ペアを作れとかいうニ〇ラムめいた呪文
37話です。
「さて、余計な時間を取ってしまったが、予定どおり白兵戦を始める。早速だがペアを作ってくれ」
特に感情を含まない様子でギジー教官はそう言った。
出たー、ペア作れっていう一部の人間が超絶困ったさんになる授業体系。まぁ俺は元の世界では我が親友祐司といつもペアを組んでいたし、こっちの世界でもありがたいことにニアという割と四六時中一緒にいるパートナーもいる。全く問題はないな!
ふとあのアジーを筆頭とした三人組はどうなのだろうかと思いそちらの方を見やる。ペア割になるなら一人溢れるからな。さてさて余るのは口の悪い男か、それとも小デブ君か。
「あ、アジーさん。あっしはアジーさん以外はヨイショさん以外親しい人がいやせんのでペアを組まさせていただきやした!」
「俺もこの小汚いくせに金だけは山のように持っている小汚い小デブ以外の相手をするつもりがねぇ。俺のクソみてぇな剣の腕前に合わせてもらうのも悪いからなぁ」
「そんな、ヨイショのアニキはあっしよか腕は立つでしょう。ご謙遜を。あ、というわけで伯爵家できっと顔が広い上に剣の腕も並みじゃないはずのアジーさんはお好きな相手と思う存分打ち合ってきてくだせぇ!」
「え、あ、うん。そうだな、ははは。お前たちの技量では俺の剣は一合も持つまい!しかしうーん、俺と打ち合える剛の者がはたしてどれほどいるか」
取り巻き二人がペア組んでリーダー格のアジーが溢れてるんですが!?
アジーは強気に聞こえなくもないセリフを吐きながらそわそわと自分と組んでくれそうな相手をキョロキョロ探している。
「なら旦那はスレイ・ベルフォードとやりゃいいでしょう。もともと喧嘩をふっかけるつもりでさっきはすごみにいったじゃねーですか。どうぞあのスカしたビチグソみたいなイケメンをけちょんけちょんにしってやってくだせぇ」
「ん、あー、ね。ま、まぁ、今回は仕切り直しというやつだ。うん。ギジーの野郎に水をさされたところだからな。勝負はいずれ次の機会につけてやるとすらぁ!」
ひきつったような笑顔で器用に大口を開けて笑うアジー。そうだね。さっき捨て台詞吐いた相手に勝負を仕掛けるのは気まずいよね。
「はは、そいつはベルフォードの野郎も命拾いしやしたね!次はアジーさんの本気をとくと味わうってわけだ。背筋が凍るってもんですよ」
「そのとおりだぜサイファ。次に旦那に喧嘩を吹っ掛けられた時があのファッキンスケコマシ野郎の最後ってわけだ。次の勝負までに奴が床に就く前にガタガタ震えるさまが目に見えるようだぜ」
「あ、おう。そうな?うん。じゃ、じゃあ俺はペアを探しに行くから。お前らもしっかりやれよ!」
「へい!アジーさん!」
「まかせてくれよ旦那。ゲロのように漢を磨くぜ?俺はよぉ」
取り巻き二人の声援を背に受けながらアジーのペア探しは始まった。挫けずに頑張れアジー!
「アジー君さすがにかわいそうだね」
「ああそうだな。捨てられた子犬のような目をしているな」
すでに仲の良いもの同士でペアが決まりつつあり、アジーが声をかけた生徒全員にすでに相手がいた。
「そうだね。じゃあごめん、スレイ。僕、アジー君とペア組んでくるよ」
「へ?」
「ふふ、スレイなら普段ならこういう時は真っ先に手を差し伸べる人だよね。今回はさっき喧嘩を吹っ掛けられたところだからお互い気まずいだけだもんね!」
言うが早いかニアは可憐な笑みを残してアジーのもとへと駆けて行った。声をかけられたアジーは一瞬喜色満面な表情をしたがすぐにツンとした鼻持ちならない貴族っぽい態度に戻る。需要のないツンデレやめろ。
つーか、あれぇ?なんで俺ペアなしの状態になってるの!?ニアは俺のこと買いかぶりすぎだろ!普通にペアのいないアジーを見て優越感に浸っちゃってましたけど!そんな聖人君子のようなスレイ・ベルフォード君はこの次元軸にいませんでしたけど!?
