テンプレ姉妹は偉大だった!?
33話です。
「意外に早く診療が終わったな。どうする?この辺ちょっとぶらついてみたりする?」
記憶喪失(自称)なんてそこそこの大事で説明やらなんやらで色々時間がかかるものだと思っていたが案外さっくり終わってしまったので次の汽車の到着時刻まで時間がある。
この王国病院の近くには見舞い人のためなのか食事処や雑貨屋、ギフト店に花屋まである。院内に入る前だけでそれだけの店舗を見たので少し足を伸ばせばもっと別な店が見つかるかもしれない。
軽いデート気分でニアとネーシャの二人を誘ってみる。
「弟君、そのお誘いは嬉しいんだけど今度にしよう。せっかく病院に来たんだしマイシャちゃんに会いに行こうと思うの」
マイシャ?誰だろう。新キャラか?
「ネーシャさん、マイシャちゃん?っていうのは誰なんですか?」
ニアが俺の聞きたかったことを聞いてくれる。
「ああ、マイシャちゃんは私と弟君の妹だよ」
あっぶねー!ニアってばマジファインプレー!
今の俺は断片的に記憶喪失という今後やりやすい設定を盛り込んでいるわけだが、俺の意識がこの世界に漂着した時に淀みなくネーシャの名前を呼んでいる。もし今、ニアが問いかけるより先に俺がそう質問していたらネーシャの俺への好感度はダダ下がり、さらに猜疑心も大きく抱くことになっただろう。
まぁ当然都合よくその部分だけ記憶喪失でした、としらばっくれることはできるので最悪の事態はないはずなのだが、悪印象は間違いない。今後ネーシャの力を借りることになったときに尾を引く可能性もあった。いらぬ地雷を踏むところだった。
やれやれ今のは突然飛来した手りゅう弾並みには危なかったぞ…。というか妹は入院してたのか。ジャックはその辺話してくれてなかったな。知らなかっただけかもしれんが。…いや、でも今後のことも考えて今度ジャックには俺の両親や近しい関係者のことを教えてもらおう。何を要求されるかわかったものじゃないが…。
「え、妹さんはひょっとして入院しているんですか?」
「そうなの。私よりも二つ下、弟君よりも一つ下の妹なんだけど昔かなり力の強い魔物に呪いを受けちゃってね、それからずっと入院してたんだ」
そういう理由があったのか。しかし病弱妹キャラか。これまたテンプレなキャラだな。
「でもネーシャさんの聖杯の精霊は回復系統の精霊の中でもかなり上位の精霊でしたよね?それでも駄目だったんですか?」
ああ、ネーシャの精霊はそういえば回復系統だったか。昨日の決闘で俺が会長の一撃でKOされているときに治療のための薬草の効力を上げてくれたとか言ってたか。
「私が聖杯の精霊、ハイセと契約したのはマイシャちゃんが魔物に襲われたことがきっかけだったの。マイシャちゃんを癒せる精霊を願って喚びだしたのがハイセだった…んだけど契約に時間を取られすぎてマイシャちゃんは完全には治らなかったんだ」
ネーシャは過去を振り返っているのか少し遠い目をしていた。
「でもあのまま放っておいたら妹ちゃんはかなり危なかったし、何もしないなんて選択肢はなかった。私的には最良の選択肢を選んだつもりだったよ。だから後悔はしてない。でも、次に私に近しい人がそんな事態になったときに備えて私はもっと力のある精霊術師を目指してるんだよ」
「ネーシャさん…」
「ねーちゃん」
ニアは自らの想いを語るネーシャに心を打たれたのかその目には尊敬の念が宿っているようだ。
いや、きっと俺もネーシャにそんな視線を送っているのだろう。ネーシャってばマジ聖母。マジ尊い。この偉大な姉に見合う男に、ってのはまぁ鈴木康太郎の魂の入ったスレイでは厳しいだろうが目指すのは自由だよなぁ?
