剣聖クラウドって誰だよ!
35話です。
「昨日はマイシャちゃんのお見舞いにも行ったのね」
「ああ。まぁね。さすがは俺の妹ちゃん、やっぱり美少女だったぜ」
「スレイのどこがさすがなのかは知らないけどマイシャちゃんは可愛いわよね」
翌朝、昨日と同じように寮の前で待ち合わせをしていたフィーネが開口一番そう言い出した。彼女の傍らにはネーシャ、俺の後ろにはニアがいる。今日は俺たちの方が早く支度を済ませて待っておいた。俺は二の轍は踏まんのですよ!
異世界生活三日目とあってすっかり馴染んだらしいスレイの体は俺の思い通りに動き、すこぶる好調である。いやぁいい朝だね!
それにしても今日はフィーネのツンがキツめだな。女の子の日かしら?
「そういうフィーネは昨日はなんの用事があったんだ?」
とりあえずあいさつ代わりにネーシャを俺はハグしながら俺はそう問い返した。
「ナチュラルに抱き合わないでよ…何かと思うじゃない。…昨日はその、まぁ女子会みたいなものよ。それに参加してたの」
「へー、フィーネって友達いたんだな」
「だからいるって昨日から言ってるじゃない!その勝手な私のイメージ像やめてよね!」
そうやってムキになるところとか結構怪しいんだが。しかしスレイの親衛隊の隊長なんてポジションにいたはずのフィーネがスレイのそばを離れて行動したのだ。相応の用事があったに違いない。
もしかして親衛隊同士の会合だったりしてな!…ありそうで困るわ。
「あたしのことはいいのよ!で、マイシャちゃんはどうだったの?元気だった?」
「ふっふー、マイシャちゃんはなんと来年にはゼルヴィアス学園に入学できるそうです!」
ハグを解除してネーシャがどや顔で俺からセリフを奪う。
「本当ですか!すごい!マイシャちゃん頑張ったんですね」
「私の自慢の妹だからね!」
「そうですね。マイシャちゃんすごいなぁ。思えば呪いを受けてすぐの頃は腕の力だけで這って移動してたくらいの負けず嫌いでしたもんね」
ここにはいないマイシャの健闘を称えるネーシャとフィーネ。てかマイシャってば這ってたのか…。根性ありすぎだろ。
「ということは来年は僕たちがマイシャちゃんの先輩になるってことだよね?どうしようスレイ、今から僕緊張してきちゃったよ」
昨日は途中まで自己紹介のタイミングを逃していたニアだったが、あの後は無事にマイシャとのお目通りがかなう形となり普通に友達になっていた。ニアも結構コミュ力あるよなぁ。マイシャとはツッコミポジで気が合ったのかもしれない。
まぁついでにネーシャ、マイシャ、ニアはその、胸部装甲の厚みが似通っている部分もあるし。スットン共和国のナイチチ族みたいな仲間意識が生まれているというのが俺の持論である。結構いい線言ってると思うんですよ!(迷推理)
ちなみにフィーネは結構ある。俺の見立てだとC~Dカップあたりと見た。
「今から緊張してどうすんだ。まぁ来年入学して来たら俺たちは先輩として妹ちゃんを導いていこうぜ」
「そうだね!じゃあ僕たちもマイシャちゃんに誇れるような先輩になろう!」
「おう!」
心の中でセクハラを受けていることも知らず俺の言葉にいい笑顔でそう応えてくれるニアに俺はサムズアップを返す。
でもあれだな、昨日の思考の焼き増しになるがやはり勉強やら鍛錬やらを頑張らねばならんな。昨日一日学園生活を送って実感したがとにかく俺にはこの世界の基礎知識が足りてない。
今日にでも図書館に寄ってスキルアップをしなければ俺はどんどんみんなから置いてけぼりにされるだろう。それはこの身体の持ち主たる「スレイ」にも迷惑がかかることになるのだし、憑依者としては最低限の礼節をもってその辺りは取り組まねばならない。
頑張らなければ。なにせ留年でもしてみろ。妹ちゃんと同級生になるんだぜ?それはさすがにやべぇよ…。兄としての威厳がベロンベロンに剥がれちゃうよ。
「そういえば今日は実技鍛錬の授業があったっけ。フィーネさんのクラスは昨日やったんでしたっけ」
思い出したかのようにニアがフィーネにそう問う。実技鍛錬?いやーな単語が列挙してるんですが…。
「うん。昨日は対人訓練でペアを組んで白兵戦をやったわよ。精霊術も魔法も禁止してだけど」
「白兵戦かー。僕ちょっと苦手なんだよね」
白兵…戦…だと…。白兵戦ってあれか。向かい合って剣で切りあうあれか。いや、軍学校だからあってもおかしくはなかったがしかし…。
確かに俺はスレイの身体に馴染みつつある。初日みたいにつんのめって転ぶことはなくなった。しかし今の状態はスレイの身体能力を俺が使えるだけで彼が身につけていた技術、例えば剣術なんかはすっぽり抜けているのが俺の現状だ。
身体ができていても剣は素人。もちろん剣に限らず技術を必要とする全ての武器・兵科が素人である。
憑依前、日本にいたころの技術はもちろん使える。でも平和な日本でのほほんと育ってきた俺である。武術の類はからっきしである。剣道部は仮入部して一日で辞めるほどの腕前だ。とても誰かとチャンバラできる技量はない。
あれ?ひょっとして俺って今、結構ピンチなのでは…?
