テンプレかませキャラは三下だった
36話です。
ゼルヴィアス学園の制服は礼服と軍服両方を兼ねている。何が言いたいのかというと座学の授業だろうと運動の授業だろうと同じ服で授業を受けることになるということだ。
つまり、このテンプレ学園ものの世界のお約束で潤いであるはずのブルマはおろか体操着すら着用しないという絶望的な事実があるのだ。
いやぁ、昨日の基礎体力実習で誰も着替えずにそのままグラウンドに出て普通にトレーニングしていた時点で嫌な予感はしていたがまさかテンプレ中のテンプレを原作者が外してくるとは思わなかったぜ。
ただ、運動系の授業の後の汗が冷えることや衛生面のことなど問題視する声が大きくなりつつあり、近いうちに運動時は体操着の着用が許可されるらしい。やったぜ。
まぁとはいえそれも先の話で今の授業、実技鍛錬では授業を受ける生徒全てが学生服に身を包んでいる。そう。憂鬱にも程がある授業が始まってしまったのである。
「これより実技鍛錬を行う。今日は様子見で魔法と精霊術を禁止した白兵戦だ。各自木剣を取り、ペアを組め」
昨日の基礎体力実習の授業でも教官をしていたギジー教官だ。角刈りにカイゼル髭が素敵なナイスミドルだ。しかしそのいかつい見た目に反して今年で24歳とかいうかなり若い教官だというから驚きだぜ。別にミドルじゃなかったね。
俺の愚にもつかない思考をよそに生徒たちが三々五々に実習用の木剣を取りに移動している。俺も取りに行かなきゃな。
「いやー楽しみだなぁ。こんな間近であのスレイ・ベルフォードの剣が見られるなんて」
「このクラスでよかったよな。あの剣聖クラウドにいずれ自分を超えると言わしめた剣技。気になるのが人情ってもんだよなぁ」
やめろ!そこの名も知らぬモブキャラクターA&B。無駄にハードルを上げるんじゃないよ!芸人殺しかお前らは。
「えっと、でもスレイは記憶喪失で剣の使い方は忘れちゃってるらしいんだ」
「そういや一昨日俺もそんな話をチラッと聞いたな」
「マジで?記憶喪失って大変なんだなぁ」
芸人殺したちの言葉にニアとドジャーのフォローが入ると同時に周囲からの視線が生暖かいものに変わる。
ありがてぇ!これである程度俺がへっぽこでも記憶喪失のせいにできる。問題はギャラリーがどこまで許容してくれるかだな。普通の剣術すらなんの知識も技量もないムリゲーなんだが…。
「へー?ってことは今がお前を倒すチャンスだってことか」
そんな声のする方を見てみるとそこにはくすんだ金色の短髪と軽薄そうなニヤニヤ笑いが特徴的な男子生徒が立っていた。もちろんクラスメイトのはずだがあまり印象に残っていない。
そんな彼の後ろにはそば仕えのように侍る中肉中背の男子生徒と低身長だが丸く肥えた男子生徒がいた。三人は威圧するようにこちらを見ている。
「俺はアジー・ノヴィン・レッカー。栄えあるレッカー家の長男にしていずれこの国で最も最強になる男だ!」
「さすがアジーさん!今日も決まってやす!」
「よっ、旦那王国一!今日もクソみてえな口上が映えてるぜ!辺境伯家の次男に身の程知らずにもでけえ口叩ける蛮勇、俺にはとてもじゃねぇが真似できねぇ!」
「はっはっは。そうだろうそうだろう!……褒めてるんだよな?」
「もちろん褒めてるぜ旦那!よっクソ大将!」
「そ、そうか。うん。ならいいんだよ」
……こいつらはコントでもやっているんだろうか。中肉中背の男子生徒の褒めてるんだかけなしてるんだかわからない言動にちょっと納得いかない顔をした軽薄金髪君がなんだか滑稽に見える。
しかしこいつ、アジー・ノヴィン・レッカーだっけか?家名を出す、ということは貴族なんだと思うがここにきて初めて爵位名的なのを持ったキャラが出てきたな。スレイは貴族のはずだが家名と名前の間にアジーのように爵位名(と思われるもの)は入っていない。ひょっとしてスレイよりも爵位の高い貴族なんだろうか?
