデリア先輩の方を伺うと客観的には様になっているのか鷹揚に頷いてくれた。


 完全にギャラリーと化したネーシャとフィーネも目をキラキラさせながら俺を見ている。


 よっしゃ見とけよ!この俺、鈴木康太郎が主人公スレイに追いつく、その一歩目を目に焼き付けとけよぉぉぉ!


「せいっ!」


 俺の空気を裂くような気合とともに振り下ろされた剣身は小気味よいヒィン、という風切り音をなびかせてそのまま虚空を断つ。


 そしてそれは勢いを止めることなく、地面を舐めると同時に“構え”で前に出ていた俺の足にざっくりその剣身を埋めていた。


 ………ファッ!?


「うぉぉぉぉっがぎゃああぁぁああぁぁぁ!!?」

「す、スレイぃぃぃぃ!?ち、血が出てる!すっごい出てる!ドバドバ出てるぅ!」

「スレイ君!?まずい、足を斬っている!ネーシャ君、早く治療を!」

「きゃあああああ弟君!?大変!ハイセ!早く来て!ハイセ!!」


 俺の自身による負傷により室内にいる全員がパニックになるが、ネーシャがなんとかハイセを召喚する。


 痛い!というか熱い!俺は膝の上の辺りの腿にどえらい裂傷があああ!しかも剣は深々と埋まっている!怖いもの見たさで見ちまった!吐きそう!


「なんじゃ。朝っぱらから呼び出しおってから…にいいいい!?スレイが昨日の今日でまたえらい怪我をして!?」

「いいから!ハイセ!早く聖杯出して!」


 ネーシャがハイセを急かすと、ハイセが腰帯に吊っていた杯を引き抜く。そして彼女が何事か唱えると、聖杯の中になみなみと水が張られた。


 血が全く止まらない!そういえば足のどこかって第二の心臓とか呼ばれてるんだったか!?やばい、普通に死ぬ!


「いつもどおり傷に聖水を適量かければたちまち治る!まずは剣を摘出するのじゃ!」


 百戦錬磨の古き精霊の指示は的確かつ迅速で、淀みがない。その言葉に従って、痛みに暴れる俺をコーデリア先輩とフィーネが二人掛かりで抑える。魔術とやらでも使ったのか二人に抑えられた俺の身体は一切動かない。そして、唯一手の空いているネーシャが俺の腿から剣を取り除いた。瞬間、これまでの人生で体験したことのない痛みが俺を襲う。


「ぐぅぅぅぅっをおををぉおおぉぉあああああぁぁぁぁあぁあっ!!!?」

「聖水をかけるのじゃ!」


 ハイセの鋭い一声にネーシャが剣呑な面持ちで聖杯を傾ける。こぼれた聖水が俺の腿にかかる。すると、傷がみるみるうちに塞がり、制服のズボンに裂傷があること以外は元に戻っていた。あれだけ俺を襲っていた灼熱のような痛みも消え足も全く問題なく動く。


「焦ったわ……。そっか、今のスレイにはこういうことが起こり得るのね」

「私も弟君は最初に剣を握った頃からこんな失敗はなかったから油断してたよ。本当にハイセがいてよかった……」

「スレイ君にまだ剣の振り方を教えていなかったのに抜身で使わせてしまった私の責任だな……。本当にすまない!私は指導者気取りの生兵法者だった!」

「ちょっと目を離したすきにこれかの……。妾が過労死する未来を幻視したのじゃ……」


 こうして俺の記念すべき最初の修練と真剣デビューは幕を閉じた。


 あれだな、今回はハイセの能力の詳細を気にかけてしまったのがフラグだったんだな。きっと。あと、これだけは言わせてもらおう。


「剣なんて二度と握ってたまるか!」



本日は遅れてしまい、まことに申し訳ありませんでした!

明日の10月13日も0時投稿予定です!明日は間に合うように頑張ります!

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