メガネロリ部門最萌大賞
29話です。
マグロ丼、美味しゅうございました。昼休みの方針を決めた俺たちは食事を終えると一路精霊学実験室へと歩みを進めていた。先導はもちろん学園の内装をある程度知る上級生のネーシャである。
「精霊学実験室には今まで用事なかったから行ったことなかったけど移動教室で何度も通り過ぎてるからね。場所はバッチリだよ」
「それは頼もしいな」
こっちこっちーという感じに手を引っ張られながら歩く俺をすれ違う人たちが嫉妬やら奇異の目線を向けてくる。もちろん嫉妬の目線は男子からのものだが、やはり学園で手をつないで歩くみたいな光景は珍しいのかも知れない。
「フィーネさん。今朝から思ってたんだけどあの姉弟、仲良すぎない?」
「昔からネーシャさんの方がスレイにべったりでね。それでもスレイがお年頃になった辺りからはスレイからそれなりに距離をとってたんだけどね。…記憶喪失の反動からか昨日からお互いに遠慮がなくなってるわ」
おっとこんな近くにも奇異の視線を送る人たちがいたぞ。いや、姉弟だしこのくらい普通さ。鈴木康太郎には姉なんていなかったが世間一般でもきっとそうさ。間違いない。大体姉弟仲が良くて悪いことなんてないだろうに。
あ、そうだ。忘れないうちに打診しとくか。
「ところで週末なんだけどさ、ニアのメガネも選ぶことになったから一緒してもいいかな?」
「ああ、そう言えば教室でちらっと聞いたわね。もちろん私はいいわよ」
フィーネにはなんとなく難色を示される予感がしていたが杞憂に終わったようだ。ひょっとして遊びに行くのにメンバーが増えるのは「スレイ」の時から慣れっこだったりするんだろうか。あり得そうで困る。
「お姉ちゃんもOKだよ。賑やかな方がいいもんね」
よしよし。美少女三人を引き連れて遊びに行けることになったぞ!週末が待ち遠しいぜ!しかし両手に花、を越えるとなると何になるんだ?3人だから、3輪…うーむいい言葉が思い浮かばない。いっそ3人以上の女子を引き連れる場合は全部「花束抱え」という表現で括るのはどうだろうか?あ、なんか良さそう。
「なんかスレイって女の子と遊ぶのに慣れてるんだね。昨日から記憶喪失なのに」
どうでもいいことを考えているとニアがなんかするどいことを言ってくる。
「きっとこの身体に染みついてるのさ。女の子と遊ぶの楽しいからな。ニアにも誘い方をレクチャーしてあげようか?」
「いや、いいよ僕は。女の子を誘うの慣れてるし」
ニアは言ってから自分の失言に気づいたらしくハッとした表情になった。
今の発言はいけませんねぇ…。性別の事情を知っている俺ならともかくとして他の人が聞くとニアはさぞかし小悪魔系美少年に映ることだろう。しかも線の細い美形からの肉食発言。受取手次第でメロメロにもなるし引かれたりもしちゃうだろう。
「だから私はスレ×ニアでニア君がヘタレ誘い受けとかしちゃうのが至高だと思うんですよ」
「ふおおお…それはちょっとドキドキするね!でも弟君が俺様系で最後まで押せ押せっていうのも捨てがたいと思うの」
「どちらを主軸にしたお話しにするかで視点が変わりますね!ネーシャさん私楽しくなってきちゃいました」
「フィーネちゃんの着想に私はいつも驚かされてばっかりだよ…!」
しかし俺の心配は杞憂に終わったらしくネーシャとフィーネは二人で別の話題で盛り上がっているらしかった。内容は…ちょっと何言ってるかわからないですねぇ…。
「聞かれてなかったかな?助かったー…」
あんまり助かってはないかな。ニアは彼女らの妄想のおもちゃにされているとも知らずにほっと一安心という表情をしている。ところでニアはBLとか興味あるんだろうか。ちょっとだけ気になったが、BL談義が出来る見た目線の細い男子ってどうなんだ…。是非ニアには純粋なままでいて欲しい。
「はい到着。ここが精霊学実験室だよ。教室二部屋分ぶち抜いてるからそれなりに広いって噂だよ」
他愛ないことを考えていると件の精霊学実験室に到着した。ポケットから紹介状を取り出していつでも相手に渡せるように準備しておく。これでOKだ。
「よし、じゃあ入りますか。たのもー!」
勇み足気味にガラガラと引き戸を開けて入る。俺の後に3人も実験室に入り込んだ。するとまず、部屋いっぱいにキャンディを敷き詰めたような甘い匂いがした。部屋はネーシャが言っていたとおり教室二個分の広さがあるらしく奥行きがかなりある。しかしテーブルに収まらなかった書類や、ビーカーやメスシリンダーといった実験器具が床にも乱雑に転がっており、なんだか狭っ苦しく感じる。
そしてその散乱地帯の中央辺りにこの部屋の主はいた。場違いに修道服を着込んだ嫋やかな女性を侍らせて、背の高い長椅子にぬいぐるみのように腰掛けたどう見ても採寸のあっていないダボついた白衣を着た背の低い少女が声の主である俺の方を向いた。外見年齢10歳くらいだろうか。目の覚めるようなプラチナブロンドの髪に綺麗な碧眼、顔立ちは身長に比例して幼い。そして、メガネをかけていた。
…鈴木康太郎、メガネロリ部門最萌大賞が決まった瞬間である。
ぱ、パーフェクツ!!ドストライクなんですが!!?
