遅刻少女
24話目です。ちょっと短めです。
「てか同志って何だ」
このジャック・ジェラードという男は今日が初対面だというのに一体何の同志だというのか。もしかしてこいつもメガネ萌えなのだろうか?
「頭がデンプンの原料になる植物のように固い女を共通の敵としているのだ。これを同志と呼ばずしてなんと呼ぶ」
「あぁ、そういやあんたじゃが子の心の手帳のランキングで一位になってるんだったか」
「不本意ながらな。というかその言い方だと周囲からポジティブな意味にとられるではないか。ごめんだぞ、あんな処女膜まで固そうな女は」
「処女まっ…!?」
ハートも身体も乙女なニアがいきなりの下ワードに大げさに反応する。でもジャガイモ頭という単語でエイジャが真っ先に思い浮かぶ人間なんてそういないと思うの。
「も、もう!いきなりなんて話してるのさ!というか二人ともエイジャさんを話題に出す時こき下ろさないと済まないルールでもあるの!?」
「ある。それが礼儀というものだぜニア」
「然り。あやつを語る際に必要な儀式のようなものだ。しきたりや礼儀は煩わしいが何かと重要だぞ?セルリアン」
「礼儀欠きまくりだよ!?そんなさも当然みたいに言われても全然納得できないよ!?」
「セルリアンはからかい甲斐があるな。ベルフォードよ」
「だろう?ジャック。うちの自慢のルームメイトよ」
「ジャガイモをけなしてるのかと思ったら僕がからかわれていた!?」
ジャックと二人でニアと遊んでいると視界に見覚えのある女生徒が入ってきた。俺につられてジャックとニアもそちらに目線が動く。
「これはミッシェル・メライソンではないか。今日は遅刻せずに済んだみたいだな」
「あ、ジェラード君。おはようございます。昨日の教訓を活かしていつもより鐘三つ分早く寮を出ましたからね。なんとか遅刻せずにつきました」
寮って女子寮のことだよな…?今日俺が通ってきた通学路でも片道で鐘一回も鳴らなかったんだが。牛歩か?牛歩で登校してきたのか?それともあそこ以外に寮があるのか?
「学園から寮まで8往復はできる時間を片道に費やすかメライソン。『時は金なり』に真っ向から勝負を挑んでいるな。その反骨心や良し」
「ありがとう。私のこと褒めてくれるのジェラード君くらいですよ」
「褒めてはないのだがな」
処置無しとため息混じりに諸手を上げるジャック。ミッシェルと呼ばれた女生徒はそれには気づいてないらしい。天然なのだろうか。
さて、お気づきだろうか。この女生徒、昨日の決闘の件の時の入学式に遅れてきた彼女である。ここにいる、ということは2組の生徒だろうか。
「時にメライソンよ。お前の組み分けは1組のはずだが何故ここにいる?」
「あれ?ここって1組じゃなかったんですか?」
2組じゃなかった。
「1組は隣だ。いいかメライソン。その扉を出たら左の教室だ。右ではないぞ」
「わかりました。ありがとうございますジェラード君」
ジャックの助言を受けて教室を出るミッシェル。そのまま左を向いたところで「えーと、左の教室。右ではありませんでしたね」と呟いて教室に入った。もちろんそこは2組である。
「ジャック…これは一体…?」
「同志ベルフォードよ。メライソンは心根はしっかりしているのだがこう、妙な失敗とおとぼけで常に皆から一歩遅れる奇特な才能の持ち主だ。この吾輩にとって数少ない苦手な相手と言えるであろうな」
苦虫を食んだような顔をするジャック。よほどそりが合わないんだろうか。
左を向いた後に左の教室に入るとか予想出来ないやつだわ。睡眠時間、足りてるんだろうか?
「あれ?どうして2組に戻ってきてしまったんでしょう?」
お前ループしてね?と言いたくなる光景である。
「ベルフォードよ。吾輩はちょっとこの壊れた羅針盤のような女を1組に放り込んでくる。しばしゆるりとしていてくれ」
俺の返事を待たずにジャックはミッシェルの首根っこをひっつかんで教室の外へ引きずっていった。ひょっとして面倒見がいい奴なんだろうか。
「濃い、連中だな」
「スレイやドジャーより濃い人なんてそういないと思ってた時期が僕にもありました」
お前も十分濃いよ、とは言うまい。ニアがフラグ回収をしたところでジャックと入れ違いにこれまた見覚えのある赤黒い髪の男子生徒、ドジャーが入ってきた。噂をすれば影である。
「およ?お二人さんもう来てたのか」
「おはよう。ドジャー。ぼくらもさっき来たところだよ」
「あぁ、すまんな。姉と幼なじみとの先約があったもんでな。アミーゴも誘おうと思ったんだが部屋の番号聞き忘れてて断念した」
「そいつは惜しいことをしたもんだぜ!姉って言ったらネーシャ先輩だろ?あの美人で面倒見のいいって有名な」
「噂どおり美人だったよ」
「くはー、マジかよニア!俺も近くでご尊顔を拝みたかったぜ!」
ニアからもうちのダメ男製造器は美人として認識されているらしい。ネーシャとニアは今朝だけで結構親しくなったように見えた。ナイチチ族として通ずるところでもあるのだろうか。
「そんな噂あるの?まぁ美人で面倒見がいいのは事実だな。でもあげないよ?」
「そう言うなよ兄弟。ほら、俺ら昨日兄弟になったじゃん。なら姉の占有は厳罰だと思うんだよ。ちょっとくらい俺に気を回してもらってもいいじゃんよ?」
「いきなり人の血縁にグイグイめり込んでくるなアミーゴ。まぁねーちゃんが誰に構うかは自由だから弟扱いしてもらえるように頑張れば?」
「マジか兄弟!スレイってばマジ兄弟!」
「せいぜい敬えよアミーゴ。仮に俺の誕生日が発覚してドジャーの方が先に生まれていたとしても弟扱いするからな」
「サンキューアニキ!」
「なんかスレイって会話の主導権握るの上手いよね。僕も見習った方がいいのかな」
次話は17時に投稿予定です。