ひょっとしてまた元の世界とは常識がちぐはぐで辺境伯という位よりも伯爵の方が上なのかもしれない。だが、あのやたら口汚い取り巻きのセリフを鑑みるにアジーはスレイより爵位が低そうなんだが。
うーむ、わからん。
「おい、アジー・レッカー」
声をかけられたアジーが後ろを振り向くとそこには不機嫌そうにナイスミドル顔の男(24歳)、ギジー教官が見つめていた。
「…ギジー教官」
「同級生を相手に闘志を燃やすのは大いに結構。だが学園内では爵位を持ち出して他の生徒を威圧・示威する行為は校則で禁止されている。知らないわけではないな?」
「ふん。教官、俺はそこんとこ納得いってねーんですよ。どうして通行の邪魔になる平民や下級貴族に爵位を示して道を作ってはいけない?俺は貴族として生まれて貴族としての教育をこれまで受けてきた。戦時は民を守るために奮闘し、下級貴族の模範となる。故に平時においては優遇される。それが絶対の基本のはずだ。だというのにわざわざこの学園はその垣根を何故崩して身分の差を消すのか。俺にはわかんねーな」
アジーのセリフに瞑目するギジー教官。その様子を見てアジーは鬼の首を取ったような表情になる。
なるほど、校則で爵位名を名乗ることを禁止されていたのか。それで今まで出会った貴族たちは爵位名を使ってなかったというわけだ。
しかし記憶喪失者や転移者に優しくない校則だな。もっと俺を優遇するような校則を作っておいて欲しいものですな!…まぁそれを想定した校則があったらそれはそれで怖いが。
でもなんでそんな校則が作られてるんだろうか。アジーの精神性はともかくとして言っていることに関しては間違っていないような気がする。高慢ちきな物言いではあるが筋は通っている、と思う。
「ご高説痛み入るぞ、アジー・レッカー。それで?言いたいことはそれだけか?」
だがギジー教官は憮然とした様子でそう言い返した。
「な、なんだと……?」
目に見えてうろたえるアジー。取り巻きの二人はとばっちりを恐れてかいつの間にかアジーのもとを離れてほかのクラスメートに紛れるようにして隠密を図っている。回避スキル高っ!意外と彼らはしたたかなのかもしれない。
「ところでお前はいったいどういう目的でここに来たんだ?ここは栄えあるゼルヴィアス学園。国と王の名を冠する国防を担う次代の若者を育成する軍学校だぞ?お前は作戦の途中で配属された平民に『守ってやるから下がってろ』と言うのか?爵位の低い貴族に『俺を手本にしろ』と言って見学させるのか?平民と貴族間の連携に無駄な垣根が出来るため爵位名は伏せられ、対等な関係であるようにとこの校則は存在する。納得はできたか?」
ぐうの音も出ないのかアジーは言葉につまるが、やがて顔を真っ赤にしてギジー教官に言い返した。
「だ、だったら最初から平民は募集しなければいい!そうすればそんな窮屈な校則は…」
「今のゼルヴィアス王国の情勢をわかった上でそんなことを言ってるのか?アジー・レッカー。魔獣との戦いは今は善戦気味であるとはいえ未だに拮抗状態と言って差し支えないレベルなのだぞ。そして最前線では日に日に死傷者が出る。殺しきれなかった魔獣と傷ついた兵士、どちらが回復が早い?人手が足りてないのだ。ここまで言えばわかるな?アジー・レッカー。この学園に意味のない、必要ない校則は一つとして存在はせんのだ」
そういう理由か。確かに戦時に戦力が足りなければ民間人たちからも徴兵をするというのは元の世界でも度々あったことだしな。そんな中で貴族だ平民だと細かいことを気にしているようでは連携も拙くなり、結果的にお荷物部隊が出来上がる。そしてそんなお荷物は最前線では通用しない。
戦力は必要だが、作戦に身分差は邪魔なので学生の時点から垣根を崩しておくと。なるほど理にかなっている。
しかしそうか。やっぱり最前線は危険だな。そしてこの国も見た目ほど平和じゃないってことだ。やだなぁ。平和な国に帰りてぇ。
アジーの破れかぶれの反論もギジー教官が容赦なく潰す。とても24歳とは思えない迫力に周囲の生徒たちも生唾を飲んで様子を見守っている。
「ふ、ふん!これで勝ったと思うなよ、スレイ・ベルフォード!」
三下よろしくな捨て台詞をなぜか俺に向けて発してアジーは踵を返して校舎へと去っていった。
…と思ったら今は授業中だったことを思い出したのかまたグラウンドに戻ってきた。隅の方にたたずんでいると取り巻き二人が何事もなかったかのようにするっと合流した。
なんか、こう、嫌みな奴だが憎めない奴だな…。
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そういえば本日は某ソーシャルカードゲームのアップデート日ですね。新カードが楽しみです♪私の7500ルピがうなりますよー!(。-`ω-)