「ぐはっ!?む、胸が苦しい…ここまで完璧な存在を前にした驚きに、畏れ多さに、俺の心の臓が誤作動を起こしたというのか!?これが有終の美…?」
「何を言ってるの弟君!?」
俺の意味不明な発言にネーシャがツッコミをいれるが俺にそんな余裕はない。これはいけない。あまりの可愛さ、その暴力的な父性愛にも似た何かが沸き立つことによって「スレイ」の身体を間借りしているという自重、その理性のタガが外れてしまいそうだ。具体的には今すぐに抱きしめてあの可憐なご尊顔を撫でくりまわしたい。
今まで自重なんてしてたかって?ばっかお前、してたからあの程度で済んでたんだぜ。しないとどうなるかというと、この外見年齢10歳辺りのこの娘に本気で交際を申し込む上に手段を選ばなくなります。
とりあえずあれだ。原作者と絵師さん、グッジョブ!!
「なんだかにぎやかな人たちがきちゃったです」
鈴の音のような声でそう呟いた究極生命体は手にしていた実験器具をテーブルに置くと、「おろしてー」と言う。すると侍っていた修道服の女性が「はいはい」と言いながら究極生命体の両脇に手を差し込んで背の高い長椅子から床に降ろした。そうだね。その可愛らしい足じゃその椅子には一人で座れないよね!
「はじめまして、だよね。わたしヴァネッサ。ヴァネッサ・ヘルムントです!精霊学の権威で、はかせやってます!8さいです!こっちはわたしの精霊のリコラ。よろしくね!」
「光の精霊のリコラです。どうかお見知りおきを」
二人は敬礼してにこやかにそんな挨拶をしてくる。可愛い。なんだこの生き物。しかも10歳行ってなかった。
「それで、あなたたちはだれですか?今日のご用時はなぁに?」
俺を含めた全員がハッとして我に返る。あまりの愛らしさに全員がスタン状態に陥っていたのだ。
「あ、あぁ。俺はスレイ・ベルフォード。この優しそうなお姉ちゃんがネーシャ・ベルフォードでこっちの可愛らしいおん…なの子にも見える男の娘がニア。で、そこのツンデレっぽいのがフィーネだ。よろしくな」
「やだ弟君ったらお上手」
「今、僕の性別間違えかけなかった!?大丈夫!?」
「ちょ、私の紹介なんか雑!」
みんながなんか言ってるが気にしない。
「あ、お兄さんがスレイさんなんですね!キャッシーちゃんから聞いてます!紹介状はありますか?」
「あぁ、紹介状な。あるよ。…キャッシーちゃんって誰?」
「お兄さん」という響きに言いしれぬ感動を覚えながら俺は紹介状を手渡しながら問う。
「従姉のキャサリンお姉ちゃんです。この学園で生徒会長をやってます!キャッシーちゃんって呼んでね、って言われたからキャッシーちゃんです!」
どうやら会長はこの娘と従姉でキャッシーちゃんと呼んでもらって楽しんでいるらしい。実にけしからん。俺も是非あやからなくては!
「なるほど。会長さんのことだったか。じゃあ俺のことはお兄ちゃんって呼んでくれよな!」
「はい!スレイおにいちゃん!」
「…もう俺ロリコンでいいわ」
「なにか言いましたか?スレイおにいちゃん」
「ナンデモナイヨー」
あやかった結果、俺に新たな属性萌えが追加されましたとさ。ヴァネッサ・ヘルムント、恐ろしい幼女やで…。
次話はまた明日の0時です。