「な、なぁニア。その実技鍛錬って何限目の授業だっけ?一限目ではなかったよな?なかったと言ってくれ」
「ええ?いや、一限目だったと思うよ。朝から体を動かすのは気が滅入っちゃうよね」
詰んでやがる!どうすんだこれ…。いつかは戦闘なりで「スレイ」の今の戦闘力は周知されることはわかってたけど全く準備期間がないってのは想定外だったぜ。
いや、でも昨日の朝のホームルームの時点で俺が記憶喪失だってことは少なくとも教室内では周知されている。でもまさかそのせいで戦闘力がガタ落ちしている、なんてところまで想像できる奴が何人いるだろうか?
一昨日はドジャーにそれとなく記憶喪失の度合いを剣を振るということに関してたとえ話をして見せたもんだが。さて、どうしたものか…。
「あ、でもスレイの実力なら汗一つかかずに余裕で乗り越えられそうだよね…ってどうしたのスレイ?なんだか顔色が悪いね?今朝のハムエッグが悪かったの?」
「あ、いや、そのな?俺ってば剣の振り方も忘れてるっつーか、まともに戦えないっつーか」
「え、スレイ…まさか…そんなことまで忘れちゃってるの?」
はい。というかそもそも剣なんて持ったことありません。竹刀を一度だけ握ったことがあるくらいです。
今日までで一番近くにいた彼女でさえ俺がヘボヘボになっているという想像に至っていないわけだが、教室内でそこまで考えてくれる思いやりのある人って何人くらいいるんですかねぇ…。
ドジャーはそれとなく触れてるから確定として、あとはジャックが一番期待値が高いかな…。まさか急に学園までの道のりが憂鬱になるとは思わなかったぜ。
「何の話をしてるの?」
未だに驚愕の表情が治らないニアにフィーネが話しかける。ネーシャとの会話はひと段落したのかネーシャもこちらに向き直っている。
「いや、実はな?どうも俺は剣の使い方も忘れちまってるらしいなー、なんて話をだね?」
そこまで言うとフィーネもネーシャもピシッと石のように固まった。
「スレイ、…それって剣聖クラウドに『いずれ我を超える剣』とまで言わしめた剣術がすっかり使えないってこと?」
苦笑いがひくついているフィーネにそんなことを言われる。
誰だよ剣聖クラウド!なんでスレイはそういう余計な逸話をたくさん残しちゃってるの!ふざけんな!俺にどうしろってんだ!というかもうそろそろスレイの基本設定の量が盛りまくりの会長を越えつつあるんですけど!なんなら越えてるんですけど!こんなところでインフレ加速させられても困るんですけど!何とかしてくれ原作者ァ!
俺の心の中の叫びはもちろん誰にも届くことはなかった。俺、ちゃんと進級できるんですかね…。
なんとか0時に間に合いました。もしかしたら今後投稿できない日もあるかもしれないですが何卒寛大な心で堪忍してくださいw
明日も0時投稿予定です。