「スレイ」に身体を返す時が来るまでは及ばずながらネーシャを見守ってあげたい。そう思った。
「えへへ、なんか長々と喋っちゃったね。ほらほら二人とも、マイシャちゃんに顔を見せてあげに行こうよ!」
照れ混じりにネーシャはそういうと手招きしながら上階につながる階段の方へ駆けていく。
「おや、お嬢さん。あまり病院を走り回ってはいけませんよ?」
「あ、ご、ごめんなさい」
…駆けた先を歩いていた老紳士然としたお爺さんに優しく叱られる姉の姿がそこにいた。
締まらねぇな!でもそんなネーシャが俺はめっちゃ好きだ。
☆☆☆
このスレイの妹、マイシャの部屋は三階の7号室にあった。
「ここが妹ちゃんの部屋だな」
「そうだよ。弟君は最後に来てからもう一年くらい経ってるんじゃないかな」
「え、そうなん?」
マジか。もっとマメに顔出しとけよスレイ。まぁでもスレイの実家は東の国境、つまり端っこだって話だし、この「中央」たる王国病院までの移動手段が馬車なのを考えるとなかなか来れるものじゃないのかもしれないな。
「だからマイシャちゃんびっくりしちゃうかもね」
ふふふ、とちょっと悪戯っぽく笑うネーシャ。いやぁ、尊い。この笑顔でいったい何十人魅了してきたのだろうか。
「えっと、僕は外で待っていた方がいいのかな?」
遠慮がちな声色でニアが申し出る。
「大丈夫だよニア君。マイシャちゃんはそんなの気にする子じゃないから」
言うが早いかネーシャは病室の引き戸を開けて、「マイシャちゃん入るよー」と事後承諾もそこそこにずけずけと入っていった。
…やはりこの世界にはノックの習慣がないのか?まぁいい。俺も続くとしよう。
「あぁ、お姉ちゃんいらっしゃ…い?」
そこにはネーシャと同じような亜麻色の髪を肩あたりで切りそろえられた、空色の綺麗な瞳を持つ、スレイより一つ年下にしては幼さがにじみ出るあどけない印象の女の子が、…下着姿からパジャマを着こむ最中だった。
「やっぱ俺ってば導かれてるなぁ!」
「お、お兄様!?そ、その、見ないで!?っていうかお姉ちゃん!お兄様が来ているのならそう言ってください!あと百回言っても直らなかったから最近言ってませんでしたけどノックくらいしてください!お家じゃないんですから!」
ノックの文化あるんじゃねーか!ノックしろよネーシャ!でもグッジョブ!眼福であるぞ!
マイシャの下着たるブラは可愛らしい小さな花柄が等間隔に散りばめられているものだった。個人的な意見を述べさせていただくと清楚な感じでとってもグッときます…!
「ど、どうしたのスレイ。入り口で立たれると僕、中に入れないんだけど」
「まぁ待てよニア。君が今入ってくると余計これはこじれるぞ」
「え、どういうこと?やっぱり僕、邪魔だった?」
「いやな?簡単に言うと俺の目の前には昨日のニアとの初対面の時と同じ風景が映っているんだよ」
「ああ、なるほど。だったら僕は入らない方がいいね。…じゃなくて!じゃあスレイも早く外に出なよ!?」
ノリツッコミのようなものをニアにされて俺は病室から引きずり出された。
もう少し見ていたかったが仕方ないね。また次の機会は来るさ!
俺は次なるラッキースケベに期待を膨らませて笑みを浮かべるのだった。
ニアからはジト目で睨まれたがそんなのは俺にとってご褒美でしかなかった。ラノベの世界ってええなぁ!
明日も0時投稿です。
一話当たりの文字数が徐々に減りつつありますが、なんとか3000文字くらいを目指して区切りのいいところで終わらせています。ご了承いただければと思います。(; ・`д・´)