や、やべぇ…。さっきのアジー状態じゃねぇか。いや、いや。だが俺にはまだ組んでくれそうな知り合いいるし!問題ないし!できればニアがよかったけど全然余裕だし!俺がボッチなんてそんなことにはならんさ。
そうと決まればプランBだ。さーてドジャーはどこだ?すでにペアがいるなら最終手段でジャックもいるぞ!
「ふむ、バグナーよ。お前の技量、測らせてもらうとしよう」
「おうジャック。俺の拳でやけどしても知らねぇぜ?」
「得物は剣だぞバグナー」
ジーザス!ドジャーとジャックが組むとかいう2プランともダメになるパターン!ついてねぇな!今日はちょっと導かれてないぞ俺!
頭を抱え込む間もなく俺以外のクラスメイト全員のペア割が終了した。ひえええボッチだよ!ペア割でボッチになるテンプレ主人公とかそりゃねーぜ!
「む、このクラスは偶数人だったはずだが…。なるほど、一名欠席か。仕方あるまい」
出席簿らしきものをペラペラめくって納得顔になるギジー教官。
「ではベルフォードは私と白兵戦だな。稽古をつけてもらうとしよう」
ひええええ!どうしてこうなった!どうしてこうなった!
俺の内心など知らずギジー教官は厳ついナイスミドル顔に見合う筋骨隆々な腕が訓練用の木剣を握って俺に向き直る。
「お前の技量は噂に聞いている。本気で来てもらっても構わない。俺も本気でいくからな」
ひええええ!この教官に俺が記憶喪失だってこと伝わってないんですけど!ずぶの素人に本気出します発言してらっしゃいますけど!これはさっさと弁解しないとまずいことになるぞ!
「あの、ギジー教官。実は俺は一昨日からですね」
「それでは白兵戦開始ぃ!」
俺の言葉が意味を成す前に教官は開始の合図を出してしまった。途端に周囲から怒声にもにた雄たけびが上がり始める。
「チェストォ!」
「うぉぉぉぉおわぁあぁ!?」
正眼から振り上げられて俺の脳天の辺りを狙って振り下ろされた木剣を俺は真半身になって紙一重で躱す。
あぶなっ!これスレイの身体能力がなければ当たってたじゃん!しかも脳天狙いって下手したら死んでるじゃん!精霊術での回復もあるし何より魔物と戦う前の実践訓練の一環だからか手心のようなものがない!普通に死ねる!
「どうしたベルフォード。何故構えて打ち合わん。それともそれは新しい型か?まぁ確かにそこまで隙だらけに見せられてはかえってどこを狙うか迷ってしまうが」
「話を聞いてくださいギジー教官!俺は記憶…」
「まだまだ未熟かベルフォード。戦場で、特に魔物は会話に応じてくれないぞ!」
ギジー教官は俺の話に取り合わず今度は袈裟斬りを放ってくる。スレイの反射能力と筋力を精一杯信用してその一閃に木剣を打ち合わせる。弾いた!
「ごっふ!?」
弾いたと思った次の瞬間俺の鳩尾に教官の丈夫そうなブーツに包まれた丸太のような足が埋まっていた。そのまま俺は吹き飛ばされ硬いグラウンドの感触を背中いっぱいに受ける。
背中と腹が灼けるように熱い!痛みに縁遠い日本の一般的なオタクをやっていた俺には涙が出るほど痛い。
「ベルフォード。この授業は実戦形式だ。もちろん相手を殴っても蹴ってもよかったのだ」
出来の悪い生徒に呆れるようにも諭すようにも聞こえる口調でギジー教官はそう呟くと木剣を振り上げた。
重い腹部への一撃に朦朧とする視界の端に教官の振るう木剣が迫るのをスレイの反射神経がとらえたが防ごうと持ち上げようとした木剣がギジー教官に踏まれており、頭部に鋭い衝撃を受けて俺は呆気なく意識を刈り取られた。
この世界の人間鳩尾狙いすぎじゃね…!?
新パックレジェかぶりまくりましたwいいことなんですがねw
明日と明後日はひょっとしたら投稿できないかもしれません。できれば0時投稿したいところです。